表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寝取り勇者と寝取られ狩人  作者: 山口みかん
第二章 エルフの森
32/41

第08話 相棒

 アスベルはまた一週間をかけ、森の外周を抜けると、最初に入ってきた草原に出た。


「森の深部もあれはあれで気持ちいいけど、やっぱこの広い草原の光景は悪くないな」


 さてこれからどこを目指すか、勇者の行く先がわからない以上、まずは情報を集めないと……

 などと思いながらなにげ無く周囲をぐるりと見渡す。


 するとそこによく見慣れた男が立っていた。

 アスベルはその男が目に入った瞬間、目が据わる。


「ようリンドン、こんなところまで何しに来たんだ? 別れの挨拶もできなかったから、わざわざ村からお見送りに来ましたって訳でも無いよな」

「当たり前だ、アスベル! お前は自分が何をやってんのかわかってんのか?」

「ああ。よーくわかってるぜ?」


 アスベルのその舐めた言葉使いに、リンドンの目がキッとアスベルの顔を見据える。


「なんで殺した」


「殺した? ああ、クソジジイか」

「村長だっ! お前の親も同然に面倒を見てくれた人だっ! なんで殺した! そこまでするほどか、アスベルっ!!」


 リンドンはアスベルの言葉に激昂しアスベルを問い詰めた。

 その言葉にアスベルは呆れた口調で答える。


「そこまで……ねぇ。充分な準備をして村を出た連中すら先が見えないってのに、ロクな準備も許さず出て行け…… これがそこまで、ねぇ? じじぃは殆ど俺を殺しにかかってるようなもんじゃないのか?」

「話し合えば済むことだったろうがっ!」


「話し合い? それを先に放棄したのはお前らだろうがよ」

「俺らが!?」


 リンドンはアスベルの返答にいぶかしんだ表情をした。

 その表情にアスベルは益々苛立ちを募らせていく。


「リスティの事。なんで俺に一言も相談無しにあんなことになってたんだ?」

「あ、ああ、その事か…… それはお前も知っていただろう? 村は先も見えないほどに危機的状況だったんだ。その時、勇者が村に来て、村を助けてくれて、勇者もリスティを求めてて、それで村長もその感謝から仕方なく──」


 仕方なく? 仕方なくって何だ。

 誰に対して仕方ないってんだ?


「仕方なく? じじぃはあの時、俺のせいで計画が台無しって言ってたぜ?」

「それは! 村長も村の未来を思っての…… 誰かが犠牲にならなきゃ村は潰れてたんだ!」

「だからなんでそれを俺に言わねぇんだよ。それに俺がいたときはまだぎりぎりいけるって話だったぞ」


 あの頃、村の切迫した食糧事情を支えていたのはアスベルの狩人能力だった。

 それ故に食糧事情を一番把握していたのもアスベルだ。


 だからこそアスベルは成年の儀の前に無理をしてでも森の奥へと分け入り大物狩りを実行していたのだから。

 そして自分がいない間も大丈夫と村長に確認して村を旅立った。

 それがどうしてそんな話になる。


「無理だと判明したのはお前が旅に出た後だった。そしてお前が戻ってくるのはまだ先。だけど勇者がいつ立ち去るか判らない、だから…… 皆、余裕をなくしてたんだ」


「それで欠席裁定でその場に居ない俺に白羽の矢を立てましたと。大した話し合いだ」


 アスベルは口角を上げ、呆れた眼差しでリンドンを見る。

 あの時点で確保していた食糧は、何かで無駄に消費しない限り足りなくなるなどあり得ない話だ。

 リンドンの明らかに苦し紛れの嘘に意味は無く、何かがあった……それを指摘してやる必要すらも感じない。


「お前とて村の住人だろう!」

「だから何も言わずに犠牲になれと?」

「村の為だったんだ!」


 あまりにも身勝手な言い分にアスベルの怒りが爆発する。


「リスティのことは他の誰でも無い、俺が一番の当事者だ。にも関わらずその当事者に何の説明も無し、何の反論も提案もさせずに無視。皆で村を盛り立てようって言ってたよな? なのにこの扱いはなんだ。お前らにとって俺の意見なんか聞く必要もねぇ、配慮する価値もねぇ、その程度の存在って事だろ?

 そのくせ、どうせ今になって勇者に捨てられるかもしれねぇって思ったんだろ?

