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ただそれだけでよかったんだ  作者: モモコル
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 君を見つめていたかったんだ、ただそれだけでよかったんだ。


 制服が夏服に代わり一週間がたった6月2週目の月曜日の朝。

 「おい健史そろそろシャワー終わってくれ」風呂場のすりガラス越しに4才年上である大学3回生の兄の和哉が焦りながら言ってきたので、シャワーを止め体をふきリビングに向かう。

 「悪いな今日、1コマからやねん」と言いながら着替えのパンツを片手に和哉が風呂場に向かっていく。

 「こっちこそごめん」と風呂場の方に大きめの声で投げかける。

 「本日の最高気温は30度を超えるでしょう」テレビでは涙ぼくろが特徴の大阪でローカル的に人気があるお天気お姉さんの木下さんが天気予報を読んでいた。天気予報が始まったということは7時半である、兄の大学までは片道2時間かかるため9時からの1コマには間に合わないんじゃないかと思っていると

 「コーヒー牛乳飲むー?」リビングから吹き抜けのキッチンから母が聞いてきた。

 「ありがとう!アイスで飲む」「兄貴1コマからって言ってたけど間に合わんくない?」疑問に思ったので聞いてみると

 「授業の終わりに取る出席に間に合えばいいねんて」と氷と牛乳が半分入ったガラスのコップにコーヒーを注ぎながら呆れ気味に答えた。

 「ふーん」大学はそんなもんなんやなと思いながら返事をする。

 「ちゃんと卒業してくれたらいいねんけどな」と子供の勉強には小さいころから口うるさく言わない母なため、僕の高校受験の時も「楽しめそうな高校行きや」と言ってくれたぐらいである。なので進学校で校則の厳しい私立ではなく、少しレベルを落として生徒の自主性を重んじる校風の公立に進学したのである。といってもその高校も学区内では2番目の公立なので近所のおばさん達からはよく冗談交じりに「息子に欲しいわ」と言ってもらえる。

 そんなことを考えていると「お前まだブラックで飲まれへんのかよ」とシャワーを浴びおわりパンツだけを穿きバスタオルで髪の毛を拭きながら拓真がからかいながら言ってきた。

 「ブラックはただ苦いだけやん」と言い返すと

 「まぁ子供の健史にはまだ分らんか」またかと思った、3月が誕生日の兄は周りの友達よりも20才になるのが遅かったため子供いじりをよくされていたのだろう、そのうっぷんを晴らすかのように二十歳になってからのこの3か月間何かあるたびに子供と言ってくるのである。このコーヒー牛乳に関してだけでも両手では足りない。三分の一ほど残ったコーヒー牛乳を一気に飲んで、昨日の夜に準備しておいたかばんをひっつかみ肩にかけ「行ってきます」と強めの口調で言うと、母は「行ってらっしゃい」兄は「はいよっ」と返してきた。

 「あんまり健史をからかいなや」とかすかに聞こえた母が兄をたしなめる声を背に玄関の扉を閉めた。


 「暑いなぁ」昨日の夜はうるさいほどの豪雨だったため湿度が合わさり、家を出たばかりだというのに二の腕がべたついてるほどだ。この中30分も自転車をこいで学校に行くのかとうんざりした気持ちもあったが、行かないわけにもいかないので、高校入学祝いに買ってもらったロードバイクのカバーを外す、カバーに水が溜まっていたため少し靴下が濡れてしまった。

 「はぁ」履き替えるのもめんどくさいので、後輪タイヤと玄関扉の横にある雨樋とをつないでいるチェーンを外しサドルの支柱に巻き付けて「さぁ行こ」

 

 「たけ!おはよう」20分ほど自転車をこいで通学途中で一番億劫な上り坂を額から汗を流しながらこいでいると、少し後ろから声が聞こえたので振り返ると2年連続同じクラスで仲のいい高木則之だ。身長が170を少し下回童顔でたれ目なためかわいいと女の子からからかわれる僕とは違い、則之は180を超える高身長、精悍で1年生の時には3人から告白されていた。さらに公立ながらインターハイ大阪大会ベスト16のサッカー部だけあってロードバイクではない普通の自転車で並走してきた。

 「おはよう、今日暑すぎるやろ」と返すと

 「きのぴーが今日は30度超えるって言ってたからな」きのぴーとはお天気お姉さん木下さんのあだ名である。

 「俺もそれ見たわ、きのぴーじゃなかったら天気予報士のせいにしてるわ」と汗だくの現状を思いながら言うと

 「なんじゃそら、それにきのぴー天気予報士じゃないで」と笑いながら返してくれた。

 「そうなん、まぁかわいいからいいけどな」

 「朝から見るならおじさんが天気予報読んでてもみようと思わんしな」と天気予報士のおじさんが怒りそうな会話をしているのはこの二人だけではないだろう、実際朝の天気予報を読んでいるのは若くきれいな女の人達なのだから。

 「そういえば今日は朝練ないん?」いつもは朝練で6時には学校にはついている則之なので疑問に思い聞いてみると

 「昨日試合やったから今日朝練はないねん。夜雨やったから、もしあってもグラウンドまだ乾いてなくて使えへんからロードワークやし、ラッキーや」と少しうれしそうに言ってきた。

 「そうなんや、勝ったん?」

 「いや南高校に2-1で負けたよ」悔しそうに則之は答える

 「相手強かったん?」サッカーで有名な高校ではなかったので聞いてみると

 「俺はまだBチームやから」とうちの高校は強く部員も多いためAチームBチーム二つに分けて活動しているのでBチームだと中堅クラスの高校とも勝ったり負けたりらしい。

 「Aチームに上がれるといいな」

 「冬の大会はAチームに上がれるように頑張るよ」と二人で会話をしていると学校が近くなってきて同じ制服を着た生徒も見かけるようになってきた、「おはようございます」と校門の横にいる額に汗をにじませた50代の眼鏡をかけた小柄な二年担当の教育指導である竹中先生に挨拶をする。

 「もう少し早く来いよ」と言われたので校舎の時計を見るとホームルームの開始8時半、3分前であったので急いで2年の校舎横の駐輪所に自転車を止め、上履きに履き替え走って2階の2組の教室に二人で入る。

 「橘、高木もう少し早く来い」と低めの声で190近い身長にがっしりした肩幅、短く刈り込んだ短髪で柔道部顧問であり2組の担任の須藤先生が声をかけてきた、いつもはひょうきんでクラスの雰囲気をよくする先生であるが、生活態度には厳しいのである。すいませんと二人で言いながら席に着くとホームルームの鐘が鳴った。

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