9 勇者お披露目(1)
不定期更新です。
完全に説明回ですね
次も説明回が続きます。
―――――――――――東雲楓と水無月紗夜が行方不明となってから1週間がたった。原因不明であり、もはや生還の希望すら残されていなかった。
「紗夜ちゃん………どこいっちゃったの?」
「紗夜さん……」
みんなが水無月紗夜を心配していた。東雲楓の事はどうでもいいと思っていた人が多いのか、話題には上がっていない。水無月紗夜は誰が見ても「華」であった。男子は勿論、女子すら嫉妬を覚えることはなく容姿端麗、品性良好、成績優秀、と言ったように正に非の打ち所がない。一方東雲楓の方は顔はそこまで悪くない、というよりもむしろいい方なのだが、性格が少し内気だったことと、水無月紗夜となんだかんだでいつも一緒にいるということで特に男子ウケはあまり良くない。
「もう少し楓のことも心配しようよ……」
僕は誰にも聞こえないほど小さな声でそう呟いた。僕は本当の楓を知っている数少ない1人であると自負している。彼は内気な所があると言っていたがそれはあくまで表面上の話で、彼の心の中の深くにはいつも紗夜さんの存在があった。ただ幼馴染だから、という訳ではない。そして紗夜さんも同じだ。紗夜さんは楓と一緒にいる時に一番楽しそうな表情をする。女子はその事を別になんとも思っていない人が多く、寧ろ微笑ましく思っていたのか、二人でいるところを見るといつもニヤニヤしていた。
しかし、男子は楓に嫉妬していた。なんで彼が紗夜さんから好かれているのかということも知らずに。紗夜さんと楓は互いのことが好きだが、その想いはどちらも気付いていない。
僕が思うに楓はとても面白い人間だ。第一印象こそ内気だが、とても社交的で紳士で他の人を尊重する心をもっている。少なくとも僕はそう思う。だからこそ紗夜さんは楓を好きになったのだと思っている。
だからこそ2人のことが心配だ。本当に何処に行ってしまったのだろう。本当の二人を知る数少ない理解者(自称)の一人として。
「―――――て………ぞ」
「ちょ……てよ、何なんだ……れ」
急に騒がしくなってきた。なにをそんなに慌てているのか。この時の僕には理解出来なかった。しかしその瞬間は不意に訪れる。
「うわっ」
「何これ…地面が光ってる?」
「ちょ、眩しいんだけど」
辺りが光で染まる。その時の僕達のクラスの中にいた生徒17人が巻き込まれた…………
ふと気がつくと、偉そうな王様?らしき人や王族?や貴族?らしき人に囲まれていた。
「成功だ………」
「遂に成功したのだな……」
ん?
成功?
何が成功したんだ?
嫌な予感がした。ふと下を見ると円形の何かが書かれていた。
「くっそ、魔法陣かよ。しかも状況から判断して召喚系のか」
僕はボソッと呟いた。正直少し腹が立つ。
「こんなに勇者が召喚されるなんて大成功ですな」
は?何が成功だよ。ふざけんな。正直そう思った。それなのに他の男子勢は「もしかして異世界召喚か?ヒャッホー!勇者として召喚されるとかマジかよwwチーレム作れるじゃん」とか言い出す始末で状況を把握できていない。異世界に来たからってご都合主義かよ。絶対貴族達にいいように使われて終わりだな、と呆れながら思う。
「すいません、何故僕らを召喚したのですか?そもそもする必要があったのですか?元の世界に帰れるのですか?」
質問せずにはいられなかった。
「分かった順を追って説明しよう」
そう言って大臣らしき人が説明を始める。
「我らの世界『リアース』にはかつてない危機が迫っておる。後数年以内に大厄災『魔の宴』が起きようとしている。過去に1回だけ起きたことがあるそうじゃが、その時は世界の人口が3分の1まで減ったそうじゃ。最終的には勇者の手によって全ての元凶である『七罪魔王』を討伐することで何とか終わらせたそうじゃが………恐らく七罪魔王は勇者以外でも倒せなくは無いが、その境地まで到達できるものが殆どいないのじゃ。可能性があるとするならば転生者かもしくは勇者様方のように召喚された存在ですな。元の世界に帰る方法についてじゃが………古い文献によると魔の宴を解決した後に門のような巨大な扉が現れたと述べられておる。恐らくそれによって元の世界に帰ることが可能なのだろう。ただ、帰れる保証があるとは言いきれぬな」
一通りの説明を受けたが納得できない点が多すぎる。この世界には召喚された異世界人だけでなく転生した異世界人やこの世界の人々がいる事だってそうだ。魔の宴に備えるにしてはあまり期待していないような言い草であったし、最初に「成功」とも言っていた。少なくとも「成功」があるということは「失敗」もある。そしてここでの「成功」の定義はなんなのだろうか?仮に「成功」を勇者の召喚だとする。そうなると少なくとも何らかの形で僕らの情報が王族や貴族側に知れ渡っていることになる。よって、勇者かどうかというのもそれによって判別可能なのだろう。勇者以外の召喚された存在を「失敗」と見なしていて「無価値だけど生かしてやってるから感謝しろ」みたいに王族や貴族が思っていても不思議ではない。他にも、危機が迫っていると分かっているのに特段慌てる様子がない。勇者が召喚できたことに対する安心感からなのか、それとも何かほかに隠していることがあるのか………
「つまり、俺達がその『魔の宴』というものを終わらせればいいのですね?」
学級委員長でいつもクラスではみんなをまとめる正真正銘のクラスカースト最上位にいる大山拓郎が貴族達に向かって話し始める。
「簡単に言うとそうじゃな」
「では俺達の力で絶対に止めてみせましょう!」
何勝手に決めてるんだよ、と僕は思う。相手の発言を鵜呑みにしで信用してしまうなんて、と思ったのだが現時点では他に方法がないのも事実だ。
「「「「「おぉ!それでこそ勇者様!!何と頼もしいのか!!」」」」」
そして大臣らしき人物が続けて言う。
「では、まずは世界を守るにしても最低限の知識は必要ですからステータスについて、そして今後の方針について話していきましょう」
評価&レビュー&ブックマークよろしくお願いします。