第15話 お母さん!
作業場と工場の違いについてリン達と話した日の夜、レオンはライトに誘われて彼の部屋を訪れた。
「こんばんわ」レオン
「要望にこたえて 俺一人で来たぞ」
「ありがたい」
「参考までに聞くが、なぜ 俺一人だけよんだんだ?」
「今日はちょっと愚痴りたい気分というかなんというか
その話の内容ってのがな ジョンに聞かれると質問攻めにされそうで
お前だけよんだ」
「やれやれ」
レオンはライトに促され 彼のベットに並んで腰かけた。
ライトは ドワーリン達との話をレオンに聞かせた。
「確かに ジョンが知れば 質問攻めにされるかもしれないが
あいつの意見って けっこう的を射てたり 意外な視点が提示されたりで
面白いぞ」
「だけど おれは もっと 感情的な話をしたいし
そこを質問攻めにされたくないんだよ」
「ふ~~~~~~ん」レオンが面白そうにライトの顔を見た。
「なあ リンっておかしくないか?」ライト
「?」レオン
「最初はさ なんかティティと同じ小さな女の子でさ
それが目いっぱい背伸びして頑張っているのがいじらしくてさ
なんとか助けてやりたいと思ったわけ」
「だけど今はどうよ ドワーリンより年上っぽいふるまいじゃないか」
「おまえ それ まじで言ってる?」レオン
「うん」ライト
「・・・」レオン
しばらく考え込んだ後
「あの人は 人間と一緒に過ごした時間は14年分しかなくて 14歳の少女かもしれないけど、ドラゴンの背中にのって飛び回ったり 神獣や妖精と一緒に過ごしている時間は 俺達人間と違う時間を生きているのじゃないかなぁ・・・
だから 実際には100年も 1000年も人外と共に生きているかもしれない
もしからしたら アカシックレコードで異世界の情報を読み取ってるだけでなく
実際には ひょいと境界を越えて異世界を旅しているのかもしれない。
そんな雰囲気がある。
だから 老成しているところがあってもおかしくないと思うけどな。
ていうか この話 前にもしたことなかったっけ?」レオン
「してないと思うぞ」
「かな?おまえ 最近なんか 同じところをぐるぐるしてるみたいだから・・」レオン
「あーあ 頼りにされないのが こんなにつまらないことだなんて」
ライトは後ろ頭を壁につけ 天井を見ながらぼやいた。
「おまえ 人から頼られるのが好きなの?」レオン
「どうだろ。
今までは どっかの仲間に入れてもらうには そこの人から必要とされなければいけないって感じてたわけ。
ココに来たら そんな必死にならなくても もう仲間だよって言ってもらえてさ うれしかったわけ。
でもさ 仲間に入れてもらえたから 頼られたいなって思うのに
リンはぜんぜん 俺のことを当てにしてないのが不満」
「だけど リンが誰かと組むとき お前をパートナーに選ぶことが多いじゃないか」
(こいつ何を言ってるんだ?)という顔でレオンが言った。
「でもさ でもさ 敵と戦う時には 自分一人で行くって。
ぜんぜん 俺 あてにされてないじゃん」
「当たり前だろ。
今まで さんざん 半年ちかく 武術の稽古をしようって誘われてたのに
女相手にとかかんとか言って応じなかったくせに」
「だってもくそもないの」言い訳しようとするライトを遮ってレオンが続けた。
「しかも おまえ 人を殺せないって認めたじゃないか。
そんな奴を戦場に誘えるわけないだろ」レオン
「侵略はいやだが 自衛の為なら俺も戦う」ライト
「で 足手まといになるわけだ」レオン
「そもそもおまえ 敵が迫ってきたときに ためらいもなく相手を殺せるの?
俺は無理。
俺 自分を守るためでも 人殺しは無理だと思う。
だから 逃げる 隠れる それに徹することに決めてる」レオン
「そんなこと言って そこにロジャやディーがいたらどうするよ」ライト
「もちろん 先にあいつらを逃がすよ。で一緒に俺も逃げる。
一応年長者だからしんがりを務めるけど。
それでも みんなが逃げ切れるように 最大限に頭を働かせて逃げる・隠れる。
どうしても無理なら 壁になって時間稼ぎの為に命を落とす覚悟はあるけどさ
自分が 敵を倒せると思うほどうぬぼれてはいない」レオン
「う・・・・・・・・ 俺はうぬぼれているのか?」
「ちがうのか」レオン
ガンと後ろ頭を壁にぶつけるライト
「できもしないことを やりたがるガキじゃないか 俺」
「だよな」レオン
「あんまりだ」つぶやくライト
やがて ライトの目から涙がにじみ出してきた。
「女の人を助けられる男になりたかったのに・・・」とうとう大粒の涙を流しながらライトはつぶやいた。
「相手が手助が必要としている時に手を貸すことができればそれでいいんじゃないの?
