7 パーティー専用依頼(2)
不定期更新です。
巨大な大剣を持ち、耳が痛くなる様な咆哮を放ってくる。その目には俺達が映っている。
「―――――ブモォォォォ!!」
再びミノタウロスの咆哮。思わず足が竦む。動きたくても身体の芯から動くことを拒絶させられているようだ。
「チッ」
舌打ちをする。この状況を打開する策が思い浮かばない。鑑定をしてみる。
「嘘だろ……」
あまりにも相手が悪すぎた。ランクB相当のミノタウロス。レベルは63。圧倒的格上だ。さらにスキル欄を見てみると、〘剣術〙(A) 〘咆哮〙(B) 〘強靭〙(B)がある。
正直言って手詰まり、お手上げ状態だ。ミノタウロスは獲物を見るような目でこちらを見ている。完全に格下扱いであり、舌舐めずりをしている。
「くっそ、何か手はないのか?」
――刹那――
「うわっ、危な」
ミノタウロスが大剣を振り下ろす。その巨体に見合わない動きの素早さに翻弄される。
「――――ぬぐぅぅ」
剣を受け止めることは出来たがそれだけで精一杯だ。どのくらい持ちこたえられるかは分からない。
「紗夜ァァ、ナナンさんを逃がせぇぇぇ!足止めくらいなら暫く耐えられるからはやくしろ!!エルドウィンさんはこっちを手伝ってくれ!」
「楓、無茶しないでね?」
「分かったよカエデさん、極力頑張ろう。やれるだけやってみよう」
俺は叫びながら指示を出す。紗夜がナナンさんを逃がし、あわよくば応援の兵士なり冒険者が来てくれると助かるのだが…
「無い物強請りしてもしょうがないか…」
剣を構える。
正直怖い。
逃げ出したい。
―――でもやるしかない。殺らなきゃ殺られる!
「ハッ!!」
力強く地面を蹴り、ミノタウロスに接近する。
「――――エルドウィンさん!」
「了解っ!《戦闘狂想曲》」
「ありがとうございます!」
エルドウィンさんのバフスキルで能力を底上げする。これでギリギリ渡り合える。
剣と剣がぶつかり合う。
「くっ」
正直な所防戦一方だ。〘剣術〙スキルは同じAランクだが、単純な力の差で押し負けている。
「楓!大丈夫?」
「紗夜か……正直しんどい……戻ってきたってことはナナンさんを逃がしてくれたのか?」
「うん、他の冒険者を見かけたら応援要請してくれるって」
「分かった、ありがとう。……さて、もうひと頑張りといきます…か!紗夜、手伝ってくれ!」
「りょーかい!」
「魔術とジョブスキルの複合……『剣技・迅風斬』!!」
ジョブスキルの「クイックエッジ」と風魔術を組み合わせてさらに速くする。
「これでもくらえぇぇぇ!!」
―――ザクッ――
「ブモォォォォ!!」
「痛そうにしてくれたな、漸くダメージが入ったか」
ミノタウロスの腕から血飛沫が上がる。切断できた訳では無いが、深い傷を付けることができたようだ。
「紗夜!今だ!!」
「うん!これでもくらえ!『烈火獄炎陣』!!」
紗夜が今創り出した魔術「烈火獄炎陣」は火属性魔術の中~上級位の威力はあるだろう。まだ使うのに時間がかかるため、大技として起用している。
「これで倒れてくれたら僥倖か………」
思わず呟く。そろそろ限界だ。Eランクがここまで対抗したのだ。もう十分だろう。あとは援軍がやってくればいいのだが……
そう簡単に都合良く話は進まない。援軍はこない、ミノタウロスはまだ動けるといわんばかりの突進を仕掛けてくる。流石に体力が残っておらず、まともに受けてしまう。
「――――――ガハッ」
―――イタイ
―――イタイ
―――イタイ
意識が朦朧としてきた。立っているのも辛い。
「くっそ、鉄くせぇ」
出血しすぎた。
倦怠感が俺を襲う。
「―――――――後は頑張ってくれ…………………………」
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―ガタンゴトン―
―ガタンゴトン―
「……………」
「―――――エデ!」
「―――――デ!」
「―――――楓!」
「ん…なんだよ……」
「なんだよじゃないよ!楓は死にかけたんだよ!少しは心配させてよ!」
「分かった……でも、もう少し……静かにしてくれ……疲れる…から………」
身体が重い。荷馬車の中にいるということは分かるがどこに向かっている?あのミノタウロスはどうなった?いろいろ言いたいことがあったが、もう身体が限界だのようだ。再び瞼をゆっくりと閉じた………
それから何日たっただろうか。気づくといつもの宿のベッドの上に俺はいた。起きてみると紗夜がすぐ側の椅子で寝ている。
「そっか、そんなに……心配してくれたんだな………ありがとう、紗夜………」
その後、紗夜にめちゃくちゃ抱きつかれた。正直苦しかったが、心配をかけたということでチャラにする。そして、これまでの経緯を聞いた。
「Aランク冒険者か…………」
Aランク冒険者が駆けつけてくれたらしい。ナナンさんが必死に応援要請をしてくれたお陰か。別の機会に会ったらお礼をしなければならない。
因みに依頼の方はというと、一応失敗扱いになったが、報酬はナナンさんの好意で半額貰えることになった。正直助かった。暫くの間、俺は安静にしてないなければならず動く事ができないからだ。
ミノタウロス戦で、経験値を沢山得たらしく、大幅にレベルが上がっていた。
「俺達はまだ弱い…………せめて守りたい人を守れるくらい強くならないとな……………」
俺は紗夜を守るために強くなることを決めた。「死んでも守る」ではなく「生きて守る」ために…………
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第1章完結です。