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二年目のベルフラワー  作者: 木苺
第4章 晩秋
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第96話 成り行きビネガー

ビネガー=食用の酢

ケーシング問題がかたづいて本領に戻ったリンは、夕食後、ヤレヤレとばかりに食堂に座り込んでいた。


最近は 館の2階に一人でいるとみんなを心配させるといけないと思い、疲れたときは 食堂でぼんやりとうたたねをすることにしている。


というのも フェンがいないと一人でねぐらに戻るのが 大変なのだ。

 (物理か魔力か どちらを使うかそれが問題だ。)


女子宿舎に仮眠用の部屋を持ってはどうかと勧められたが

「人の気配に敏感なので。それに宿舎に居ついてしまうとドラが寂しがるから」と言って断った。


おかげでついたあだ名が「ママ」

 人間に例えればドラはまだ赤ちゃん年齢・精神的にも幼ない感じだというのはみんな知っていたので、「ドラが寂しがる」の一言は割とすんなりと受け入れられた。



それはともかく食堂でうつらうつらしていると、マリアから声をかけられた。

「あのビネガーづくりについてご相談が」


なんでも 果物の皮を使ったビネガーづくりに失敗したのだそうだ。


「普通は 果物の皮や芯を蜂蜜と一緒に水に入れておけば ビネガーになるはずなんですがねぇ・・

 なぜか 香りのよいただの水にしかならないんですよ」


「パンを焼くときのサワードゥも試してみた?」


「妖精達に髪を引っ張られて止められたので()めました。

 もともと サワードゥも貴重ですから。あえて危険を冒すのもためらわれて」


「ん~~」


妖精達をよんで尋ねてみた。

「果物の皮と水の入った瓶に関して これまであったことを全部話して」


妖精達は、マリアが香りのよい飲み物を作りたがっているのだと思って手伝っていたそうだ。

 つまり水が腐らないように浄化しつつ香りだけ残したのだと。

 それで 甘い香りのよい飲み物になったり、ただの香り水にまで分解が調整されてしまっていたのである。


マリアにそのことを伝えると、絶句していた。


気を取り直したマリアは 香りのよいシロップは飲み物に、香りのよい水になってしまった分も香りづけに使いますと言った。


あいにく リンはビネガーの手持ちがなかったので妖精達に見本を見せることができなかった。


ただ食事の味付けや、野菜を保存するための酸っぱい液体が欲しいのだとだけ説明した。


なんとなく 乾燥地帯であるベルフラワーには ビネガーを作る酵母菌が乏しい・もしくは本領の水質がビネガー向きではないのかもしれないと感じたので、材料を、盆地・川辺の入植地と泉の地に送って 4か所でお試し製作することにした。


