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寝取り勇者と寝取られ狩人  作者: 山口みかん
第二章 エルフの森
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第01話 復讐への復讐者

 アスベルは森を歩き続け、森を抜けてすぐにある町を目指していた。


 まず金を手に入れなきゃな。

 村長の野郎はぶっ殺してやったが、これから先は長い。

 金が無きゃ全ては始まらねぇ。

 そろそろ、処分代行を依頼した地竜の金が入っているはずだ。


 そして、殺らなきゃいけねぇのは、勇者、リスティ、村の連中、そしてこの国。

 まぁ、村の連中はどうにでもなる。

 多少手を焼きそうなのは共に冒険者として一緒に旅をしていたリンドンくらいで、後は考える必要のない雑魚だ。

 後はどんな警護を雇うかだが、幾ら改革されたとは言ってもその効果が出てくるのはまだまだ先のこと。

 そこを高めに見積もったとしても大した警護を雇えるはずもねぇ。

 やっぱり問題外だな。


 問題はここから。


 まず、勇者。

 こいつは聖女になったリスティが常に側にいるだろう。

 そうなると、そこにいるのは伝説を超えた何かだ。

 俺はあの魔女はともかく、黒い巫女には手も足も出なかった。

 勇者は仮に聖女の支援が無かったとしてもあれを倒せると想定するべきだ……

 つまりは、俺もあれを倒せるくらいにならねぇと話にもならねぇって事だな。


 そしてこの国。

 個々でみれば勇者ほど圧等的な力がある筈もねぇ。

 あるなら、そもそも勇者を召喚する意味は無いからな。

 けど、組織力はそういう力とは異なる強大な力だ。

 一対一なら負けなくても、一対多となればどんな英雄だろうと、その物量の前に油断はならねぇ。

 疲労、僅かな油断、そういったものを常に狙われ続ける。

 物量はこうして個人の強さをあっさりと凌駕してくる。

 それが組織力の強さってやつだ。


 さて、どうすっかねぇ。

 冷静に見て、今の俺にはどっちもお手上げだ。

 神から貰った力も無ければ、大勢の部下もいない。


 とはいえ、それは今の俺だ。

 未来の俺まで否定はしない。

 その為にもまずは金だ。

 それは今から足がかりになる程度は手に入るはずだ。


 それを手に入れたら次は力を手に入れる。

 それも心当たりはある。


 個人に対して戦いを挑むにも、例えば国を倒す為に組織を作るにしろ、とにかく俺自身の力が要る。

 出来るか、じゃない、やるんだ。


 魔族連中に変な勧誘を受けてるのはひとまず置いておく。

 あの連中を信用してたら命が幾つあっても足りやしねぇ。

 復讐できれば命はいらねぇとか格好付ける気は無い。

 泥をすすってでも生き延びて、復讐した後の世界を生きる。

 それでこそ俺の勝ちだ。

 死はどんな形であれ敗北だぜ。


 だーが、その前に……

 とにかくメシだな。


 適当になんか狩るか。


 これもまたアスベルが森を歩くことを選んだ理由。

 ここなら食べ物に困る事は無い。


 アスベルは、まず目の前にある欲求を叶える為、弓を手にした。


      ◇      ◇


「仲間?」

「そう、仲間は絶対必要だよ。 カズトがどんなに強くったって、魔王軍と戦うには仲間が必要」

「そんなもんかな?」


 カズトとしては聖女たるリスティを得た今、すぐにでも魔王を倒しに向かうつもりで居た。

 だが、その希望をリスティは一蹴した。


「うん。だってカズト、魔王の居場所知らないでしょ?」

「魔王って、魔王城とかにいるんじゃないのか?」

「基本的にはね。でも、その魔王城は復活の度、場所が変わるの」

「場所が変わる?」

「うん。今までの歴史から見て、それは間違いない」


 ああ、そりゃ面倒そうだとカズトもようやく認識した。


「そうすると魔王城を捜して旅を続けることになるんだけど、その間は魔王の差し向けた刺客と常に戦うことになるの。カズトがいくら強くても、その組織力を侮っちゃ駄目だよ?」