 勇者ってのは村で囲える存在じゃねぇしなぁ。

 んで、ちょうど利用しやすそうな奴がいたなって思い出したんだろ? 不要だから片付けておいた道具が使えそうだから取り出しに来ましたってか? 俺は便利な道具だなぁ、リンドンっ!」


 アスベルの剣幕に追い詰められたリンドンは思わず最悪の逃げの言葉を発した。


「リスティだって勇者を選んだんだ! 俺達だけが決めたわけじゃない!」


 そしてアスベルの顔から一切の表情が消える。


「……ああ、そうなんだろうな。国が呼んだ勇者が望んで、村長が計画して、リスティがその気になって、お前らが煽った。全員俺を無視してな。皆同罪だ。もうそれでいいだろ?」


 もはやアスベルにはリンドンの主張を聞く気は無い。

 いや最初から無かったんだ。

 リンドンは、アスベルの表情からもそれを理解した。


「アスベル…… お前、そんなやつじゃなかったよな。お前はいつだって──」

「お前が俺の何を知ってるんだ? お前が知ってるのはお前らにとって都合の良い俺だけだろ」


 アスベルはリンドンの言葉を遮り、嘲笑交じりに答えた。


「……お前、もう駄目なのか。村の事をその程度に」

「駄目? 言うことを聞きそうに無かったらあっさり駄目扱いなんだな」


 互いの間に緊張感が高まっていく。


「もうお前は壊れちまったんだ。お前が女のことくらいでそうなるとはなぁ。せめて俺が引導を渡してやるぜ」

「はっ! 都合の良い道具がいつまでも無抵抗だと思うなよ?」


 二人が同時に戦闘態勢に入った。

 アスベルが弓を構え、リンドンはツーハンデッドソードを縦に構える。


 リンドンのとったその構えは、剣の柄を腰の位置に合わせ、右手で柄を、左手でリカッソ部分を持ち、そのまま剣の腹を見せるよう真っ直ぐ縦に構えて身体の中心線をカバーする彼特有の構え。


 これは身体の中心に位置する各急所を守りつつ、細かい手元の動きだけで飛んでくる矢を叩き落とすことが狙いである。

 そしてこれはそのまま槍のように剣を突き出す攻撃も可能な、アスベルにとって厄介な構えだ。

 その剣の間合いは二メートル以上。

 踏み込みを考えればそれが小回りの利くものであっても三メートル近くはリンドンの間合い。


 当然俺の攻撃を熟知してこの構えを取るリンドンに遠・中間距離からの射撃は通用しない。

 だからと言って、下手に剣で近距離を挑めば同じ条件でみて俺の間合いは二メートル少々。

 剣自体の長さの差と体格の差はでかい。

 おまけに間合いは勿論、剣の技量でもパワーでもリンドンに分がある。

 さてどうする。

 って、考えるまでもない。

 奴が剣士なら、俺は弓手だ。


 バックステップしながら風弓を撃つ。


「そうだよなぁ! お前はやっぱりそれだよなぁ!」


 リンドンは間合いを詰めてきながら飛んでくる矢をあっさり弾き落とす。

 そこに矢筒から取り出した二本の矢の一本を引き抜く動きの流れを利用してそのまま投げる、と同時にもう一本の矢は腰元で弓につがえて、引き上げると同時に撃ち込む。


 近距離で弓を構える隙を隠す手投げと弓の二段撃ちだ。


「ちっ!」


 リンドンは顔を狙った一本をぎりぎりでかわし、もう一本はぎりぎり剣で弾いた。


 アスベルはリンドンが若干体勢を崩したその隙に矢を上空に向かって撃ち、弓をアイテムボックスに戻すと、長剣を抜いてリンドンに切り込む。

 しかし、リンドンは剣を合わせる事を嫌って後ろに引いてその剣をかわす。

 そこに今までリンドンが居た位置の地面に上から急降下してきた矢が突き刺さった。


 それを見たリンドンは口笛を鳴らし、アスベルを賞賛する。


「芸が増えてるじゃねぇか、アスベルっ。だがもう覚えたっ!」

「まだまだあるぜ? お前の頭で覚えきれるか、リンドンっ!」

「ぬかせぇ!」


 アスベルは再度剣を戻し、弓に持ち替える。

 リンドンは間合いを詰めつつ弓の向いた方向から軌道を見切って矢を躱し、アスベルが矢を撃った隙に剣を叩き込もうとしたが、すんでの所でその弓が風弓で無い事に気付き足を止めた。


 そこにアスベルの放った矢が撃ち込まれる。

 その矢に火を纏って。


 そしてリンドンはギリギリでその矢を弾いた。


「ほっ!」


 キィーン!


 リンドンは火矢を弾いたときに感じた放射熱に戦慄を覚える。

 あの瞬間にこれだけの熱を感じたということは、あの矢が纏っていた炎はかなりの高熱らしい。


「新弓とはな!」


 ぎりぎりで矢を躱そうとしてたら吹き上げてた炎に身を焼かれたな……

 アスベルの野郎、危ねぇ弓を手に入れてるじゃねぇかよ。


 そしてアスベルが咄嗟に矢を弾く選択をしたリンドン対して素直に感嘆の声をあげた。


「いいカンしてるぜ、リンドンよぉ」


「お前程じゃ無いけどな」


 さすがアスベル、弓手のくせにこの距離で俺相手によくやるぜ。

 弓をまた風弓に戻してやがる、いちいち判断がめんどくせぇ。

 だがこの距離なら加速の矢は意味が無い、さあ何を撃つ? また急降下してくる矢か?


