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2

 レーネの姿を確認したタリアは、途端に安堵の色を浮かべた。続けてレーネの立場を改めて諭し、ひとりにならないよう硬い口調で告げる。


 侍女としてというよりは本気でレーネの心配をしているのが伝わり、レーネは素直に謝罪した。


「ごめんなさい」


「謝らないでくださいね。マグダレーネさまになにかあったら陛下も悲しみます。おふたりの結婚について好き勝手言う者もおりますが、陛下はマグダレーネさまを愛していらっしゃいますよ」


 それは国王の妻となるレーネの侍女としてのタリアの気遣いと優しさだ。おそらくきっと誰が相手でもタリアは同じように告げて慰めたのだろう。


 レーネとしては素直に受け取れないが、あえて反論するほどでもない。それにタリアの発言はレーネの希望を伝えるのにいい流れだ。


 レーネはこのタイミングでタリアに王の執務室に行きたい旨を伝えた。意外な要望にタリアは目を見張る。


「陛下になにか御用ですか? 言伝(ことづて)でしたら……」


「いいえ。そういうわけではないんです。ただ妻にもかかわらず、陛下の普段の過ごされている部屋を知らないのもどうかと思いまして」


 さらっと仮面をかぶりレーネは貞淑(ていしゅく)な妻として答える。その回答はタリアの気に召したらしい。


 様子を見て中に入るのが難しいようなら機会を改めると約束し、タリアはレーネを王の執務室へと案内した。


 執務室の場所は知っていたが、自室はともかくここにはまだ足を踏み入れたことがない。しかし探し物の隠し場所としては有力候補だ。


 タリアは自分のような者が王の執務室に立ち入るなど恐れ多いと、少し離れた場所で待機しレーネを見守る。レーネは紋章の刻まれた大きな扉に、足音を立てず息を潜めて近づいた。


 できれば誰もいない方がいい。仮に王がいたとしても隙を見て、探し物の隠し場所など粗方の見当をつけたい。


 様々な思惑を抱き、扉をノックしようとしたときだった。中に人の気配、さらに声を感じ取り動きを止める。そして全神経を集中させる。


「陛下、やはり彼女は本物なのですか?」


 嗄れた威圧的な声の主は王の補佐役であるバルドのものだ。話しかけた相手は当然――


「だとしたらなんだ? 結婚も成立した今になってまだ反対するのか?」


 挑発的にクラウスが答える。ふたりが話題にしているのは自分のことだと気づき、レーネの心臓が大きく跳ねた。 


「私がこの結婚に反対しなかったのは、彼女が立場上、ノイトラーレス公国の王女だからです」


 きっぱりと答えたバルドに対し、クラウスは不審げに片眉を上げた。それに対しバルドは表情を変えず淡々と続けていく。


「彼女になにかあった場合、後釜として妹のゾフィ女王を(めと)ったとしても、なんら不自然ではない。現にこの結婚も国益を優先したとの見方が強いのが現状です」


 バルドの言いたい内容を汲み、クラウスは冷たく言い放つ。


「口を慎め。それ以上は諫言(かんげん)ではなく暴言と受け取るぞ」


「なんとでもお取りください。しかしこれだけは言わせていただきます。彼女があなたの手中にある今、王家にとっては最大の転機。終わらせるときがきたのです」


 バルドの忠告は王の臣下としては真っ当なもので揺るぎない。声からも表情からも真剣さが伝わり、しばし執務室に沈黙が下りる。


 レーネは金縛りにあったようにその場を動けず息を殺して(たたず)む。代わりに脈拍が上昇し、気がつけば扉一枚越しにバルド以上にクラウスの返答を待つ自分がいた。


「わかっている。決着はつけるつもりだ。だてに何年も探し続けて手に入れたわけじゃない」


 世界が暗転したのは錯覚か。不意に遠くから小さく名前を呼ばれ我に返る。扉の前で動かないレーネを不思議に思ってタリアが呼びかけたのだ。


 レーネはすぐさま身を翻しタリアの元に駆け寄ると、執務室には誰もいなかったと報告し、急ぎ足でその場から遠ざかった。

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