「なるほどな。リスティ詳しいな」


 田舎にずっと引きこもってたくせに、なんだその知識は。


「お母さんに教えて貰った!」


 そう言ってリスティは胸を張った。


 つまりはこういうことらしい。

 お義母さんは元中央神殿一級神官。

 神殿には神殿開設以来、数千年の過去の歴史が記録保管されているらしい。

 それはこの神聖王国の歴史よりも古く、それこそ一般には出回っていない歴史も含めて……

 お義母さんはその全部はどう転んでも無理であるにしろ、かなりの知識を習得しているらしい。

 そして、リスティはそれを彼女から受け継いだ……


「流石だな、お義母さんもリスティも。頼りにさせて貰うよ」

「うん、任されたよ。だから仲間は必要ってことで」

「そうだな。で、どんな仲間が必要かな」


 ついでならここもリスティに確かめよう。


「そうだね、勇者のカズトは物理戦闘も魔法戦闘も最大級にこなせるから、パーティーだとやっぱり前衛、後衛どっちのフォローにも回れる中衛かなって思う」

「中衛ね」

「うん。それで私は勿論、回復と補助」

「当然だ」

「だから必要になるのは、まず生粋の前衛かな。前衛が敵を抑えている間にカズトが自由に動けるし」


 前衛ね。

 うん、重要だな。

 やっぱりゲームでも勇者と戦士は並び立つパーティーの要だったしな。


「そうだな。で、前衛の当てもあったりするのか?」

「この人ってのはいないけど、前衛に欲しいなって心当たりはあるよ。獣人族なんだけど、後で説明するね」

「ああ」

「それから後衛だけど、カズトが魔法を使えるから、必要なのは物理的な攻撃ができる弓手……なんだけど……」


 リスティが言葉に詰まった。

 考えていることはわかる。

 彼の事だ。


「リスティ……」

「私…… アスベルに酷いことをしたよね」

「それを言うなら俺こそがそうだ」

「どうしよう……」

「だからといって、もう後戻りは出来ないだろ? リスティも」

「……うん」

「俺と一緒に前を向いていこう。そして、万が一……」

「万が一?」

「彼に謝ることのできる機会が、もし万が一、いや億分の一でもそれ以上に低い確率でも、もしあるのなら……」

「うん…… 一緒に謝ろうね」

「ああ」


 随分と身勝手な言い分だ。

 実際に許して貰えると思ってもいない。

 それは俺もリスティも言うまでも無くわかっている。

 わかっているが、今はそう思うしかない。


「それで、後衛は弓手がいいんだな?」


 だから努めて明るく話す。


「うん。魔法はカズトが使えるしね。それにカズトには必要ないけど、普通の魔法使いは詠唱と溜めがいるから、それより即攻撃に移れる弓手の方がいいんだよ。魔法耐性が高い敵に対してもね。魔族って往々にして魔法耐性高いからなおさら物理遠距離攻撃は重要だよ」


 なるほどな。

 ゲームだと、勇者、戦士、魔法使い、僧侶が基本形だったりするが、そこはやっぱり違うんだな。


「それから、もう一つ」

「もう一つ?」

「うん。国王様に謁見しに行こうよ。カズトはあんまり乗り気じゃ無いだろうけど……」

「ん、ああ、まぁ……な」


 王様にはあれだけつっけんどんな対応をしたからなぁ。

 いくら精神的余裕が無かったにしろ、今にして思えばあれは失敗だったと思う。


「でも、組織力には組織力。魔王が復活したんだから大国間の三国同盟が結成されてる筈。そこから貰える情報ってやっぱり重要だし」

「それはそうだな」


 情報の重要さはカズトとて、元世界の経験からも身にしみてわかっている。

 魔王の居城がどこかわからないというなら尚更だ。


「大丈夫、カズトは立派に(聖女)を連れてきたんだから、国王様だって無碍にはしないよ。だから一緒に行こっ?」

「ああ」


 やっぱり頼もしい。

 そして俺達は王城へと足を向けた。


      ◇      ◇


「やっぱり俺は、お前らが何と言おうと村長の決定には納得いかねぇ」

「リンドン、落ち着け。お前、声がでけぇよ」


 リスティが勇者と村を出ていき、村長がその状況にキレてアスベルを村から追放する事を宣言した後、村の若い衆は皆、集会場へと集まって議論を続けていた。


「これが落ち着いていられるかよ。リスティを勇者に差し出そうってまでは村の生きるか死ぬかの窮状を考えたらまだ我慢できた。アスベルを説得するつもりもあった、けどな!」

