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二年目のベルフラワー  作者: 木苺
第2章 9月: 新しい入植地:盆地と川辺
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第37日 川辺の入植地

夜のミーティングにて


これまで 「羊の放牧地」とか「羊の避暑地」と読んでいた場所を

これからは「川辺の入植地」と呼ぶことになった。


というのも 地形的特徴から「盆地の入植地」があるならば「川辺の入植地」があってもよいではないかということで。

もちろん 盆地にも川がながれており あそこは 盆地ではなく扇状地ではないかという指摘もあったのだが。


さらにまた 「羊の放牧地」のまんまでも良いではないかという意見も多かったのだが、3月から8月にかけて花が咲くクローバーを利用して 養蜂を行う予定もあり

今後もいろいろ発展させていく可能性も考えて「川辺の入植地」という名称を使うことにした。


「花の少ない季節になる前に ハチ達のことも考えなくてはね」リン


「生き物を飼うというのは 次から次へと 考えることが多いねぇ」のんびりとした口調でオルフが言った。


「ムギがあそこに常駐するのなら 食事はどうしますか?」マリア


「給食サービスがあると とてもとても助かる」ムギ


「相変わらずだな」サローヤンが呆れたように言う。


「問題は牛ね。農作業用の」リン


「今では 牛ではなく自分で耕すことを考えたくないほど、牛の労働力に頼り切っているからなあ」サローヤン


「僕達は ちゃんとスキとクワを使って作業をしているよ」ロジャが抗議した。


「常駐するなら 堆肥場も作らなければいけない。

 今まで引っ越し前提で あとでまとめて魔法収納とか考えてたけど 

 常駐するなら 話しは別」リン


「種付けと出産時に応援要員もいる」ムギ


「それについては 少年たちのだれかを応援に見習い方々行かせるということも考えられる」リン


「そのことなのだけど・・

 ローズが ケンと一緒に放牧地へ行きたいと言うのよ」マリアがおずおずと言った。


「えっ?」「やっていけるのか?」「ケンとフローラをひきはなすのか?」

「アレクシアおばさんには無理なんじゃない」

皆は口々に疑問を口にする


「ローズは アレクシアとうまくいっていないみたいだ」バグ―


「え~? だけどもともとローズは こどもと少人数の大人しかいない生活は嫌だと言って 共同宿舎にはいったんじゃなかったっけ」リン


「川辺の入植地に行けば ムギと二人っきりだぞ 大人は」ライト


「たぶん それが狙いじゃないかなぁ」レオン


「俺はいやだ。 無理やり子持ちの女と結婚させられるのは」ムギはきっぱりと言った。


「そもそもなんで ローズが川辺の入植地のことを知っていて マリアに自分の派遣を頼むのよ?」リン


「放牧地に入植することになるかもしれないってことは 俺が話したんだ。

 こっちにもどってきて 宿舎に入る時にローズにぱったり出会ったときに尋ねられて」ムギ


「それで」


「私も行きたい と言われたので そういうことは 全体会で話し合って決めることだと答えた」ムギ


「私は 昼食用のパンを取りに来たローズから 入植地に行くメンバーを決める時には立候補するつもりだと聞かされたの。 私はそんな話全然聞いてないって言ったら

『フーン』と言ってパンを持って宿舎に戻って行ったわ」


「運営会議に報告する予定のことは 会議が始まるまで口外無用だ」フォーク


「確かに そのようだな悪かったよ」ムギ


「放牧地の責任者 になるんだよな?ムギが。 それとも?」ライト


「そのこともこれからの議題ね。」リンは全員の顔を見回した。


「ところで 羊の繁殖と管理に責任を持つと言う人 自薦・他薦 手を上げて」リンは問うた。


「それはムギが決めることだと思う」全員が一致した。


「今年1年 俺が責任をもつ」ムギ


「次 川辺の入植地の責任者は? これは 農業や養蜂なども含めての話だけど」リン


「残念ながら 今のおれには まだそこまでの責任は持てないと思う

 そりゃ何年か修行を積んで それに牛や鶏のことを完全に人に任せられるようになって俺が行ったり来たりしなくても良くなれば 俺も入植地の経営みたいなことやってみたいとは思うけど」ムギが 頬を紅潮させながら言った。


「よく言った!

 己の器量をわきまえて 将来の展望を語れるのは良いことだ」ドーリが褒めた。


皆も同意した。


「じゃあ 川辺の入植地の責任者として名乗りを上げる人は?」リン


「そんなにあおるな。まだ人材不足なんだから。

 責任者はリン。人事の決定権もリン。詳細は ミーティングで決定するという今の形でいいんじゃないか。」フォーク


「確かに まだ入植地を独立運営するほどの余力がここにはないな」ドワーリンもフォークの発言を後押しした。


「ドラちゃん 今年も タクシー業をよろしくお願いします」リンは言った。


「いいよ 少しだけならね」テラスに座って会議を聞いていたドラはウィンクをした。


「ということは 人手の代わりに役牛を送るのか?

