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二年目のベルフラワー  作者: 木苺
第1章 8月:二つの商業林&植物繊維の利用
12/206

第12話 麻の収穫前後 (建物改築後の図あり)

(麻から繊維をとる2/4)

翌日の朝食の席にて


「麻について新たにわかった情報です」リンは昨夜の検索の結果を発表した。


・麻は雌雄異株だが まれに雌雄同株のものがあること


 授粉後 雄株は枯れる


 雌株は たくましく成長して太くなり繊維をとるのには適さなくなる

 種が熟するのは10月末ごろ 


 繊維をとるための麻は密植してつぼみが付くまでに刈り取る


 麻の種は食べることができる

  種を絞った油は食用のほか ペンキやせっけんのなどの原料になる


「じゃあ 今から刈り取りをはじめなくては」フォーク


「長釜の用意はできておるぞ。長さ2.5mのものにした」ドワーリン


「作業場の準備もできています」ライザ


というわけで 麻の刈り取り・繊維取リ作業組(男子)と

ミンダナ繊維の乾燥取り入れ&機織り組(女子)に分かれて作業することになった。


但し 釜茹でした麻を寝かしたり乾かしたりする場所が ドワーフ女性の家がある北棟なので ライザとカノンは麻組みになった。


・最初にドワーリン一族をベルフラワーに迎えたときに、修道院内のドワーフエリアに建設された北棟。


その後いろいろあって 北棟の屋上の上にある家にはライザ達が住んでいる

そして 最近ドワーリンが北棟にあったいろいろなものを片づけたので

リンは北棟を建て増ししていた。


そして今日からは、北棟の1階は、糸紬と機織り部屋に

2階は繊維をとるための室内作業場

その上の屋上が 繊維を干す場所だ。


挿絵(By みてみん)


以前南北に通り抜けできる通路だったところは北側に壁を作り、南側に広い戸をつけて、繊維取リ作業に使う道具収納庫にした。


さらに道具収納庫の前には 屋外エレベーターや階段もついている。


ライザたちは 家の出入りに今までよりも1階分余分に階段を上らなければいけなくなったが、ベルフラワーで一番高い部屋に住んでいると思うと

ちょっと気分がいいですよと笑って受け止めてくれた。


ちなみに 木材置き場の西側には、木工室が建て増しされている。


・・・・

①密植した畑の外側や日よけ代わりに一列に植えた麻は 太陽を一杯浴びて良く育っていたのでそれらの雌株や雌雄同株は 種取りように残し 1番良く育っていた雄株1本も残し、それ以外はすべて引き抜いた。


②引き抜いた麻の根を麻切(おき)り包丁で切り落とす。


刺身包丁よりももっと細くて長い麻切包丁、それは刀鍛冶かたなかじわざを使って作られたものだ。


③麻切り《おきり》が終わると、次は葉を落とす葉打ち(はぶち)


「ぶちかませ」と景気をつけながら、しかし慎重にリックは大麻の葉を落としていく。

 軸を傷つけたら繊維が切れてしまうもの。慎重にならざるを得ない。


もっとも密植していると下の方にはほとんど葉がついていないのだが。


④次に先端(葉が密集している)を押し切りで切り落として丈をそろえる。


⑤この軸だけになったもの(=生麻なまそ)を30cmほどの束にまとめる

 ミンダナ繊維の出番だ。

 そもそもこの紐を作るために ひもの原料となる植物を捜しに行ったのが

 ベルフラワーとミンダナの出会いであった。


⑥そしていよいよ湯かけである。

 葛繊維の時同様に 移動式骨組みに載せた釜に熱泉の熱湯を注ぎ

 骨組みごと追いだき釜にの上に移動して ゆで上げる


 葛繊維をゆでる時は、熱泉のそばで このゆでる作業をしたのだが

つい最近、リンはパイプ草を使った配管で、熱湯をドワーフの中庭まで

引き込んでいた。


 (もちろん 蛇口や竈を移動し窯場周辺のタイルも張り直している


 だからこれからは、麻も葛もゆでなければならない繊維は、北棟のそばで釜茹でして、すぐに北棟屋上の干場に、荷運び用のエレベーターで上げることができるようになった。


 来年からは トウモロコシをまとめて蒸すのも ここになるだろう。


 使用後の釜などを洗うために 野外の洗い場も併設した)


・葛の時は巨釜おおがまかまどは一つだったが

 今回は 麻の長さに合わせてあつらえた 長釜を4個の竈で追い炊きするベルフラワー独自仕様である。


 なぜ 縦にしてゆでずに横にしてゆでることに舌かと言えば・・

  ベルフラワーの体力的主戦力が ドワーフと10代半ばの少年たちだからだ。

  自分の背丈の倍ほどもある麻を縦にして釜に入れたり取り出したりの作業で火傷させたくない

  リンのそういう思いから 横茹で方法を採用した。


  幸いにも ベルフラワーには熱湯の湧き出す温泉があるので、水を沸かす時ほど熱効率を考えなくてよいのだ。

  むしろ 熱湯に麻をたっぷり浸ける作業効率と安全性を優先した。



「一連の作業が 一か所に集約されると、いかにも工房って感じでいいですね」テレサ


「これからは、繊維取り作業をしている人の昼食も 館で用意しましょうか?」マリア


「それなら 交代で昼食をとって、流れ作業を中断しなくてもすむから助かる」フォーク


「限られた時間で集中的に作業しなければいけない時には それもいいかもしれない」ダンカン


「ただし、普段の仕事の時は 一斉に働き 一緒に食事と休憩という原則は守ってほしいな」ライト


挿絵(By みてみん)