助けるのとお節介は違うって おまえは スコリーから学んだんじゃなかったの?」
レオンが心配そうにライトを見ながら言った。
「理屈じゃないんだよ。
さみしいんだ」
「スコリーがせっかく寄り添ってくれようとしたのに 途中で逃げ出したくせに」レオン
「だって あれは」
「だって だってって自己主張ばっかりするなら 人に慰めを求めるなよ。
お前の思い通りに 他人を動かせるわけないんだから。
おまえ 弱音を吐くときに 絶対に自分に反対しない相手ばっかり捜して愚痴ってるだろ。
黒牛とかロジャとか」レオン
「おまえ 今日は やたら俺にきつくない?」ライト
「あはは むかし 俺 リンにこっぴどくやられたんだ。
ドラゴンの背中に乗せられてさ。酸素の少ない上空に連れて行かれて死にかけた。
でもってから 『人の話も聞かず 目の前のジョンのやり方を見て学ぼうともせず
お前はアホか』って リンに怒られまくったよ」
「とにかく お前 人に「自分の気持ちを押し付ける・相手になにかをしてやる・自分の価値観に相手の行動を当てはめて解釈する」だけじゃなくて 人の好意を素直に受け止めることも練習したほうがいいんじゃない。
リンからの誘いを断り続け、
お前を気遣ってくれたスコリーからも逃げて さみしいはないだろ。
俺なんか リンからは怒られるまくるわ、スコリーからは気にも止められてないのに。」レオン
「なんか むかつく。今はお前のことが」ライト
「さよか」レオン
「とにかく お前は リンからもスコリーからも愛されている 大事にされてる。
子ども達からも好かれている。
ジョンはお前を尊敬しているし ロジャーにとってお前は憧れの大人だ。
お前の中にある『頼りにされる男』のイメージには合わないかもしれないが
俺達は みんな お前のことを認めているし 気に入ってるんだ。」
レオンはライトの目をまっすぐ見て言った。
「じゃあ なんで こんなにさみしいんだよ」ライトは目元をこぶしでぬぐいながら言った。
「俺 今までこんな気持ちになったことなかったのに。」ライト
「もしかして だれかにギュッとしてもらいたい気分なのか?」レオン
「でも お前にハグされたいわけじゃないぞ。俺 男とハグする趣味はないから」ライト
「だったら スコリーの所に行って頭を下げてきたら?添い寝してくださいって」
「げっ う~~~~~~ん」考え込むライト
「俺だったら そんな身勝手な頼み断るけどな」ライトがぼそっと言った
「少なくとも ちゃんと謝っといた方がいいぞ。
仲間なんだから」レオン
「だったら 一緒についてきてくれるか?