幸いにも 今年は 蜂蜜がたっぷりととれた。


そこで、ナシの皮と芯、ブドウの皮、ナシとブドウの皮の混合物、が それぞれ半分まで入った3種類の瓶を用意した。


そして内容物がひたるくらいの蜂蜜を加えた。


それらのビンを各地に配って その地で 沸騰して冷ました水をビンの八分目まで加えて2か月間、様子をみてもらうことにした。


その結果・・・


①川辺の入植地では ナシの瓶から 強い酢ができた。

  ブドウやブドウとナシの混合物からは、甘い酢のようなものができたが あまりおいしくないとのこと。


  それで これからは、ナシの皮や芯を使ったビネガーを作りたいと言ってきた。


 実際ブドウ入りのほうは どろっとした甘酸っぱい出来上がりだった。

 しかし アレクシアは、これはパイに詰める「ミンス」の基になると言った。


 その後、アレクシアは しばらくの間二人の子供を連れて川辺に遊びに行き、レモンとともにミンスづくりにいそしんだ。


 というのも 本領では、腐りもしないがミンスとして熟成もしなかったからだ。

 川辺では 材料を仕込むと ちゃんとしたミンスに育った。


 その話を聞いたリンやバクー達は、もしかしたら本領は発酵食品づくりには向かないのかもしれないと心配になってきた。


 アレクシア達の滞在中、ムギは、羊と一緒に子供達ケンとフローラの世話をした。


②盆地の入植地では ブドウ入りの瓶が最初に発酵し、ナシ入りの発酵が良くなかった。


 果物の皮入りビンと共に盆地に戻っていたリックは、実験手順にこだわるDDと喧々諤々やりやった末に、ナシだけ入った瓶の中身を二分割した。

 そして ナシだけ入った瓶の一つに、ブドウ入りの瓶の中の液体を混ぜたのである。


 さらに どうせならとナシとブドウの混合物が混じった瓶も2分割して、そのひとつにも ブドウ入りの瓶の液体をまぜた。


 その結果、ナシをベースにしたビネガーの素に、ブドウの発酵液を混ぜると、

甘くて爽やかなビネガードリンクになることが分かった。


 ブドウ単独ならブドウビネガーだ。

 ただ 発酵の進展が早いので、おいしくなったらすぐに、液体をとり分けて、ビネガーとして保存しなければいけない。


 味見をするときには、パピルスの若芽を乾かして作ったストローの先をビンの中に入れ

 反対の先をチョットつまんで引き上げて、お皿にストローの中身を出して味見をする。

  つまり即席簡易スポイトのように パピルスストローを使うのである。


 このやり方も リックはめんどくさがったが、「衛生のため」とDDが丁寧に説明したので納得した。


一方、ナシ単独や ブドウと梨混合のビネガーは 熟成に時間はかかるが、ゆっくりと育っていき、半年ほど寝かせると、ピクルスづくりに向いた強い酢になることが分かった。

 これは ひとえに これらの保存ビンをリックの攻勢から守り抜いたDDの手柄である。


 ナシ単独のビネガーピクルス液のほうが、癖がなくて使いやすいことも分かった。


ドスコイ達は、

 ビネガードリンクを発見したのはリックの御手柄だが

 実験手順を守って実験期間を延長したDDの科学者としての行動がなければ ピクルス液が生まれなかったと、二人を共に褒めた。


 リックは けんか腰でDDに迫ったことを謝罪した。


 DDは「私があなたの試みを否定しなかったように、これからはあなたも確立された実験の手順や他者の試みを否定しないでくださいね」と穏やかに答えた。

 DDのことばに リックは自分の短慮と思い上がりを恥じた。



③泉の地では、妖精しずくちゃん・ナイアード月光・ナイアード清水が

 それぞれに主張した。


 なんとなく そうなる予感がしていたので、ここには、ビンと原料を個別に持ってきてあった。


・月光の井戸の水は ナイアードの主張により煮沸せずに使うことにした。

実際 井戸水を煮沸することなくサイラス達は飲んでいたので問題なかろう。

 ここで、ブドウ・梨・甘柿 3種類のビネガーづくりを行うことにした


・一方、修道院での柿渋づくりが進展していなかったので、妖精しずくには、柿渋用に仕込んだ樽の中から取り分けた未熟な混合物入った木桶の見守りをお願いした。

 

 最初は不服そうだった妖精しずくは、柿渋がこの地でうまく作れることが分かったら、ここに柿渋工房を建てるからと言ったら 喜んで引き受けた。


 妖精しずくには大した力がないが、おしゃべりな彼女の回りにはいつも妖精赤ちゃんたちが集まってくる。

彼女が木桶に雑菌が入らないよう見守りながら、妖精赤ちゃんたちに柿渋への期待を語ってくれたら、だれかが「柿渋君」になってくれるかもしれない。ならないかもしれない。とにかく試すことにしたのだ。



・ナイアード清水は語った。

 「私だって 私の水でビネガーができたらいいと思いますよ。

  でも うちの水は牛さん達が飲みに来ますから、

  人間が飲むときには煮沸した方がいいと思うんですよ。」


 そこで今回は参加は見送りということにして、

一段落ついてから 再度なにかでご協力を願うかもしれないということにした。

というのも ビネガー原料となる蜂蜜や果物の皮が残り少なくなっていたから。


 気の()い清水は すんなりと了承してくれた。



・結果的には、しずく池のそばにおいた柿渋原料入り桶は 見事に柿渋に育った!


 しずく曰く 柿渋熟成菌がまったくたりてなかったそうだ。


 そして 柿渋を作るためにせっかく青柿を絞ったのに そこに 砕いた実や水を入れてどうするのかと叱られた。

 「酵母菌目当てに皮をつけ込むのはまだわかるけど」と言われたリンは 頭をかいた。



・月光の井戸水で作った3種のビネガーは どれもおいしく出来上がっていた!


参考:ローラ・インガルス・ワイルダー作「農場の少年」

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