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寝取り勇者と寝取られ狩人  作者: 山口みかん
第二章 エルフの森
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閑話 神官長

「聖女の村に聖騎士隊は向かわせたな?」

「はっ、隊長以下七名、既に現地に向かって出発しております」


 神官長は七名は多いなとは思ったものの、対魔族を隠し蓑にして送り出している以上はそれくらい必要かと思い直す。


「私の指示はしっかりと伝えてあるな」

「はっ、聖女を輩出したという点への口止めはしっかりと行うよう隊長に伝えております」

「わかった。よい、下がれ」

「はっ」


 副官が退出していく。

 神官長はそれに目をやること無く自らの思いにふけっていた。


 邪魔はさせん。

 魔王を封印し、その誉れとともにこの国の権力を握るのは我が神殿で無ければならぬ。

 そして私はその勇者を導いた者としてこの神殿の実権を握るのだ。


 私がこの国の頂点に立つ。

 それこそが我が一族の悲願。

 かつて我が先祖に国を救われながらそれに報いる事無く遠い地へ追いやり、一生をその僻地に閉じ込めて終わらせ、残された家族を迫害への道に追い込んだ、この国への復讐だ。


 ……いや復讐では無いな。

 我が手に返して貰うだけだ。


 神官長はその顔をにやりと怪しい笑みで歪ませた。


 神官長の祖先……

 それはかつて聖女クリスティアに邪な行いを暴かれてしまい、勇者としての地位を追い落とされたその者である。



「くそぉ……なぜだ。なぜ俺がこんな地に追いやられなくてはいけないんだ! 俺は勇者だぞ! 世界を救ったんだ! 偉いんだ! 女くらい自由にして何が悪い!!」


 かつて勇者と呼ばれた男、マサキは首にはめられた封印の環を両手で引っ張りながら蟄居(ちっきょ)させられている村の片隅にある、王都での住まいを思えば比較にもならないほどの小さな家の部屋で叫んでいた。

 村は三方を凪ぐことの無い海、切り立った壁のような険しい山に囲まれ、唯一外部に繋がる街道出入り口には王都の警備兵が常に詰めている。

 これでは勇者としての力を奪われた今のマサキでは逃げ出すことすら叶わない。


 この村の生活水準からすれば充分すぎる程に大きな家、贅沢な服、そして飢えることのない食事。

 それらを働く姿を見せることも無いマサキが得て、それでも満足すること無く村の住民を見下し荒れるマサキに対して、村人の目は冷たい。


 冷たい目を向けられたマサキは更に荒れて住民に辛く当たり、そして更に住民に嫌われていく。


 そんなある日、マサキの元を一人の女が訪れた。

 それはかつてマサキが魅了の力で心を奪ったものの一人。


 マサキが拘束された日以降、王都、及びその周辺、そしてかつてマサキが魔王封印の為に辿った道は全て王家の指示の元、大規模に調査がなされ、被害女性の魅了解除と可能な範囲での被害救済が行われた。


 だがその女性はとある理由により、その場所から遠く離れた場所に居た為、調査の網から漏れてしまっていた。


 それは、女性がその手に抱く小さな子供こそが理由。

 あれ程に多くの女性を手にかけながら奇跡的に宿ったその子供。

 彼女はその出産に備える為、妊娠中の期間を王都から遠く離れた実家のある町に里帰りして過ごしていた。

 その結果、彼女は魅了の影響を誰にも知られること無く今日まで過ごしたのだ。


 そして今、彼女はかつての勇者マサキと結ばれた魅了の繋がりに従いこの地に辿り着いた。

 

 マサキの心はその彼女と子供に救われた。

 ようやく訪れたマサキにとって(ささ)やかな幸せ。

 だがマサキがこれまで村の住民に対して行っていた行為が、今、(あだ)となる。


 地域のコミュニティに受け入れられないマサキの妻。

 近所の子供達の輪からつまはじきにされ、いじめの対象となるマサキの子供。


 そんな扱いを受ける家族を見る度、マサキは再び荒れていく。

 この村の住民が憎い。

 この村に追いやった国が憎い。

 他者を呪い続ける心はやがてマサキの心を蝕み、そして精神を病んだ身体もまた病んでいく。


 そしてその短い生涯を終えたマサキと、残された彼女と息子。

 彼女はまだ幼い息子を抱え、密かに村を出る。

 マサキ無き今、気が抜けた村の守護兵達はその妻と息子の村からの出奔を見過ごした。


 そして生まれ故郷に戻るも、国からマサキの扱いは所詮、偽勇者。

 彼女が勇者の妻、勇者の子を主張すればするほど、周囲の見る目は頭がおかしくなった女でしかなかった。

 傍から見た彼女は、どこの馬の骨ともしれない男の子を産んだ女。

 周囲はその状況に耐えられなくなった女が精神を病んだとしか思わない。

 そして、家族ですら彼女を突き放すようになっていく。


 当然、そんな扱いを受ける彼女の子供も穿った目で見られてしまう。

 どこに行っても受け入れられず、変わることの無い辛い日々。


 そして彼女も本当に精神を病んでいく。

 子供に恨み辛みを言い聞かせながら……


 そして彼女もやがて短い一生を終えた。

 残された子は一人孤児院に引き取られる。

 そして子は生きていく為、その孤児院を運営する教会で下働きを始めた。

 愛する母親がその死の間際まで聞かせ続けた勇者の子としての誇りと国への恨みを引き継いで。


 やがて子はその地で家族を作る。

 ここから始まった一族の国への復讐の歴史。

 一族はその歴史の中で少しずつ教会での地位を上げていき、今代でついに辿り着いた神官長の座。


 今、その一族の悲願は目の前、手の届く寸前にあった。

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