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「で、どうなんだ、彼女とは? 無事に和解できたのか?」


 なんとも軽い口調でルディガーはクラウスに尋ねた。昨日のノイトラーレス公国訪問に関する報告書を作成し、王に確認を乞うため執務室を訪れていたのだ。


 アルノー夜警団のアードラーであるルディガーがわざわざ書類提出のためだけに動くのは稀で、ましてや直接国王になど通常では考えられない。


 しかし昨日の一件に関してはありのままを記載して残すわけにはいかなかった。


 国王が他国で不必要に剣を抜いたことやレーネの言動など、ある程度の事実の修正が必要で、そのためにルディガーは誰を通すことなくこうしてクラウスの元へ赴いている。


「和解?」


 書類に目を通していたクラウスが顔を上げ、机を挟んで目の前に立つルディガーを見遣った。


「相当、険悪な雰囲気だったろ。無事に夜を過ごせてなによりだ」


 やれやれと溜め息混じりに呟かれ、クラウスは笑う。


「かなりの痛み分けだったがな」


 どういう意味なのか、深く追及するのも想像するのも避けたい。ここはどちらに同情するべきなのか迷うところだ。ルディガーはなんとも言えない面持ちになる。


「あまり強引なことをするなよ、逃げられるぞ」


「逃げはしないさ」


 ルディガーの忠告に対し、クラウスは間髪を入れずに答える。あまりにもはっきりと断言するのでルディガーは彼を二度見した。王の表情は確信に満ちている。


「あいつがおとなしくここに来たのは、果たすべき目的があってだからな。それが叶うまでは逃げやしないさ」


「そういえば彼女、前国王の時代に妹と共に地下牢に囚われていたことがあるんだって?」


 曖昧な情報だが、ノイトラーレス公国を訪れる前に聞いた話をルディガーは口にする。


 クラウスがゾフィやレーネと初対面ではないのは、昨日のやりとりを見ても明白だった。ゾフィも再会を喜ぶような内容を語っていた。


 とはいえ、もう十年以上前の出来事だ。お互いにまだ子どもといえる年齢で、レーネがクラウスをあれほど拒み、クラウスがレーネに執着するほどの事態があったのか。


 いまいちルディガーにはピンとこない。やはりフューリエンが大きく絡んでいるのか。


 前国王が幼い姉妹を(さら)ったのもそこに起因している。前々からクラウスには想い人がいて、それはフューリエンが関係しているのは薄々勘づいていた。そうすると、逆に妙だ。


「……てっきりお前はゾフィ女王を望むと思っていた」


 正直な感想を漏らすと、クラウスの鋭い眼差しがルディガーに向けられる。


「なぜ?」


 冷ややかな声にルディガーは失言だったかと後悔するが、理由はわからない。おかげで正直に答える。


「なぜって……たいした意味はないさ。ただ彼女が伝説のフューリエンと色々酷似していたものだから」


「酷似、ね」


 クラウスはルディガーの言葉尻を捉え、皮肉めいた笑みを浮かべる。


「彼女はもうすぐ十八になると言っていた。それに伴い瞳の色も元に戻るさ」


 フューリエンの末裔や生まれ変わりとして扱われるのがほぼ少女であるのは、その瞳の色が十八の年になると、自然と本来の色に戻るからだ。


 元々特殊な力も持たず、片眼異色という外見のせいだけで特別視される彼女たちは、十八の年になりようやく長年の呪縛から解放される。


 現にルディガーと同じアードラーであるスヴェンの妻ライラも片眼異色で囚われの身だったが十八の年になり両眼とも穏やかな緑色になった。


 しかしゾフィに関しても同じように扱っていいものか。彼女が国を(おこ)し、君主となったのは己の運や才覚だけだとは思えない。


 ルディガーは眉をひそめて言い返す。


「やけにはっきりと言い切るな」


「言い切るさ。それにルディガー、お前は大きな勘違いをしている」


 思わぬ切り返しにルディガーは目を丸くした。クラウスはルディガーから視線をはずし、おもむろに口を開く。


「伝説のフューリエンはけっして自らが前に立つことはなく、最後まで裏で初代王を支え、彼を偉大なる王にするのに徹した」


 本来なら歴史の裏に消えてもおかしくない彼女が、今のように初代王と同等の存在として扱われるようになったのは後世の人間の影響が大きい。


 口を挟みはしないが、それはルディガーも承知している事実だ。続けてクラウスは口角を上げ、改めてルディガーに問いかける。


「ともすれば、姉妹であり片やその身分を隠して妹に侍女として尽くし、片や国を立ち上げ女王にまで上り詰めた。本当にフューリエンを彷彿とさせるのはどちらだ?」


 クラウスの言いたいことを汲んで、ルディガーは大きく目を見開く。


「まさか……」


「それにフューリエンは左右の瞳の色が異なるのを特徴として挙げられるが、それは正確ではない。フューリエンは左の瞳の色が金色だったんだ。なら、最初からもう右目も金色だった場合はどうなる?」


 ルディガーはもはやなにも言えなくなった。クラウスは遠くを見つめる。


「鷲のように聡明で、闇夜を照らす月のごとく慈悲深い……。ずっと探し求めていた、もう逃がす気はない」


 固い決意は不敵な笑みと共に紡がれた。

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