第100話 湯気の地開き (湯気の地イラスト再掲)
ドラにのってサイラスといっしょに泉の地から出立する直前、湯気の地にて観測を続けていた妖精ハカリンから緊急連絡が入った。
湯気の地の内側ドーナツ湖の水温が急上昇しはじめたと。
リンは、ライト・サイラス・ミル―に 子ども達と牛をしずく池の周りに連れて行き、そこからいつでも避難できるように待機しているようにと言い置き、ドラにのって湯気の地に向かった。
上空から見ると 昨年放牧していた外側のドーナツ部分の水位に変わりはなかったが、内側のドーナツ部分には水がたまり、もうもうと湯気が上がっていた。
火口湖の水温も変わりはなかったので、内側のドーナツ部分の地下で温度が急上昇しているようだった。
(春先にはなかった水が 現在内側ドーナツ部分になぜ溜まっているかも不明だが)
そこで 以前、外側ドーナツ部分からくみ上げていた水を絶対零度にまで凍らせてから、内側ドーナツ湖の底全体を覆うように転移させた。
さらにⅠ山にある小さな裂け目を使って、冷気を身にまとった状態で自分の体を地下の発熱源へと転移させ ドラには 子ども達の所に戻り 必要なら本領へ運ぶように頼んだ。
ドラは黙って引き受けた。
地下の発熱体は 核燃料だった。
この山は 古い時代に 何世代にもわたって使用されていた発電施設及びその廃棄場所だったのだ。
核融合炉・マイクロ発電・地熱発電、いろいろな時代のいろいろな発電機の残骸と使用済み燃料などが地底部に収納されていた。
地熱発電が行なえる火山帯の上に 核物質を保管するか?とリンはあきれた。
どうやら 魔法力を過信して 都合の悪いものを 全部ここに集めて封じて居た感じだった。
もしくは 都合の悪いものを 過去に張られた結界の中に強引に押し込んだのか?
(いずれにしても ろくなことしてないわ><)
そして 廃棄物を隔てていたシールドゆるみ 入り混じり 今度は 全体をくるんでいたシールドもほころび始めて、今や山の中(=地中)は地獄の釜状態だった。
「ええい ままよ」
リンは一生に一度の大転移魔法を使って 異次元空間を創出し そこにむかって地獄の釜そのものを放り込んだ。
平たく言えば パラレルワールドを一個新たに創成して そこでビックバンの種をまいたのである。
力を使い切って気絶したリンを フェンは回収した。
回収ついでに リンが作ったパラレルワールドのシールドを調整して
今まさにビックバンをおこしつつある世界を、完全なる別世界として こちらの世界ともその他の世界とも切り離して置いた。
(これで 俺達が もうほかの世界に転移する力は失われたが
この子がそこまでして この世界を守りたいというのなら 俺だって本望さ)
フェンとリンの肉体は月光の井戸の底にもどった。
意識を失ったフェンとリンの肉体を抱えて ナイアードの月光は井戸の上に姿を現した。
しずくが率いる妖精軍団が 二人の体を受け取り 地面に横たえた。
ドラが自分の体を小さくしてすっ飛んできた。
リンの体に異常がないことを確かめたドラは、わずかに遅れて到着したライトにリンへの人工呼吸を命じて、自分はフェンの口にそっと息を吹き込んだ。
フェンはかろうじて命をつなぎとめた。
リンも目をあけたが、「やすませて」とつぶやきすぐに眠りに落ちた。
サイラスとミル―は 急いでフェンとリンを小屋の中に運び込み二人を休ませた。
ぐったりとして小さな体のままのドラを抱き上げたライトは、ドラを部屋の中に運び入れて良いのかどうかと迷った。
ドラはかすかに笑って 体が元の大きさにもどるときにはちゃんと言うから
今はリンやフェンと同じベットで寝たいと言った。
ライトはドラの希望通りに ドラを小屋の中に連れて行った。
ベッド3つを一部屋に詰め込みくっつけ合わせ、リン・ドラ・フェンの順に寝かせた。
ドラを真ん中にしたのも ドラがそう願ったからだ。
サイラスはとミル―は とりあえずちゃんとした食事を作って子供達に食べさせる一方、
本領に連絡して食料の追加を頼むことにした。
本領では フォークがすぐに 以前リンから渡されていた緊急鍵を使って盆地へ「フェンが急用でこちらに来たが心配しないように」と通信した。
DDがすぐに「食料は10日分あるので次の通信は10日後に」と返信してきた。
DDからの伝言をフォーク経由でサイラスも受け取った。追加10日分の食料と共に。
ドラを寝かせたライトは 子ども達にバディ制をとらせ、サイラスの指揮に従って、行動するようにと指示した。
そして 妖精しずくとナイアード達が待つ月光の井戸に行った。
リンとフェンを助けてくれた礼を述べ、リン・フェン・ドラが力を取り戻すまで自分達はこの地にとどまらなければならないことを告げた。
