魔女の呪い
昔々とある国に、それはそれは執念深い魔女がおりました。
普段は気の良い魔女ですが、ことのほか美に対する執着が強く、自分よりも美しい女を許すことが出来ません。
美女の噂が耳に入れば、例え辺境の地でも足を運び、嫉妬すれば醜い姿に変えてしまいます。
ある日、魔女のところに薬草を取りに来た行商人が、ある噂話をしていきました。
隣領土にある伯爵家の三女は、その姿を見るだけで気を失う人がいるほどの美貌を持っていると。
魔女は噂を確かめるために、早速その女性を見に行くことにしました。
魔法で美青年に姿を変え、伯爵家から出て来た三女に声をかけます。
「失礼。少し道を尋ねたいのですが、よろしいでしょうか?」
「はい。あの、どちらへ行かれたいのですか?」
魔女は振り向いた三女の姿に愕然としました。
一目見ただけで、自分以上の美しさだと認めてしまったのです。
優しく案内をする三女の隙を見て、魔女は杖を取り出します。
魔女が呪文を唱えると、杖から出た白い煙が三女を包み込みました。
「くっくっ、妾以上の美人はこの世にはいらんのじゃ。残念じゃが、そのような美貌で生まれたことを恨むんじゃな」
煙が消えると美青年の姿は消え、三女が一人倒れているだけ。
なんの偶然か、この国の王子がその場を通りかかりました。噂になっている女を見ようとやって来ていたのです。
道端で倒れている女を発見した王子は家来に話しかけました。
「あれは行き倒れか? ちょっと様子を見てこい」
家来は命令に従って「大丈夫か?」と声をかけ、膝を地面につけて女を起こします。その女の姿に王子は目を見開きました。
「……美しい」
王子は家来を下がらせると、代わって女を抱きかかえます。
「そなた、名はなんという?」
「私は伯爵家の三女のマルマッタと申します。介抱していただき、ありがとうございます」
王子は眉間にシワを寄せます。
伯爵家の三女といえば、顔は岩のようにゴツゴツしており、目尻は垂れ、鼻は潰れ、男の親指よりも太い唇だと噂されていました。
王子は「それほどの不細工なら一度見てみたい」と物見遊山にやって来ていたのです。
ですが目の前の三女と名乗る女は絶世の美女。
王子は混乱しましたが、このチャンスを逃す男ではありませんでした。
「俺――私はこの国の王子プレボイという。これは天から与えられた運命の出会いだろう。私と結婚してくれないか?」
突然の申し出にマルマッタは顔を赤らめます。
なにせ王子は絵に書いたようなイケメン。しかも自分は結婚など出来はしないと、親兄弟からも罵られていたのです。それがまさかの王子からのプロポーズ。
マルマッタは夢でも見ているようでした。
「はい!」
こうしてマルマッタはプレボイと熱い口づけをするのでした。
このシンデレラストーリーが国の貴族たちの間で噂になると、美的感覚の大きくズレた魔女のところには毎日のように手紙が寄せられるようになったそうです。
ですが呪いは呪い。
のちに王妃となったマルマッタは、いつ魔女の呪いが解けるのかと、ビクビクしながら一生を送りましたとさ。