その 謝罪しても許してもらえなかったら俺 一人でいるのがもっとつらくなるから」
「いいよ」レオン
「すまん」
・・・
というわけで 二人はそろって 宿舎の外に出た。
修道院の門から館に至るメイン道路に スコリーとアトスが並んで座っていた。
ライトがレオンと連れ立って歩いてくるのを見たスコリーが皮肉気に口をきこうとするのを遮って アトスが足を踏み出した。
ぐいと ライトに迫り ピタッと目を合わせて言った。
「何用だ。どこへ行く」
「スコリーに謝りに来た。」ライト
「何を謝るというのだ?」スコリー
アトスは ライトをねめつけながら 傍らに寄った。
「おまえが 俺のことを考えていろいろ工夫してくれていたのに
俺が途中で逃げ出してすまなかった」ライトは頭を下げた。
「今頃になって! (謝りに来るとは)
そもそも お前が 私を お前の頭の中にある「女」のイメージにあわせてあれやこれやと言ったせいで 私がどれだけ迷惑したかわかっているのか?」
以下えんえんとスコリーの説教が続いた。
ライトは とうとうスコリーの前に正座して伏せの姿勢をとった。
(正座のまま両手を前に伸ばして体を前傾させて地に伏せるのだ)
そんな二人を見ながら レオンとアトスは そっとその場を離れた。
男子宿舎のそばまでついてきたアトスは レオンに尋ねた。
「人間というのは 狼に 母親代わりの役割を期待するのか?」
「どうだろ? 俺は 別に そういう欲求はないけど・・」レオン
「助かった」アトスは応えた
「人間の守りは大変だ。
人間は
いたわられ、思いやりを示され、
ほめられ、抱きしめられ、
どんなことがあっても見捨てられることはないという安心感も必要で
時によっては 叱られることにより 自分が失敗しても見捨てられないという確信を得たり
単なる注意を 嫌われていると受け止めたりと
きわめて主観的な解釈や、
自分の思い込み・自分の感情にもとづいて
相手が自分に向ける気持ちを誤解する。
さらに だれかから示された態度が、純粋に仲間意識に基づいた行動であっても
己個人に対する特別な感情であるかのように思いたがる。
自分を認め信じてくれる人が1人だけでは確信できてなくて
立場の異なる複数の人から認められることが必要で
全部そろわないと自信がもてず
次の段階へと成長もできないとは。」アトス
「ライトがいろいろ 迷惑かけたみたいですみません。
俺もまさか 黒牛やお前達おおかみが、これほど 俺達に仲間意識を持ってくれているとは思ってなかった。ごめんなさい。」レオン
「感謝なら ツンデレのフェンリルに言え。
俺達の所に あいさつに来たんだ。お前達を見捨てないでやってくれと。
あの偉そうな ものいいでな」アトス
空を仰いで アトスは言った。
「俺は 単なる面白い生き物くらいにしか お前達のことを思ってなかったよ。
しかし フェンリルは お前達を大事にしているし
スコリーは そんなフェンリルへの興味から ライトに関心を示したしな。
神獣から 人間の子供達の成長を見守ってやってほしいと頭を下げられれば 我らとて悪い気はせん。
しかし 俺は遠くから見ているだけで お前達のような面倒な生き物と親しくする気はないから
あてにはするな。」
それまで気配を感じさせなかった妖精赤ちゃんたちが ちらちらと淡い光を瞬かせ始めた。
「スコリーとライトから放射される 感情エネルギーがすごい♫
パワフルでおいしい♡」
レオンはアトスに遠慮がちに尋ねた
「できることなら ライトがなぜ「頼られること」にこだわったのか 考えられることを教えて欲しい」
「うむ」アトスは 座り込み 足で耳元をかいた。
「はっきり言ってわからん」
レオンは絶句した
「幼い頃の体験その他が深い心の傷になっており、普段はなにごともなくすごせていても、最近立て続いて子供の頃の強い思いを刺激するような出来事が次々と起きて、その当時解決できなかった葛藤が無意識のうちにわきあがってきて、あいつは自分の感情の動きが自分でも納得できないという、頭と心がバラバラになったような不安定な状態になり それがまた新たな不安を産み出してぐるぐるしていたというのがフェンリルの見立てだった。」アトス
「えっ?!\(◎o◎)/!」レオン
「わしら狼も 最近のライトの行動が腑に落ちんと フェンをやいやい攻め立てたからな。
しかしまあ 人間の心は縦にも横にも感情や知識の収納庫があって
その中に入っている情報を扱う知力と
箱の中身やらその者の核となる部分から湧き出す感情の強さと
知力と感情のバランスのとり方を学んだ学習経験によって
様々に行動が変化するのだと 説明されれば
ふむ それはそれで面白い生き方をする動物なのだと 納得がいったわ」アトス
「スコリーなどは、今の悩みを解決するときに過去の葛藤まで一緒に解決しないと 前に進めない人間という生き物は気の毒だと 同情しておった」
呆然とするレオンにお休みと言って 宿舎の前で別れたアトスは そのまま 入り口近くに座り込んで仮眠をとることにした。
気配で目を覚ましたフォークは 窓の外に目をやると、レオンがベランダから自室に入っていくのが見えた。
「今日のところは 狼達に感謝した方がよさそうだ」フォークは再び眠りに落ちながら思った。
(参考)
レオンのエピソード
「ベルフラワー 最初の一年:尼僧院長の憂鬱」https://ncode.syosetu.com/n1210go/ の
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