 だがアスベルは、リンドンのその予想を外して矢に小型の竜巻を纏わせ、リンドンのすぐ手前の地面に撃ち込む。

 そして、その竜巻に巻き込まれた地面の土砂がリンドンの目の前に吹き上がった。


 くそっ、目潰しだとっ!? させるか!


 リンドンは一瞬でそう判断するとその場から横っ飛びに離れ、土砂が身に被るのを避けた。

 だが、その体勢を崩したリンドンに対してアスベルが剣を構えて突っ込んでくる。


「もらったぜぇ、リンドンっ── なっ!?」


 しかし、アスベルが突き入れたその剣をぎりぎりで躱したリンドンは、その丸太のような太い右腕の肘を上からアスベルの背中に叩きつける。


「がはっ!」


 そのまま地面に叩きつけられたアスベルの身体を今度はリンドンの左足が思い切り蹴飛ばした。


「ぐふうっ!」


 アスベルの身体が三メートルは飛ばされた後、ごろごろと地面を転がった。

 そしてそこに走り込んできたリンドンの剣が叩きつけられる。


 アスベルはそれをぎりぎり身体を半身上げる事でかわすと、そのまま転がって間合いを離してやっと立ち上がる。


 転がる間にアスベルは受けたダメージを把握する。

 蹴られたのは右脇腹…… どうやら内臓の破裂は無い……が。

 あのパワーで思い切り蹴飛ばされたこのダメージはやべぇ。

 足に力が……


「おいおい、アスベル。もう足に力が入ってないんじゃねぇか? ふらついてるぜ? そんなので俺の攻撃をうけるのはもう無理だろ、諦めたらどうだ」

「うるせぇよ」


 だが、剣はぎりぎりで落とさずにいられた、まだやれる。

 剣をそのままアイテムボックスに戻し、火弓に持ち替えリンドンに向ける。


「撃つか? それを叩き落として終わりだぜ? お前の負けだ」

「ああ、そうかいっ!」


 アスベルはそのままくるりと背を向けた。


「なっ?」


 予想外のアスベルの行動に一瞬気を取られたその隙に、アスベルは爆裂矢を目の前の地面撃ち込み、その瞬間に弓を捨て身体を半ひねりしながらアイテムボックスから取り出した剣を脇の下から突き出した。


 ズッドオォッ!!!!


 一瞬の間の後、撃ち込んだ矢が目の前で大爆発。

 その爆発に合わせてリンドンに向けて飛んだアスベルの身体は、更に剣を脇の下から突き出した状態のまま爆風に押されて加速し、身体ごとリンドンの懐に飛び込んだ…… そして


「ぐふぁあぁ!! アスベルぅ、貴様ぁ……」


 その剣がリンドンの胸に深く突き刺さっていた。


「おめぇは…… 相変わらず咄嗟の反応がダメダメ、だな…… 前にも、教えたろ?」

「くっ……そぉぉ……」


 アスベルは既に矢をつがえた状態の弓を構えてリンドンと話す。


「んじゃ、お別れだ。村人より先に地獄に送ってやるぜ?」

「はっ、甘いぜ…… アスベル」

「あ?」

「村にはぁ……もう…… はぁ、はぁ、はぁ…… プロの警護が、ついてる。おめぇじゃ…… 無理だ」

「ほー、そりゃいい情報だぜ、楽しみだ。すぐにでも村に向かわせてもらうぜ? 礼を言うわ、んじゃさよならだ、相棒!」

「くそったれぇぇぇ、アスベルぅぅぅぅぅ!!!!!!」


 リンドンの雄叫びにアスベルは構わず爆裂矢を放つ。


 ズドンっ!!!


「なんだ? 相棒……って、首から上がなきゃ喋れねぇよな、すまね」


 頭を吹き飛ばされたリンドンに、アスベルはそう声をかけた。


 どすん。


 そしてリンドンの身体が仰向けに倒れる。

 それと同時にアスベルもその場に腰を落とした。


「っはぁ…… 情報の礼だ、身体はそのままにしといてやるよ。喜べ、お前のようなクソ野郎でも獣共の命の糧として役に立つんだぜ? 光栄に思うんだな」


 そして回復薬を飲んでしばらくその場に転がってそのままでいた後ようやく立ち上がり、倒れたリンドンの身体から剣を抜きとると、ひとまず町に向かってゆっくりと歩き始めた。

9/22 戦闘中の、アスベルからリンドンへの視点切り替え描写を追加

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