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ご対面

 目に映ったのは女性の体だった。名前は覚えていないがこれだけは断言できる。俺は男だった......と。理由はそんなにすごいものではない。単に股間が寂しく感じただけだ。


 おまけに傷だらけ。その方面の専門知識はないが傷を見る限り野生の獣に噛みつかれたりひっかかれた後のようだ。


 というか俺は何に転生したんだ? 

 どうなったのかわからないが明らかに俺の居た現代日本の一般人とはあまりにもかけ離れた中世のヨーロッパの市民と似たいでたちで鎧を着ているのでそう仮定しておく。

 今の俺は何だということについてだが、寄生虫の類では? と思っている。なぜかというとまず最初に本能を非常に強く感じた。そして次に謎の細い触手っぽい神経のようなものを自由に操れる。もはやこの時点で人間の可能性はない。そして極めつけはこの状況。どちらかというと体を動かしているというよりボタンで操っているに近い。全身の筋肉を一本一本意識的に操っている状況だ。視界が開けたのは視神経に接続したからなのだろう。今は全身に伸ばして接続をしているので心臓の鼓動から内臓の動き、宿主の脳の活動まですべて把握している。

 


 ......この触手、外に出せないか?

 そう思った俺は彼女の傷口から真っ黒な触手を大量に伸ばし、束ねてみた。そうすると思った通り、どこぞの臓器を勝手に移植されて片目だけ黒になる読書大好き主人公みたいなことができた。やったね。

 肝心なパワーだが、意外とあった。木の枝に引っ掛けると直径5㎝ぐらいの太さで体を簡単に持ち上げられた。人間の筋肉が一平方㎝の断面積当たり10㎏の力を出せることを考えれば強力な方だ。......なんでこんな知識は残っているんだ?


 そうやって実験しているとあることに気づいた。彼女の止血のつもりでやっていたんだが、この触手はいろんなものに変化できるらしくて傷を埋めると傷が治るんだ。試しに傷全てに集中させたら全身の傷が治った。


 ......そんなことをして遊んでいると、なぜか急に力が入りにくくなった。周りを見渡すとなぜか木の幹が目についた。

 ......なぜだ、なぜアレから目が離せなイ?......アレを喰エ......イマのはナンだ?......アレを喰え......

 するとたちまち思考にノイズが走ってきた。本能が意識を侵食してくる。抗おうとしたが急に極度の飢餓感をおぼえ、気を取られた瞬間に勝手に触手が急速に伸びて近くの木に突き刺さった。


 ビキビキビキビキ

 木の幹の表面に躍動する血管のような模様が浮き上がり、硬く積み重なった樹皮にひびを入れる。


 ドクン、ドクン

 木に突き刺さった触手が躍動し何かを吸い取っていく。同時に先程感じた強烈な飢餓感が無くなって思考もクリアになっていった。


 ......なるほど、食事か。

 確かにあんだけ触手を生産していれば材料が足りなくなるわな。

 落ち着きを取り戻した俺は何気なく今寄生している宿主である彼女を彼女の目を通して見た。心臓、脳、血糖値は完全に正常に戻っているのに相変わらず寝ている。


 ふむ......そろそろ起きてもらわないと困るな。

 というわけで全身の痛点を一斉に刺激した。


 「ぴぎゃっ」

 お、起きたようだ。

 「あれ......ここは?」

 (こんにちは。)

 「はいぃぃ!!??」

 予想道理びっくりされた。

 (ちょっと落ち着いて。)

 「は、はい。」

 (別に声に出さなくても伝わるから。言いたいことは頭で考えて。)

 いま彼女の脳の言語野と触手を接続しただけなので本人が話したいことのみ俺には伝わる。プライベートを考慮した安心設計である。


 (頭で......こうですか?)

 (そうだ。)

 意外と呑み込みは早いようだ。


 ......こうして俺は宿主とのファーストコンタクトを済ませたのであった。

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