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1−7 特訓開始!

 とある日の放課後。

 わたしはリリスヴェールの演習場のひとつを借りて、マジアスの特訓を始めることにした。

 卒業後の進路に魔法生物狩り(ハンター)を選ぶ魔法使いも多いリリスヴェールだからこそ、演習場には様々な種類が用意されている。


 平原、雪原、湿原、高山や樹海、はたまた魔法生物が放し飼いにされている場所など。

 とりあえず今日わたしが選んだのは、何もない平原だ。

 明日以降はまた別の演習場を借りようと思う。

 マジアスの舞台がどんな場所になるかは当日になんないとわからないからな。

 いろんな場所での戦闘を予想シミュレートしておいた方がいい。


「さてと、何から始めようかな?」


 ラフなスポーツウェアに着替えたわたしは、準備運動をしながら呟いた。

 ぐっぐっとあちこちの筋肉をほぐしながら、同時並行で魔力を高めたり抑えたりして魔法戦闘の準備を整える。

 と、そこでわたしはとあることを思い出した。


「そうだ。リンファから特訓内容を提案してもらってたんだ」


 わたしはガサゴソと鞄を漁って、羊皮紙の束を取り出した。

 その1枚目には丸っこい可愛い字でこんなことが書かれている。


『必見! 動画映えする敵の殺し方☆』


 あいつ、文字だとテンション高いな……。

 呆れながらも、わたしはパラパラと羊皮紙を流し見してリンファ提案の特訓内容を確認した。

 うーむ、意味のわかるやつもあれば、どこで役に立つんだこれ? みたいな特訓もあるな。

 でも総じて言えることは、どれも『敵を倒すため』の特訓だということだ。


『映像魔法を皆さんに魅力的に映すこと……これを動画映えというのですが、バトルロイヤル系統のゲームではやはり敵を倒す瞬間こそが最も動画映えする瞬間です』


 とは、こないだリンファに教えてもらったこと。

 その理屈はわかる。すごいわかる。

 わたしだってマジアスの中継でテンションが上がるのは戦闘シーンだ。

 正直、順位を伸ばすだけだったら最後の方まで隠れているのも戦略のひとつなんだけど、実況者であるわたしたちは序盤から戦闘を求められるはず。

 つまり。


「立ち回りよりも魔法戦闘の特訓をした方がいいってことだね」


 口にも出して自分のやるべきことを納得させながら、リンファからもらった羊皮紙に目を通す。

 あいつはなに考えてるかわかんないやつだけど、すごいいろいろと考えてるやつだってのはわかる。

 たぶんわたしなんかよりもずっと綿密に、マジアス本番の状況を予想シミュレートしているに違いない。

 だからまあ、ちょっとだけ癪だけど、あいつの言う通りの特訓をすることにしよう。


「えっとまずは、走りながらの魔銃杖の練習か」


 わたしは10メートルくらい離れた場所にある的の周りをくるくる回りながら、魔弾を撃ちまくる。

 走りながらだと狙いがブレるので外れるのも多い。

 動いていない的に対してこれなのだから本番はもっと命中率が下がると思っていいだろう。

 20分ほどそれを繰り返し、ある程度の満足感を得たのでわたしは次の特訓へ。


「次は寝っ転がったままでの魔銃杖……って、ほとんどが魔銃杖の射撃の練習だな」


 呟きながらわたしは寝っ転がり、素直に魔銃杖を構える。

 まあ、理屈はわかるからな。

 わたしの基本的な戦闘スタイルは魔銃杖を使った魔弾戦闘バレットファイト

 敵を倒す立ち回りを意識するなら射撃の精度を高めるのが1番なんだろう。


 と、そんなことを思っていたのだが。


「……目を瞑ったまま真っ直ぐ歩く?」


 次の羊皮紙に書かれていたリンファからの特訓内容に頭を捻る。

 なんだこれ?

 いったいどこで役に立つんだ、これ?

 射撃の練習でもなければ魔法の訓練でもない。

 少なくとも、わたしの想像力ではこの能力が役に立つ場面が思いつかないが。


「……」


 ちょっとの葛藤を挟んでから、わたしは素直に指示に従った。

 遠くの尖った岩を見据え、目を瞑りながら真っ直ぐを意識して歩き始める。


 認めたくないが、リンファはすごいやつだ。

 ゲーム実況にしてもそうだし、わたしには想像もつかないようなこと、わたしじゃ到底思いつかないことを、考えて、予想して、計算して、具体的な方法へと発展させることができるやつだ。

 そんなリンファが必要だと思ったことを、今は信じよう。

 無駄になったら……まあ、その時はその時だ。


 その後もわたしは、これ何の役に立つんだ? ってことを繰り返した。


 何もないところで自然に転ぶ練習。

 8割の力で走るのを全力だと思わせる演技の練習。

 放り投げた小石の音だけで投擲した距離を測る練習。

 魔銃杖を撃ち終わった後にくるっと回って決めポーズの練習。


 おい、最後の絶対マジアスの練習じゃないだろ。

 と、そんな感じで心の中でツッコミを呟いたりしながら、わたしは4時間みっちりと汗をかき、演習場を後にした。


 やれることはやろう。

 しっかりとやろう。

 ここで変にサボって本番で後悔なんてしたくないからな。


「明日は雪原の演習場を借りようかな」


 そんなことを呟きながら、わたしは食堂に寄ってご飯を食べた。

 いっぱい食べた。

 身体も頭も疲れていたので、そりゃもうたくさん食べた。

 うん、なんかいい調子だぞ。

 食べたものが全部、わたしの血肉になってるような、そんな感覚がある。


「よーし、明日も頑張るぞ!」


 マジアスの本番まで、あと5日。

 今日やった訓練の内容を頭の中で復習しながら、明日に向けて気持ちを入れ直す。

 目指すは優勝だ。

 そのためにやれることは、とにかく何でもやっておこう。


 ちなみに、余談だが。

 わたしが考えた決めポーズはグリテフにすごい不評だった。

 指を目元に添えながら「キラっ☆」ってやるやつなんだけど、それを見せたらグリテフは「くぅ〜ん」とか鳴いておろおろし始めた。


 うーん、おかしいな。

 可愛いよね、これ?


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