「ああ。追放は流石にやり過ぎだと俺も思う」

「だろうがよ!」


 リンドンはその怒りを隠そうともしていない。

 かつて、アスベルとは共に冒険者として村を出ていたこともある。

 そこで見てきたあいつの知識、度胸、機転、行動力…… あんなに頼りになる男は他に居なかった。

 友人としてだけでは無い、村の未来を思うならあいつを追放するなんて到底考えられる手段では無い。


「けどよ。確かに村長の言うとおりアスベルがこの村に残っていたら、リスティも勇者様もこの村には帰ってこないかもしれないだろ」

「ああ、そしたら村の発展の為にも大きな損失だ」


 こうして下らない議論は何時間も堂々巡りしているのだ。

 そしてリンドンは遂にキレる。

 そして議論の方向性が変わる。


「だからよ! 今の状態で何が不満だ! もう充分じゃねぇか。 これからは俺らが発展させていけばいいだろがよ!」

「リンドン……」

「アスベルが居ようが居まいが帰ってくるかもわからねぇ勇者に期待するよか、アスベルの方がよっぽど頼りにならぁ!」

「………………」

「そうだな。勇者様は魔王を封印したら貴族階級の授与が確実だしな……」

「ああ。帰ってこないよな、そもそも……」


 ようやく話になった。

 これでアスベル追放撤回への足がかりはできた。

 若衆の総意となれば、如何な村長とて無視出来るはずはない。

 リンドンは安堵する。


「それじゃ、俺は村長に直談判してくらぁ」

「ああ、頼んだ」


 そしてリンドンは集会場を飛び出していった。


 そして目の当たりにする。

 村長の惨劇現場を……


「なんだこれは…… なんだってんだ、おい……」


 徹底的な惨殺。

 傷の無い箇所などどこにも無い。

 身体中が切り裂かれ、そして刎ねられた首……


「ひでぇ……」


 こんな遺体を見たのは冒険者をやっていた頃、魔獣に食い荒らされた冒険者の遺体を見て以来だ。

 だからギリギリ直視出来ていた。

 他の者なら、即吐いていたことだろう。

 だから冷静に遺体を見た、見ることができた。


 そして……

 そしてこれを……

 この傷跡を付けそうな武器に心当たりがある。

 その武器を使い、この惨状を作る動機がありそうな奴に心当たりがある。

 共に冒険をしていたリンドンだからわかる。


「アスベル……かよ…… アスベルなのかよ! お前なのか、村長を殺したのは!」


 リンドンは膝から崩れ落ちる。

 その目からこぼれ落ちる涙にも気付かない。


「お前……なのかよ」


 ここまで、ここまでしなきゃいけなかったのか?

 村長はお前にとって親同然だったじゃないか。


 俺にとってもだ!


「アスベル…… 許さないぞ…… アスベル」


 リンドンの目が据わっていく。


「絶対に許さねぇ!」



 そして、村長の死は村全体に伝えられた。

 村民の間に動揺が走る。


「村を捨てて逃げるか?」

「アスベルがどこに居るのかわからないのにか? 村を出た途端殺される可能性だってあるんだぞ」

「そうだ、それに、村を出てまともに生活していけると思っているのか?」


 村民の中でも当然意見が割れる。


「村を出た奴は一杯居るだろう!」

「そいつらの中で成功したのはどれ程だ? 夢を見て村を出て、成功したのはほんの一握りもいやしない、一つまみだ」


 かつて村を出て、出戻ってきた男は言う。


「ここに戻ってこられりゃ御の字、殆どは移住した先でよそ者として肩身の狭い思いをしながら日々を窮屈に生きるか、乞食のような生活だ。それがわかってるから厳しい生活であっても今までこの村に残ってたんじゃないのか? お前らも」


 そして皆、押し黙った。

 その中からぽつりと声が上がる。


「村を育てよう」


 その声に皆が同調していく。


「ああ、そうだ村を育てるんだ。幸い、その下地は作って貰えてる」

「そうだ、それで金を稼いで警護を雇えるようになればいい」

「そうだな。取り敢えず、今ある金をかき集めてすぐにでも人を雇おう。秋の実りは確実だ。金は稼げる」


 村の意見は纏まった。

 そして、それまで黙っていたリンドンが口を開く。


「じゃあ、村の方向性はそれでいいんだな? それじゃ俺はアスベルを追うことにするわ」

「リンドン、お前」

「アスベルの事は抜きにしても村に警護を雇うのは賛成だ。村が豊かになればそれを狙う野盗共も増えるだろうが、村の人間が増えるのはもっと先だ。今の自警団で対応するには心許ねぇ。プロがいた方がいい」


 リンドンは元冒険者としての冷静な目で考え発言する。


「だがな、それとこれとは別だ。俺はアスベルを追う。そして責任を取らせてやる」


 それはつまり殺すと言うこと。


「だが、アスベルがどこに行ったかお前にはわかるのか?」

「わかるさ。俺にはな」


 冒険者時代、アスベルの行った場所は俺も共に行った。

 奴の行動原理もよく説明された。

 その方が連係を取りやすいからだ。

 だからわかる。


 アスベルは村長を殺した。

 なら、その目的は間違いなくリスティに関する復讐。

 だったらアスベルが狙う対象の一人は確実に勇者。

 だが、その力の差を理解出来ないあいつじゃ無い。

 ならば、その力を少しでも埋める為、技術も武器も求めるだろう。

 とすれば……


 リンドンはその手のツーハンデッドソードを握りしめ言った。


「行き先は、エルフの森だ」

これからしばらく書き溜め期間に入りますので、当面週一回の投稿になります。

お待たせしますが、よろしくお願いします m( - - )m

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