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寝取り勇者と寝取られ狩人  作者: 山口みかん
第一章 はじまり
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第01話 狩人と彼女 そして召喚の儀へ

「見てくれよリスティ。今年一番の大物だぜ」


 そう言って狩人姿の青年は、ここまで引っ張ってきた森の木を簡易にくみ上げて作ったソリの上に乗せた巨大な猪の魔獣の横に立ち、自慢げに鼻を擦った。


「アスベル凄い。こんなに大きいのよく倒したね。でも、また森の奥まで行ったんでしょ? 危ないわよ」

「仕方が無いだろ? 食糧確保しなきゃさ。 これでもまだ足りないだろ」


 そう、今年も雨不足で村の食糧事情は極めて芳しくない。

 おまけに以前の魔王封印から今年で丁度300年。

 今年こそ魔王の復活がくると予想される中、中央では商人達の食糧買い占めが行われ、食糧確保が現王権の最優先問題になっているらしい。

 これは、こんな田舎にまでそんな話が流れてくるほどには死活問題だと言うこと。

 この分だと税の取立も、例年のようなお目こぼし無く厳しいものになるだろう。


 今の村の食糧事情でそれに耐えられるかというと……

 まず無理だ。

 今から秋の終わりに取れる作物を種付けしても、この水不足では収穫を期待できるはずもない。


「今残ってる穀物はぎりぎり税の分しか残ってないから、消費するわけにもいかないだろ? だったら、肉や木の実なんかを今のうちに集めておかないと」


 間違いなく冬が越せなくなる。


 この猪もかなりの大物ではあるけれど、燻製にして保存する、村人が冬を越せるだけの食糧として考えればまだまだ心許ない量でしかない。

 木の実はリスティを始め、村の女衆が朝から晩まで頑張って集めている。

 だから肉類を可能な限り集めるのが、それだけの力を持つ己に課せられた指命だとアスベルは強く自覚していた。


「それはわかっているけど、もしアスベルに何かあったら村が…… それに……」


 若い人間が少ない村事情。

 その中で、若手狩人である彼、アスベルの存在はこれからの村の未来を支えていると言っても過言では無い。

 これでまだ一人前として認められない年齢なのだから、末恐ろしい青年だとも言える。

 とは言え、リスティにとって彼はただ村の一員として重要だという話だけでも無い。

 一人の男性としても心配なのだ。


「大丈夫だよ。俺は魔物にも負けたりしない。いざとなれば飛龍だって落としてみせるさ。まして地竜くらいわけは無い」

「アスベルったら……」


 アスベルの言葉に頬を染めるリスティ。

 それもその筈、今年、彼が一人前と認められるために挑む成年の儀。

 そこで彼は地竜狩りを宣言している。


 それは……


「地竜を狩れば、成年として認められるだけじゃ無い、村一番の実力を持った狩人として認められるんだ。そうすれば……」

「アスベル」


 アスベルを潤んだ瞳で見つめるリスティ。

 彼女は村の巫女の家に産まれた一人娘である。


 彼女の存在もまた村にとっては重要な位置付けであるため、これはという男の元に嫁ぐことが望まれる。

 それが地竜を狩れる男ともなれば確実になるのだ。


「俺は絶対にやり遂げてみせる」


 アスベルがリスティを腕の中に抱き寄せると、リスティは顔を上げて少しアスベルを見つめた後、目を閉じた。


「リスティ……」


 そして二人の唇が重なった。

 しばらく二人はそのまま抱き合った後、名残惜しげに唇を離す。


「成年の儀を済ませたら……」

「ええ、アスベル、その時は」


 村一番の男になるアスベルにこの身を捧げる。

 それは村を守る巫女としての誉れでもあった。

 そして村の次代を守る強い子を産むのだ。


 その想いを乗せて、リスティはもう一度アスベルに口づけた。


「二人で幸せな家庭を作ろうな、リスティ」

「ええ、アスベル」


 私達二人の門出をきっと神さまも祝福してくれるに違いない。

 今のリスティはそう信じて疑っていなかった。



 そしてその頃、王都では。


「この水晶玉に現れた黒い影は……」

「間違いありませんな。ついに復活したのです、300年前に封印された魔王が」

「準備は出来ているな?」

「はい、滞りなく、いつでも可能です」

「わかった。では、執り行おうとしよう、勇者召喚の儀を!」


 王はそう宣言し、召喚の間へと歩を進めようとしたが、そこで王の前に跪き呼び止める者がいた。


「お待ちください、王」

「なんだ、この非常事態に我を呼び止めるほどのものか?」

「はい。是非に発言をお許し頂きたいと」


 呼び止めたのは王家を守護する魔法兵団の長を補佐する最古老の賢者。

 いかな王とて、この者の発言は無視できない。


「お前ほどの者が言うのだ。許す、話せ」

「有り難き幸せ、では。こちらの羊皮紙をご覧下さい」


 跪いたまま袂より取り出した羊皮紙を広げ、王によく見えるよう高く掲げる。


「これは……」

「はい、ご存じのように聖女の紋で御座います」

「それはわかる、だがこれは」


 中央から右下に向けて焼け焦げた後がある。


「はい。聖女の証が認められました」

「これがそうか」

「はい。焼け焦げの方向がその者がいる場所、長さが距離で御座います」

「ほう。それで? 場所はわかるのだな?」


 自信に満ちたこの者の表情に、王はほぼ確信を持っていたが、敢えて訪ねてみた。


「ほぼ特定しております」

「そうか、流石よの。それにしても勇者に加え、聖女が揃うとなればあるいは……」

「はい。古の伝えが叶うときかと」


 これまで幾度の魔王復活において、辛うじて封印しかできていない現実。

 王家の悲願である魔王打倒。

 いまだ成し遂げられなかった偉業が自らの治世の時に成し遂げられる可能性。

 末代まで自分の名も残るに違いない。

 王の心は沸き立った。


「わかった。即時聖女の元へと使いを遣わせよう、人選を急げ」


 側に控える大臣に王が指示を飛ばす。

 だが。


「お待ちください、王」

「なんだ!?」


 如何な王とて、逸る心をまたしても止め立てらては苛立ちが少々表に出るのも仕方が無い。

 だが、流石に賢者はその空気にひるむこと無く言葉を続けた。


「聖女の説得には勇者自らが赴くべきかと存じます」

「何故だ? 勇者とは言え、その者はこの世界の者にあらず。ならばこの世界の事を知る者の方が説得し安いであろう?」

「如何にも。ですが」

「なんだ」

「聖女の心に届くのは勇者の光と伝わっております故」

「……そうか。言い伝えか」

「はい」


 王は顎髭を手で撫でながら、少しの考えを巡らせた。

 そして。


「ならば、聖女の件は其方に一任する。勇者と聖女が揃うとなれば準備もまた違った物になろう。良きに計らえ。では我は召喚の儀に入る」

「お任せを」


 そして王は頭を垂れる賢者の横を通り過ぎ、召喚の儀へと向かっていった。

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