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ただそれだけでよかったんだ  作者: モモコル
3/6

 6限の終わりを知らせる鐘がクラスに鳴り響き、「はい、終わり」と白髪の混じった口ひげを触りながら、初老に差し掛かった茂じいこと田上茂雄先生が委員長の号令を待たずに教室を出ていく。大阪で茂雄という名の年配の方が茂じいと呼ばれるのは、渡辺がなべちゃんと呼ばれるより自然の成り行きである。

 今日の授業も終わったなぁと思い、伸びをしながら周りを見渡すと額や片方の頬が寝跡で赤くなっている生徒がちらほらいる、谷口に関してはまだ伏せて寝ているので肩をゆすって起こしてやる。

 「ああ、もう終わったんか、ありがと」

 「6月に入って冷房つくようになってから、茂じいの催眠術より強力になったなぁ」と額に真っ赤な跡をつけて谷口が誰に向けるでもなくつぶやく。

古典の授業ははただでさえ眠くなる午後にあるだけでなく、担当の茂じいは声が小さく寝ている生徒がいても注意しないため理系の生徒にとっては催眠術のように感じられる。

 ホームルームも気を付けて帰れよという簡素なもので終わり、部活に行くもの帰宅の途につくもの、教室に残り「今日掃除当番かぁ」と少しの不平を口にするものでがやがやとしている中、「また明日」と友達に声をかけつつ部活に入っていないため教室から出て、隣の一組に向かう。


 廊下に出ると陸上部とプリントされたリュックを背負い一組から出てくる美穂とすれ違い「また明日」と声をかけると、「あかねちゃん待ってんで」と教えてくれた。

 一組の入り口から中をのぞくと一番前の真ん中の席に、黒髪で耳の横にボリュームを持たせたボブカットの生徒がクラスメイト二人と談笑をしている。

 その三人にゆっくり近づいていき「あかね!」と声をかけると、こっちに髪を揺らしながら振り向きくっきりとしたアーモンド形の瞳をこちらに向け、「たけ!?」とすこし喜色の含んだ声で返事を返してきてくれた。

 「うん帰ろうか」と声をかけ手を差し出してつかんであげる。あかねは生まれつき角膜に黒い混濁があり視野が狭く見える視野も白いもやがかかっている。ゆえに一人きりで日常生活を送るには不自由があるため、幼馴染であり母親同士が高校からの友達である立場からできる限りのサポートをしているのだ。

 「ばいばい」とあかねがクラスメイトの二人に声をかけるのを待って手を引き教室をでる。

 あかねの手を握り校門に向かい歩いていると、一年生の時はクラスメイトから冷やかされたり先輩からはせめて学校出てからやれよという視線を向けられたりしたので「クラスメイトの子に代わってもらおうか?」と提案してみたが「たけがいい」と少し顔を赤らめてうれしいことを言ってくれるので続けていると、半年後にはあかねのことが学校中に浸透し今では温かい目で見られている。

 小学校からこの役割を担っているためもう恥ずかしいという感情は一切ないが、あかねは幼馴染の立場からみても学年でも1、2を争う美女なため役得だとは感じずにはいられない。


 今日の授業のことなどを話していると校門の前に黒い車が止まっているのを確認できた。

中学校までは一緒に登下校をしていたが、高校は歩いて行ける距離ではないためあかねのお母さんに送り迎えをしてもらっている。

 「あかねお帰り、健史君いつもありがとね!」と運転席からあかねのお母さんがウィンドウを開けて声をかけてくれた。

 後部座席のドアを開けあかねが車に乗ったのを確認してドアを閉める。

 「あなたがいなかったら、おそらくあの子は普通の高校には通えてなかったから本当に感謝してるのよ、あかねもね」とお母さんがまた声をかけてきてくれた途中で、

 「おかあさんもういいよ」とあかねが恥ずかしそうに止めに入ったので、「はいはい、じゃあ健史君、また後でね」と少女のようなような笑顔をこちらにだけ見せる。。

 「はい、あかねもまた後で」と後部座席をのぞき込みながら声をかけ

後部座席から「また後で」と声が聞こえたのを確認したお母さんがパワーウィンドウを上げながらアクセルを踏み込み静かに動き出した車の後部座席のスモークの貼られた窓に手を振り、自転車を取るためにもう一度校門を抜け2年生の校舎に向かう。さっきまで手をつないでいたため手のひらは少し汗ばんでいたが全くいやな気はしなかった。


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