第21話 アロウとダンカンの気付き
(パピルスを使った製紙5/5)
4日目は 夜明け前の燭光(人間が行動するには十分な程度の明るさが地にあふれる頃)、ドラに乗ってジョン達4人は湯気の地に向かった。
日の出前なので 湯気の地の気温は35度ぴったりに下がっていた。
太陽が地平線に顔をのぞかせるとともに 気温がさらに上がっていくのだろう。
ジョンは 太いパピルスはどこまで太くなるのか確かめるために、細いパピルスは今後の成長具合をみるために残し、それ以外をすっきりと刈り取った。
日の出前に作業を終えることができたので 一行は月光の地にもどった。
人間達はそこで朝食を取り 一息入れた。
ドラは 腹を満たすために近隣に狩りへ行った。
ジョン達は仮眠をとったあと、パピルスの葉落としをしたり、皮むきをして、
半加工状態のパピルスは空間収納し、廃棄物を干場に運んだ。
昨日 鶏たちによってかき混ぜられた原料は、湿ったまま堆肥場に運んで仕込んだ。
そして 本日分の廃棄物を 干場に広げた。
「ここは 修道院と違って 乾きが遅いな」ダンカン
「あそこは やっぱり砂漠に近い乾燥地帯だ。
何でもすぐに干上がってしまう」アロウ
「それに慣れてしまうと 他の場所で何かを乾燥させるとき じれったくなるね」ジョン
「むしろ あんな乾ききったところで生活できることに 慣れてしまった自分達におどろくよ」アロウ
「最近のリンド周辺も どんどん空気が乾いて 森が枯れ始めているから
ここのように 水気たっぷりで 木が生い茂る土地に来ると 何とも言えない気持ちになる」ダンカン
「炭焼きは 森がないと生活できないもんな」アロウが思いやるように言った。
「昔はさ 獲物を狩るように 木を刈って回って 自分が欲しい部分だけをとって
残りは捨てることに何のためらいもなかったんだ。
時には 捨てる部分の方が多いこともあった。
木を刈った後の切株のことなんか 気にもとめなかった。
森がなくなって 炭焼きができなくなって呆然としたよ。」
「だろうな。
俺達 大工も、材料の木材が入手できなくなって失業さ。
俺は 廃材を使って細工する方に活路を求めたが
新築する木材がなければ 古家からの廃材も出ないんだよ。
むかしみたいに 簡単に建て替えとか
飽きたからって 金持ちの道楽で柱の一部を取り換えるなんてできなくなったからな」アロウ
「だから、こないだ、リンが 移植するからって、取り除いた邪魔な苗木や根っこを大事に収納していたのを見て驚いたよ」ダンカン
「まったくだ。あの人 木まで育てる気でいる。
どんだけ気が長いんだ」アロウ
「『木が育つのに30年~100年かかるなら、
自分達が利用する木は 先祖から譲られた遺産
だから自分達も 子孫の為にちゃんと木を育てて残さなきゃダメ』って教えられた」ジョン
「100年先まで考えて 今いる俺達一人一人が行動しないとだめ、それがベルフラワー流か」と言ってアロウは笑った。
「なにしろ 木を植える前に 土地を肥やさなければだめだと言って
3か月もかけて植林予定地の準備をしているくらいだからなぁ」ダンカンが遠い目をした。
「まったく 木を育てる為にも肥料が必要だなんて。
最初は正気を疑ったよ。」アロウ
「俺もだ。
ただ 俺は 芽吹いたばかりの苗木が 森の中で真っ先に枯れて行くのを見たことがあるから、その時はただ水不足なんだとだけ思ったけど、そのうち 芽すら出なくなった 枯れかけの林もみたことがあるから、植林の前に土地の手入れをしないとだめだというのは なんとなく受け入れたよ。
水があっても 汚れた土地では 森が枯れたからな。
せっかく植林をするなら、その前に木が育つ条件を良くしておくのは賛成だ。
無駄骨をおりたくないからな」ダンカン
「9月になれば 植林がはじまるし、来年には ある程度の目途がたっているんじゃないかな」ジョン
「だよな。」アロウとダンカンはうなづいた。
「湯気の地でパピルスの刈り取り作業をして気が付いたよ。
リンが内心では 湯気の地の粘土などを切望しているにもかかわらず
サローヤンがどれほど熱心に申し出ても 夏場の採掘を許さなかったのは
何か隠し事があったからではなくて、純粋に 俺達の命を気遣っていたからだって。
あんな環境で採掘なんかしたら 死んじまう。
そのことを 言葉でいくら説明されても納得できなかった俺達もバカだったけど
そんな俺達に 腹を立てたりせずに、辛抱強く俺達に接する一方で
建材の必要性を賄うために リンががんばってくれていたのは、リンのやさしさからだったって すごくよくわかった。」アロウ
「君たち リンを疑っていたの」
「リンをっていうより 領主というものを そこまで信じ切れていなかった。
バカだったと反省しているのは俺も同じだ」ダンカン
「まったく」ジョンはいらただし気に地面を蹴った。
「そんな 怒るなって。」アロウ
「やだやだ 大人って 腹の中で何を考えているんだか」ジョンがわざと子供っぽく不満をぶちまけた。
アロウとダンカンは顔を見合わせ
「うーん ここで子供の純真さを主張されてもなぁ」と複雑な顔で応じた。
その日の夕刻、ドラは修道院へダンカンとアロウを連れ戻った。
「今回の運送料は 鶏ガラスープを頂いたから、牛を屠らなくてもいいよ」と言い置いて。
「残念 焼肉のおすそ分けにあずかれなくて」ダンカン
「そういう 寄生者が出ると困るからね」ドラは笑った。
ジョンは残って パピルス製紙実験に取り組んだ。
ジョンは牛と鶏の避暑地にできた実験室でパピルス製紙の試行を重ねる一方で、空き時間を使って、ムギから牧畜についてならったり、ミル―から発酵について学んだり、サイラスとの雑談からいろいろ人生について考えたりする機会を得た。
※ 明日は 平日なので 朝7時 1回のみの投稿です




