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二年目のベルフラワー  作者: 木苺
第1章 8月:二つの商業林&植物繊維の利用
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第4話 罪の重み・過去と現在

(前半は森男の背景説明なので 話しがちょっと暗いです。

 メインストーリーにはあまり影響しませんので スルーOKです


 後半は 現在のリンとドラとフェンの間柄がよくわかる夜話です


 明日からは いよいよ主要ストーリーの始まりです)

ベルフラワーで最初に綿密に計画した「工芸原料をとるため植林(予定)地」はベルフラワーの北西の森林地帯にある。


しかし7月にリンが海辺に作った、海水を吸って育つミンダナやパイプ草の林もまた、工芸原料採取するため人工林であった。


パイプ草は もともと配管用に使うために促成栽培する品種だったので、元森男のファーゴとデトックスに、所定のサイズにまで育ったら伐採・加工してマジックバックに保管するように言ってあった。

ドワーフ特性の加工道具も渡して。


彼らはきちんと役目を果たし、リンは深夜アルバイトならぬ真夜中の突貫工事で、海辺周辺の上下水道の整備を終えることができた。


今は森林地帯にある商業林の上下水道完備のための配管分のパイプ草を栽培中である。


そこが終われば修道院の完全水洗トイレ化と再利用水による灌漑施設のための配管を進める予定だ。


修道院内で暮らす動物たちは賢いので、その気になれば ペタルを踏んで自分達専用の水洗トイレを利用できそうな気がする。


 (事実 ブロン君たちは ベルフラワーから砂漠に至る東街道に設置された水場では そうやって自分達専用のトイレを利用している)


敷地内全体が、「水洗トイレから全自動『水の再生&肥料づくり』まで」になれば 堆肥づくりなどの人間の労働負担はかなり減る。

バイオ君たちの負担は増えるけど。


(さすがに ディスポーザー設置による コンポスト作業の軽減までは リンも考えていない、

 現時点では)


このように パイプ草の栽培によりベルフラワー領内の省力化についてしっかりと役目を果たしているファーゴとデトックスを、ベルフラワーの創立記念祭参加の為に館に呼び寄せようと考えたリン。


デトックスは かつて ティティに|不届(ふとど)きな真似(まね)をしようとして氷漬けにされた男であったので 念のために 事前にティティにデトックスの現在の状態を伝えたら・・

ティティは表情を凍り付かせて 顔も見たくないと吐き捨てた。


ジョンも「過去のいきさつを知っているのに 森男として遠方で今後一切顔を合わせずに(すご)ごさせるならともかく 創立祭を祝うために館に呼ぶなどとは リンが無神経すぎる!」と大憤慨だ。