ナイアード達は人間の言葉は話せないが理解はできること、妖精しずくは ジョンやサイラスとなら簡単な意思疎通ができるので 森に入らなければいけない時には事前に必ず声をかけて欲しいと言った。
ライトが小屋に戻ると、子供達は 小屋の前にテントを張っていた。
この地には予備のテント(マットつき)が配備されていたのであった。
男子はテント 女子は小屋の中で寝ることになった。
サイラスは ライトにフェン達の看病をするように言いつけた。
「ここで 俺に指揮をとれって言ったのはお前なんだから 俺の命令には従えよ」と言って
サイラスを手伝いたちというライトの反対を封じた。
「俺はここで半年以上暮らしていたんだ。ミル―もここでの暮らしに慣れている。
森での仕事も含めて ここでの生活については俺達にまかせておけ
おまえは リンと神獣達の世話に専念しろ」
ライトは妖精しずくの言葉を全員に伝えた。
そしてサイラスの配慮に礼を言ってリン達のそばに付き添った。
ドラを抱きかかえて 大量の乳清を飲ませた。
ドラの体が小さくなったと言っても 重さは80キロほどあった。
ベッドが壊れないかと心配になったライトは、
ドラのベッドの下に支えを入れた。
フェンの為には 蜂蜜湯を用意したり、リンのバックに保存されていた肝油を出してなめさせた。
なにをすべきかは 自然に頭に浮かんできたのだ。
リンの望みは「睡眠」だった。
ミル―に頼んで リンの顔や手足を暖かいタオルで拭いてもらった。
その間にサイラスに促されてライトは夕食をかき込んだ。
男の子たちは テントでサイラスと一緒に寝ることになっていた。
テントの中にはハンモックをつるす支柱がたてられていた。
ロジャ・ディー・サイラスが今夜はハンモックで寝るらしい。
残りは床で雑魚寝だ。
「全体の指揮はサイラスだが 男子のまとめ役はジョンだからしっかりと言うことを聞くように」と、ライトは念を押した。
「別にジョンに不服があるわけじゃないけど どうして年齢順じゃないんだ?」アラン
「先任士官だからさ」ライト
「なんだいそれ?」
「つまり 俺やジョン・ティティはベルフラワーに最初に入植したメンバー、最古参てこと。
軍隊では 責任者になにかあったときには、同じ階級の人間の中では一番の古株から指揮をとることになっている。
だから 責任の順番で言えば、リンーサイラス、古株の順番で言えば俺・ジョン・ティティーサイラスーミル―となるわけ。
というわけで 女子チームのトップがミル―とティティ、男子チームはサイラスとジョンだ。
わかったか?」
「だけどいったい何があったんだ?」リックが不安そうにたずねた」
「湯気の地で起きた異変を リンとフェンの二人で鎮めたってことだろ。」ライト
「でも 大丈夫なのか?」
「大丈夫な状況でなければ リンがのんきに寝てるものか。
あの人は 俺達を守るためなら平気で自分の命を投げ出す人だぞ。
そしてリンを守るためならフェンは自分の命を投げ出す。
あの二人が俺達の所に戻って来たってことは すべてが安全になったということだ。
そして リンに命じられて俺達のそばにいたドラが 今はあの二人の所にいるってことは もうドラに俺達が守られる必要がなくなったということだ」
「でも 今は3人とも倒れているじゃないか」リック
「ああ だけど 3人とも生きてるぞ。
ドラは ホエイを山ほど飲んで フェンもしっかりと栄養剤を飲んだし
リンが疲れたときに、ひたすら眠るのはいつものことだから。
だから あの3人をしっかりと休ませるために 俺達は ここでしっかりと生活しなきゃな。
心配させたら 無理してリンが起き出してくるから。
すると残りの二人も無理をする。
だから 俺達で しっかりとここで生活して 元気になったリンを安心させるのが一番だ。
安心させればさせるほど リンは無理をしなくなるから。」
「はい」ポロン~アランまでの5人組は素直にうなづいた。
ハンモックの上に座っていたディーが 手を伸ばしてライトに抱っこをせがんだ。
「やれやれ」と言ってライトがディーを抱きしめると、「リンとフェンとドラのことよろしく」とディーは言った。
ライトは ディーをそっとハンモックの上に降ろした。
そして「ロジャと ドラのとっちが重いかな」と言いながらロジャを抱き上げ
「知ってるかい? ドラの外見が小さくなっても 重さは80キロもあるんだぞ」と言ってロジャを抱きしめてからハンモックに降ろした。
「僕より重いのか」ジョンは口笛を吹いてわざと陽気に言った。
「それより 残りの体重がどこに行ったのか そっちが気になる」とディー
「質量保存の法則を無視するのが神獣の特権だろ」とロジャが答えた。
「それじゃおやすみ」ライトはテントの外に出た。
テントの外ではサイラスが立っていた。
「いろいろありがとう」サイラス
「どういたしまして。 これから世話になる。よろしく頼む」ライト