⑥ 生麻なまその束はできたらすぐに釜のそばに運び順にゆでていく。

 ゆであがると どんどん北棟の屋上に広げて干していく。


一部は 2階の加工場に運び「麻床場おとこば」=発酵ルームにひろげ、

イネ科植物であるトウモロコシの葉や、葛の繊維取の時に使った(こも)をかぶせた。


これは 麻の外皮をとるための発酵の推進も 葛の時同様に枯草菌であろうとの仮説からである。


発酵温度を保つために、この部屋の南側と東側には大きなガラス窓があり、そこから太陽光を取り入れて室温を上げたり、遮光して室温の上がりすぎを防いだりする。


バイオ君達に頼んで 発酵の進み具合をモニターしてもらった。

それらの情報は 随時リンがバクー達に伝えた。


発酵全体を専門とするバクーと

葛の発酵作業にも立ち会っていたライザとカノンが中心となって

発酵を促す「床ぶせ」を行なった。


 だいたい一山につき 5束を横に並べてそれを4段積み上げる感じだ。


今年は、コツをつかむまで 数回にわけて この床ぶせを行なうことにした。


床ぶせ中の雑菌の混入を防ぐために、麻床場おとこば

2階の作業室の東の端に設定し、そこを仕切って専用ルーム(温室風)にした。


室温は 冬場でも最低でも20度以上を保つことにした。


⑦収穫直後の麻を熱湯でゆでることにより殺菌された麻の茎は、乾燥させることにより保存性が高まる。


乾燥した麻の茎を「キソ」と呼ぶらしい。


・このキソを束ねて保管する場所も2階の作業室の一部に作った。



・・

 葛の場合は6月~8月にかけて数回わたって採取し、採取したその日のうちにゆで上げ発酵させて繊維とりまで一気に進めた。

 逆に言えば 繊維とりまで一気に進める量しか採取できない。


 麻の場合は 栽培作物なので、収穫は年に一度、

 だから 一気に収穫したものを 一度乾燥させて保存して、順次 繊維をとる分づつ発酵させていくことになる。


 将来的には 種まき時期をずらすことにより、収穫時期もずらして、乾燥させる分を減らすことができるかもしれないが・・

 麻繊維の需要量を考えれば やはり乾燥保存して順次繊維取り作業にうつらなくてはならないならば あえて収穫時期をずらす必要もないかもしれず このあたりは今後の検討課題だ。


 ようは 繊維需要と収穫量、作業量と労働力の釣り合い&配分の問題である



そして 繊維需要と作業量の釣り合いという観点からすると・・・


実は 発酵という面倒な手順を踏まずとも、麻から繊維をとる方法はあるのだ


①収穫後40分ほど煮てから 皮をはいで乾燥させる

 あるいは 収穫後蒸し揚げてから 皮をはいで乾燥させる

   (あらそ・皮麻(ひま)


②にこぎ:あらそからペクチンなどを取り除く作業

   灰汁(あく)で煮る

    ↓

   川の中で 箸で挟んで余分なものをこそぎ取りながら洗い流す

      (こぎそ:取り出された繊維)


③おうみ:こぎそを裂いて糸に紡ぐ

      (うみそ:紡ぎ出された細い糸・・繊細です)


④「うみそ」によりをかけて麻糸にする


「川の中で 余分なものを洗い流すというところに 葛から繊維をとる作業との共通性を感じるわ」ティティ


「精麻から糸をとるよりも こっちのやり方の方が 糸としては繊細なものが取れそうかもね」リン


「40分も煮たり 蒸したりするなら 熱泉に付け込むとか 熱泉の上にスノコ台を引いた小屋を作って

 お湯を冷ましながらサウナ(スチーム小屋)にして そこに並べておけば手間いらずだよ」ロジャ


「『にこぎ』作業と 精麻づくりの どっちが大変か 微妙だなぁ」リン


「ペクチン付きの繊維だと布にした時の風合いはどうなるのかなぁ・・」ジョン


「その場合の保存性が問題だな」レオン


「そもそも 製麻を糸にする前に 米ぬかで炊くと言う人もいるしねぇ」リン


「煮込む時に灰汁を加えるという話もあるから・・

 もともとその地で最終製品(糸・漁網・蚊帳など)するための麻はぎまたは麻挽きまでの過程は 最終製品へのその地ならではの加工体制を前提とした各地各様であるうえに 伝承がとぎれとぎれであるから 全体像が分かりにくいわね」リン


「精麻の場合は 多様な用途に使えるようにに用意された保存性の効く第一次加工品だと思えばいいのかな」


というわけで 精麻からの糸づくりと皮麻からの糸づくりを比較するために、収穫した麻の半量をリンの空間収納にしまい込んだ。

   





※明日 月曜日は平日なので、 平日は 朝7時1回のみの投稿です



(参考)

「広島の麻づくり」 広島市郷土資料館 (PDFファイル)


食用の麻の実 ヘンプシード (エスピー食品のサイト)

 https://www.sbfoods.co.jp/sbsoken/jiten/search/detail/00001.html

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