そこで 共同宿舎の人間も含めての全体会で 森男とファーゴ達の今後の扱いをどうするか(はか)った。


共同宿舎の女性陣たちも 森男の中でもとりわけデトックスを生活圏に近づけることには大反対であった。


今現在出張所で堆肥の世話をしているAならともかくデトックスもその他の森男達も

今後は一切自分達の生活圏に入れないでほしいと 断固たる要求を突き付けられた。


ダンカン「俺達 男はあまり気にならないが・・」


バクー 「あいつら全員セクハラ・パワハラがひどかったから、被害者感情を考慮して 今後も完全別生活にするのが良いと思う」


ロジャ・ディー「僕達もパワハラの被害者。怖いよ」


レオン「思い出しただけでもむかつくってのは 理屈抜きの感情だからなぁ」


というわけで 今年はAだけを創立記念祭に呼ぶことにした。


「ほんとは アドベントカレンダーにその存在を残すことすら許せないけど

 リンが どうしても彼らもまた仲間だと言い張るなら 名前を(しる)すことは許すわ

 でも 顔は出させないで」ティティ他女性陣一同


「実のところ 海岸で働いていると聞いたけで 不安になってます」萌


「あの人は ベルフラワーに来る前から 研究所で問題になっていたんです

 なので ここで彼を見たときにはぞっとしました」 ミソノ


「まんまとセバス殿にしてやられました。

 彼を信頼し尊敬していたのに、そんな人達をベルフラワーに送り込むなんて。


 とにかく 今現在は彼らはまじめに働いているので ベルフラワー開拓メンバーとして名前は残します。今後もしっかりと働き 問題を起こさない限りは。


 しかし 過去の罪を(かんが)み、被害者であった皆さんの感情も考慮し、

彼らを 女性や子供には 絶対に近づけないとお約束します。


 森男達は 今後も出先でさきで働けるように配置を考えます

また 勝手に持ち場を離れることのないように人外による監視も継続します。

それなら 安心できますか?」


「渋々ながらも受け入れざるを得ないと思う」ティティ

ミソノを含めたほかの人間達も同意した。


・・・

リンは 気が進まないながらも ファーゴとデトックスにベルフラワーとしての決定を伝えに行った。


「なんとなくそんな気がしてました。

 昔の自分のふるまいを完全に忘れたわけではありませんから。


 ただ今は 悩みたくないんで 仕事をして衣食住に困らなければそれでいいです

 人間づきあいも あってもなくてもどっちでもいいので

 ここに居ろ・居ても良いと言われた場所より外に出たりはしません」とファーゴは

言った。


デトックスも「まったくだ」とうなづいた。


リンは疑わし気に二人を注視し 念のために鑑定までしたが やはりその言葉通りだった。


(ノームの水を飲むと こんな風になる人もいるのか。

 やっかいだな。

 でもしかたがない。)


「二人とも 言いつけを守ってきちんと仕事をして生活してください。」


 具体的かつ詳細な注意事項を言い渡してリンはその場を去った。


リンは人外による二人への監視を強めることにした。



・・・

その日の夜 ねぐらに戻ったリンは ドラの翼の下に(もぐ)り込んで泣いた。


「さて 罪人の監視をだれがするかな?」フェン


「狼のだれかだろうね」ドラ


「あの者たちは 人であれ他人であれ 他者との接触が少なければ少ないほど

 心穏やかに過ごせるみたい。

 へたに狼を近づけると そのうち弱いものいじめの習慣が発動するわ、たぶん」


「そんな奴の滞在をなぜ許す?」フェン


「気付かずひきとてしまったし、処罰の方法を誤った。

 追い出ささずに ノームの下へ出向させて、それを再度引き取ってしまった。

 今更追い出せないでしょ。」


「フン」フェン


「ならば 遠目に見張らせるより仕方ないな」フェン


「手配を頼んでもいい?」リン


「甘えるな」フェン


「といって 甘やかすんだろ、君は」ドラ


「フン。スコリーの借りを返すために 今回だけ引き受けてやる」フェン


「もう2度と 安易に領内に人を入れない!」リン


「それが一番重要だね。守るべきものを守るためには」ドラ


「悪に染まって 心がマヒして 状況次第でおとなしくもするけど 習慣として悪事を無反省に行う人間がいるなんて。」そう言ってリンは泣いた。


「ノームの水は 渇望(かつぼう)やわらげはするが 欲望を消すこともなければ

 回心させるわけでもないようじゃの」雨の王が話しかけてきた。


「むしろ 心が鈍って 反省したり回心する力まで弱めてしまうから余計に悪いわ!」リンが吐き捨てるように言った。


「ノームとは 絶対に相容あいいれない!」リン


「だが 奴が (から)んでくるのを止めることもできぬし

 絡んで来たら 応対せざるを得んぞ」雨の王


「ですね。自分をどうやって(きた)えればいいのかな」リン


「自分を鍛えることも大切だけど そろそろ渉外担当・外交顧問を置くことも考慮した方がいいんじゃない」ドラ


ちょっと驚いて ドラの翼の下から顔をのぞかせるリン


「10代の間は 人を信じて付き合うことにより成長する時期だけど

 渉外交渉は 相手を疑ってかかって念入りに検討してこその友好であり信頼関係の構築の始まりだからね、今の君が一人でその両方をこなすのは無理がある」ドラが考えながら言った。