 それにしても 羊の種付けを今からするなら ムギ一人で大丈夫なのか?」ライトはムギの方を見て言った。


「コカトリスの時のように人工授精をするなら 経験者のライトに来てほしいが

 自然に行うなら エンバクの種まきができる人間がいればそれでいい」ムギ


「人工授精の経験は?」リン


「ない。だから コカトリスの話を聞いたときは驚いたよ。

 食べるつもりの羊なら成り行きでも良いと思うが、搾乳用の牛や羊なら 血統管理ができた方がいいと思うので 俺としてもその技術は身に着けたい」ムギ


「俺の経験は鶏限定だが」ライト

「応用はできるだろ?」ムギ

「たぶん。 出来ればいいとは思う。」ライト


「9月中なら ライトさんが抜けても 本領はまわせるよ」レオン

「うむ」フォーク


「では 9月中は 牛抜きで、ライトとムギで受精と種まきということでいいかしら?」リン


「はい!」レモンが手をあげた。

「10月からは 私が応援に行きたいです!

 湯気の地で 少しだけ家畜の世話をしたし、設営も畑仕事も自信があります!

 料理もできます!私も家畜の繁殖や管理をできるようになりたいです!」


「ハハハ レモンが一緒なら ムギも自炊の腕が上がるぞ。

 いつまでも配食にすがっていては 入植地の経営は無理だ」サローヤン


「どうせ教えるなら 二人一緒に教えた方が手間はいらないのだが」ライト


「ならば 3人一緒に川辺へ行って、人工授精のやり方をレモンとムギが覚えたら

ライトはすぐに戻ってくる。

 残った二人で 川辺を切り盛りすると言うことでいいかしら?

 牛の派遣については 今後の検討課題として残すということで」リン


「住居などの設置は」ムギ

「引き受けます。」リン


「それなら 給食サービスはなしで 初日のお弁当だけでいいわね」マリア


「ということは 次の羊毛が届くのは来年の5月ということかしら」メリー


「すまないが そういうことになる」ムギ


「羊毛に関しては それほど切羽詰まってないので大丈夫よ」

「食用の羊の毛も 毛皮の方に回してもらってもだいじょうぶ」メリー


・・

会議のあと、マリアはレモンと二人で持っていく食料について打ち合わせ

リンとムギは 昨日の下見情報をライトに伝えて、入植地での段取りを確認した。


・・

バクーが宿舎にもどると 待ち構えていたようにローズが姿を見せた。

バクーから 裏工作とみなされかねない行動は慎むようにと言われたローズはふくれっ面をした。


「そもそも 育児の大半は子守オオカミたちとアレクシアがやっているのだから

 もっとここでできる仕事に打ち込めば 他の人間とのつながりができるはずだ」

とバクーに指摘され ローズは むくれた。


「それとも お前とアレクシアの役割交換をしたいのか?」バクー


「それも嫌です!」ローズ


「だったら」


「男の人に 子育てのつらさなんてわかりません!」


「ならば 女同士でもっと話し合え」


「子供をもたない人に言ってもわかってもらえません」


「必ずしも そうではないと思うぞ。


 とにかく 子育てをだしにするな。

 お前自身の悩みや課題を直視すれば おのずと道は開ける。


 なにしろ ここには 子育て応援団も 青年を支援する会も とにかく世話好きの人間と支援環境があるから それを活用できるか

お前が自分の思い込みの世界にとどまって ただいたずらに腐って人に迷惑をかけるだけの存在になるかは お前しだいなんだ。


ないものねだりと嫉妬や妬みだけは やめておけ」


「結婚をのぞむことが ないものねだりというのですか!」ローズが叫んだ


「そもそもお前 ここにいる一人一人とどれだけまじめに向き合ってつきあったというのだ?

 花婿や結婚生活というものが 打ち出の小づちから出てくるとでも思っているのならそれは間違いだ。


人はみな 集団の中で働く人の姿を見て 生涯のパートナーを選んでいくのだと思うぞ。

共に働く仲間でもなければ 挨拶以上の会話をしたこともない人間と いきなり結婚したいと言っても無理だろう」


「いったい どこに おしゃべりする(ひま)があるというのです?」


「仕事の打ち合わせを通しても 相手の人柄というのは()けて見えるものだ。」


「そんな話 今まで聞いたことありません」


「だったら もっと 女同士で一緒に仕事をして 仕事の合間に聞いてみろ

 ここの女達は 皆 仕事熱心の一途な人達だが それぞれの自分の生き方についても 真剣に考えながら生きている。

 そういう 女達の連帯というやつは 強い。


 男の俺がいうのもなんだがな」


そう言って バクーは話を切り上げ 自室に戻った。


(9月10日夜 本領にて)

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