第5話 盆地の人工林とコルク樫
ベルフラワーは リンド国とスレイン国で進行中の禍を避けるために、完全自給自足体制を確立しようとしている。
・開拓初年度は 生活必需品を賄うために、リンはリンド国でアルバイトをした。
結果的に リンド国の内情やリンド・スレインにまたがる教会勢力からの干渉に悩まされることとなった。
それゆえ 両国との関わりをすっぱりと断てるように、リンは生活必需品(加工品)の材料を求めて無人の地を探索し、あるいは家畜を放牧できる土地を捜しあて、あちこちにベルフラワー領の飛び地を作った。
(修道院のあるベルフラワーの本領も飛び地も すべてリンド国からは完全にその主権を認められたリンの正式な領地である。 そこまでの手を、昨年リンは頑張って打ったのである。)
・昨年リンが確保した飛び地の一つが 盆地にある「工芸用原料採取のための林」予定地だ。
ここにはすでに、漆とはぜ(蝋の原料)の改良品種が植樹されている。
また 今後 以下の改良品種が植樹される予定である。
植物名:それを原料とする主な製品など
渋柿:柿渋
別にゴロ合わせをして遊んでいるわけではない。
渋い柿の品種には、タンニンが多く含まれている。
この渋さを感じさせる成分を「しぶ」という
柿渋の濃縮溶液は 防水塗料などとして日用品の多くに用いられる
チェストナット:皮鞣しの材料となるタンニン
ウォールナット:木材加工の仕上げに用いる乾性油など
くぬぎ・みずなら・コナラ:黒炭の原料
樫:白炭・材木
樫以外の改良品種には 食用キノコも共生して育つようになっている。
さらに 白炭の原料となるウバメガシの天然品種も植樹予定である。
・この植林予定地は廃墟と荒れ地であったので、根粒菌を定着させるためにまいたすべての「根粒豆豆」がその役目を終えるのが8月末である。
実は この盆地の植林予定地を探し当て、植林準備に取り掛かったのは 今年の5月であった。
(以上の詳細は「ベルフラワー最初の一年:尼僧院長の憂鬱」の第212~215話 第228~232話あたり)
・その頃のリンは 悩みの頂点あたりに居たので、それらが一応解決した今となっては、ずいぶん昔のことのように思える。まだ3か月しかたっていないのに。
・その後、海辺にも 加工品の材料とするための植林を行なった。
最初はどちらも「商業林」と呼んでいたのだが、紛らわしいので、盆地にある方を「盆地の人工林(仮称)」海辺にある方を「海辺の人工林(仮称)」と呼び分けることにした。
以前はこれらの「人工林」を「商業林」と呼んでいた。
しかし ベルフラワー領内では 現在 通貨が使われていないのだ。
というのも 食べたり消費するためにモノづくりを行い それもギリギリ・かつかつラインを突破できないのでいるのだから。
そしてベルフラワーの産品を領外に売ることもまったくない。
つまり 現状ベルフラワーは 商業活動とは全く無縁であると言ってよい。
というわけで これからは 「商業林」改め「人工林」と呼ぶことにした。
今後 植林した木が育つにつれ また呼び方に変わるかもしれないが。
・盆地の人工林の計画を始めた頃、ここには絹糸の原料となる「蚕柿」も植える予定であった。
しかし 蚕の繭を野外で育てる場合、降雨が心配なので この地に蚕柿を植えることへの不安もあり
当面 蚕柿の植林は見送りとなった。
一方 ベルフラワーのメンバーからは、コルク樫の植林希望も出ていた。
そこで 蚕柿にかえて コルク樫の改良品種を植えることにした。
以前コルク樫の話が出たときには「改良品種の乱造は慎まねば」と保留にした。
それは 次々と改良品種を産み出すことに疲れていたからである。
自然との調和を第一に考えるリンであるので、人為的な品種改良には細心の注意を払っている。
元となる植物本来の性質・成長の速さと水や栄養の吸収速度・保水力や地力とのバランスなど
多くの基本情報と こちらの需要とのバランス、
さらに人間がどこまで管理できるか
人間の管理下から種が流出した時の環境への影響力などを考えて対策しなければならない。
それらを十分に考えずに あるいは考えられないのに、人間側の都合だけで拙速に改良品種を作り出すことが「乱造」に当るわけである。
今は明瞭にこの問題を考えることができるようになったので、コルク樫の改良品種を産み出すことにした。
・改良品種「太っちょコルク」
2年で樹高2mまで伸びる。
枝葉は木の先端50cmの範囲に茂る
3年目から枝葉の付かない高さ1・5mより下の部分にコルク層の形成が始まる
6年目から 3年周期でコルク層(樹皮)の採取が可能となる。
分厚いコルクを取りたいときには、5年~10年周期にした方が良い
木の寿命は200~300年
10年に一度花が咲き 1本の木から種子が数個とれる
この種子は きちんと種まきしないと発芽しない
開花時期は あえてほかの樫の仲間とずれた冬至限定にした。交雑を防ぐためである
後に、このコルクの性質が気に入った妖精赤ちゃんが 太っちょコルクの世話を焼き始め、妖精コルクンが生まれた。
盆地の人工林に植樹した木のうち 妖精が生まれたのは この「太っちょコルク」だけであった。
「ねぇ リンが作り出す改良品種って どうして高さが2mくらいなのが多いの?」ディー
「そりゃぁ 人間が作業しやすいように 手がの届く範囲にしているのさ」ライト
「ピンポーン」リン
「人間の手が届きにくいてっぺんで 木の栄養生産の光合成を集中的にやらせるんだろ」レオン
「下の方に枝がないと 枝打ちの手間が減らせるから 助かるな」ダンカン
「大当たりぃ」リン
※本日5月5日までは 連休なので朝8時と夜8時の2回投稿です
明日5月6日からの平日は 朝7時の1回投稿です
土日は 朝8時と夜8時の2回投稿します