「そっかぁ 自分の失敗の根本がそういうところにあったとは・・・」リンは渋い顔をしながらもうなずき 再びドラにしがみついた。


「ドラちゃんの体が大きくなって もう抱き着くのもむつかしいよ」リンはぼやいた。


「僕も 体が大きくなると燃費が悪くなるなんて思わなかったよ」ドラはまじめに答えた。


「俺も お前を見ていて気が付いたよ。

 ドラゴンというのは 強さにまかせて餌を捕まえ食べまくって体が大きくなると

 だんだん燃費が悪くなって 寝て暮らすようになるのだということがな。


 前々から不思議ではあったのだ。体の小さいドラゴンの方が活発であることが。」フェン


「ええ 僕って食べすぎだったの?」ガーンという顔でドラが尋ねた。


「今ほどの大きさなら まだ どんどん食べて力を増す時期ではないか?」フェン


翼の下から慌てて這い出してきたリンが言った。

「ごめん ドラちゃん。もしかして最近遠慮して 食べる量が相対的に足りていないの?」


「うーん」ドラ


「空を飛んだリ 荷物を運んだあとは 満腹になるまで食わせた方がいいのはまちがいない」フェンはきっぱりと断言した。


「実のところ 調理した食事が好きになっちゃって・・・」ドラ


「なんか頭が痛くなってきた。この件に関しては もうちょい二人で話をまとめね」

 リンは今度は布団をひっかぶった。


しかし しばらくすると再びひょいと頭を出して言った。


「私ほんとにバカだった。

 人を信じることができずに ベルフラワーの仲間とはぎくしゃくしたし

 その一方で 学生時代の恩師だったセバス殿や叔父のリンド国王には ころっとひっかけられて。」


「しかたないさ」フェンがつぶやいた。


「子供ってのは 身近な大人から保護されることにより人を信じることを学ぶんだ。

 そして 他人を警戒しつつ友好関係を結ぶことを覚える。


 おまえは 身近な大人により利用され続け 子どもが身近な大人にむける無条件の信頼を裏切られ続けたから

 少しだけお前に同情的なまなざしを向けた大人に、疑念を抱きつつも 理性的判断よりも、「誰か大人を信じたい」という己の気持ちに負けてしまった。」


「一方そうやって 身近な大人達から利用され続け 心が傷つき続けたから お前は人を信じることをより一層恐れるようになった。それだけのことだ」


「でも リンちゃんは ちゃんと自分の力で 修道院の仲間と信頼関係を築いたし、今は共同宿舎の人達とも信頼関係を築こうと努力しているよね」ドラがいたわりの気持ちを込めて言った。


「ただ 信頼しようと頑張りすぎて 安易に森男達にまで無条件な寛容を示そうとしたのは失敗だな」フェンが突っ込む。


「だね。だから フェンが『外交・交渉担当または補佐』を捜せと言ったわけだ」リン


「問題は ノーム。あればっかりは 私が対処せざるを得ないからなぁ。」リン


「業務の割り振り・役割責任の分担、それを個人に任せるか グループ内で随時わりふっていくか

 そこも リーダーシップの課題だ 頑張れ」 突き放すようにフェンが言った。


「フェンのいう『頑張れ』は 全然励ましに聞こえないから言わなくていい。

 そこまで言わなければ 的確な御指摘ありがとうですむんだけど」リンがふくれっ面で言い返した。


「御指摘だけだと なんだかお前に意地悪ではないかと思って 励ましの言葉を付け加えてみたのだが

 やはり心のこもらぬことばは 受け入れられぬか」フェンはあくびをした。


「フェンが私のことを好いてくれていることも、私が人間の中で暮らすのをよく思ってないことも知ってる。それでも 私と一緒に居てくれてることもね。

 だから無理して心に沿わないことを言わないで。かえってさみしくなる」


フェンはくーんと鳴いて リンに体をこすりつけた。


そして二人は一緒に ドラの翼にくるまれて眠ることにした。


夢の中で リンは外宇宙の星々のきらめきを見た。

 それは 恒星が膨張したり収縮することによって生じるきらめきであった。


「いつか お前といっしょにビックバンを見たいよ」誰かのささやきが聞こえ

「たくさんの仲間と一緒に 食事をしながら見るなら楽しいかも」と答えた。


フェンは 一人目覚めて心の中でため息をついた

 (そういえば お前は 何個目かのビックバンを見たときに

  『ただ見ているだけではつまらない あきた』 と言って

  俺をひっぱってこの星に降りてきたんだよなぁ。


  何度生まれ変わっても 記憶を一新しても 魂のありようだけは変わらん奴だ)


  (そのわりに ちっとも学習が進んでおらんではないか

   人間達の間で傷つくばかりで)


  ぺしっとリンの頭を軽くはたいて ドラの体を飛び越えて

  リンのいない側の ドラの翼の下に潜り込んで 再び目をつぶったフェンであった。


  (今生(こんじょう)の人生では 納得のいく人生を送って 笑顔で結末を迎えて欲しいものだ。

   毎回 この望みは (はかな)(つい)えてきたのだが

   おそらく リンは納得のいく人生を送らない限り何度でも転生を繰り返すのだろうなぁ)


   夢の中でも長々とため息をつくフェンリルであった。

※5月5日までは 連休なので朝8時と夜8時の2回投稿です


 5月6日からの平日は 朝7時の1回投稿です


 土日は 朝8時と夜8時の2回投稿します

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