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幕間 ―まだ見ぬライバルたち-

 ミスティがマジアスに向けて特訓をしている間――。

 リリスヴェール魔法学校のあちこちでは、大会に向けての準備をする魔法使いたちがいた。


 ***


 学校の裏にある山の中では、異国の白装束に身を包んだ女剣士がいた。


「ナツメ。今回もマジアスはひとりで参加するのですか?」

「無論。拙者にとってマジアスとは学友たちと覇を競い合う戦場いくさばにござる。戦いにおける高揚、興奮、そこでしか得られない心沸き立つ時間。そのひと欠片も他人には渡したくないでござる」


 言いながら剣士は東の大陸に伝わる魔法剣――妖刀と呼ばれる金属の塊を振り抜いた。

 ぶわっ!! と風が渦巻き、周囲の葉っぱたちが盛大に暴れる。

 鳥たちが一斉に空に羽ばたき、森が刹那的に騒めいた。


「相変わらず戦うのが好きですねぇ。怪我はしないように気をつけてくださいね」

「承諾しかねるでござるな。いざ戦いが始まれば拙者の頭の中は、どうすれば目の前の敵を斬れるか、その1点のみに埋め尽くされよう。怪我の心配は二の次にござる」


 ちん、と剣を鞘に戻す乾いた音が響き――。

 白装束の剣士は空を見上げながら呟いた。


「楽しみでござるな。此度こたびはどのような出会いがあろうものか、今から心待ちにござる」


 ***


 錬金塔――錬金術を専攻とする生徒たちのために建てられた塔の1室では、ぐるぐると大鍋を掻き混ぜるひとりの魔女がいた。


「うひひひっ、こいつぁヤバい薬ができたねェ! 早く誰かに試したいところだ!」


 鶏の首を絞めたかのような甲高い声で興奮を叫ぶ魔女は、ドロドロとした薬を柄杓ひしゃくで掬い、透明な瓶に次々と詰めていく。


「しかし誰に試そうか? こないだ、そこらへんの生徒に無差別に使ったら大目玉を喰らっちまったからねェ。教員連中と敵対するのは避けたいところだが……」


 と、そこで魔女の目にそれが映る。

 調合書の束に紛れた告知紙――マジアスの開催を知らせるその紙を。


「そうか、大会中の事故ってことにしちまえば怒られることもないかもしれないねェ。こいつは名案だ。……プルート! プルートはいるかい!?」


 魔女の声に呼ばれて部屋に入ってきたのは、綺麗に身嗜みを整えた白衣の少年だ。


「なぁに、姉ちゃん? もう薬の実験台は嫌だよ?」

「ンなことはしないさ。要件はひとつ、来週のマジアスに一緒に出るよ! 今のうちに準備しときなァ!」

「……あー、なんかいろいろ察した」


 少年の顔には呆れか諦めか、もしくはその両方を示す表情が貼り付いた。

 第三者から見てもわかる明らかな苦労顔。

 ただそれだけで、この姉弟きょうだいの関係性が察せられる。


「うひひひひっ、来週が楽しみだねェ!」

「……ごめんなさい。姉ちゃんと戦うことになる人たち、本当にごめんなさい」


 魔女のケタケタしい笑いの傍で、苦労人の弟はまだ見ぬ競技者に謝罪を呟いた。


 ***


 リリスヴェールの中庭。

 多種多様な花々が咲き乱れるその場所では、盛大な筋肉が躍動していた。

 比喩はない。


「「ぬぅ〜〜〜〜〜〜んっ!!」」


 上裸になって、スクワットを繰り返す大男がふたり。

 いったいいつから続けているのか、彼らの足元にはちょっとした水たまりくらいの汗が溜まっている。

 花畑を横断しようとしていた蟻たちが迷惑そうにおろおろしていた。


「ふはははっ、ガディ! そろそろ次のマジアスだな!」

「おうさ、ビジィ! 次こそは優勝を目指そうぞ!」


 中庭全体に響き渡る大声で会話をするふたり。

 魔法学校にありながら筋肉に信仰を置く異端の魔法使いたちではあるが、彼らが残した実績を思えば一概にその在り方を否定することは叶わない。


「さぁああああてっ! 次はどこを鍛えようかっ!?」

「うむ! 今度は上半身がいいんじゃぁあないか!?」


 昼休みの時間帯、普段はたくさんの生徒で溢れ返るリリスヴェールの中庭だが水星曜マーキュリーの日は例外である。

 その由来は語るべくもなし。

 誰だって、躍動する筋肉を眺めながら昼食は摂りたくない。


 ***


 山で、森で、街で、校舎で、中庭で、演習場で。

 リリスヴェールのあらゆる場所で、魔法使いたちは己の牙を磨いていた。

 彼らが鍛えたその武器は、ミスティたちのゲーム実況にいかなる交わりを見せてくれるのか?


 問いの答えは、そう遠からず。

 時は流れ――マジアスの開催日。

 魔法使いたちの戦いが、もうすぐ始まる。


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