プロローグの3 誰のために
『主らは幸せか?』
竜は問いました。
竜の向く先には銀色の鎧をまとう騎士。
今だ血と炭の匂いが漂う村に降り立った竜はもう一度問いかけました。
『主らの幸せはこれか?』
竜は竜の傍らにあった誰とも取れない真っ黒な死体を手に持ち、騎士たちに問いかけました。
『主らは幸せになったか?』
騎士たちはおびえます。始めてみる竜。数千年前に絶滅したといわれる最強の種族。
それが自分たちの前に静かな怒りを露にしています。
しかし、一人だけが違う考えを下しました。
「お前ら!なにおびえてやがる。あの竜を討伐すれば俺たちは英雄になれるぞ!!」
騎士たちの隊長と思える男が下卑た笑みを浮かべならそう言い放ちました。
それに呼応して騎士たちの間でも独り言のような言葉が飛び交います。
「こいつを倒せば英雄に……」
「ははは……どっかに雲隠れした王族殺しに来たらいいものが釣れた」
「ちょっと退屈していたところだったんだ。ちょうどいいじゃないか」
その騎士たちの言葉を聞き、竜の怒りはさらに大きくなります。
そして、騎士たちはついに行動に出ました。
「英雄達諸君!かの邪竜を倒し、我らがの正義を示すぞ!!!」
「「「「「うぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!!」」」」」
隊長の鼓舞に呼応して騎士たちの熱気は高まります。
しかし、竜はその様子を見て一言。
『愚かな……』
そして、次の瞬間に騎士たちは灰になっていました。しかし、生き残った騎士たちもいました。
騎士は逃げ惑いました。
『こちらへ向かわぬのならば命は取らぬ』
そう言い残し、竜は去りました。
「邪竜よ!われら正義の名のもとに消え去るがいい!!」
騎士たちに率いられ千とも万ともとれるほどの大軍が竜の前に現れました。
「人に害なす邪竜よ!我らが人々を守る盾にして矛なり!!貴様の蛮行を裁きし神の使徒なり!!」
竜は呆れます。竜の住処であった森は焼き払われ、ありもしない罪を口上として垂れ流す指揮官。そして親の敵と言わんばかりに竜をにらむ人々に。
人々は口々にこういいます。
「貴様がいるからよに戦争が絶えないんんだ!!」
「貴様は何人の人達を騙した?この邪竜め!!」
「神の名のもとに裁かれるべきだ!!」
そして、指揮官が合図を出します。
それに呼応し、前衛の者達は剣や槍を持ち竜に突撃し、後衛の者達は魔法や矢を竜に放った。
しかし、竜の鱗は剣をはじき、槍を折り、魔法を打ち消し、矢を阻みました。
そして、竜は火を一吹きしました。
ただそれだけで数千という命が崩れ去りました。
数年という時が経ちました。
竜は邪竜と呼ばれ、竜の暮らしていた森は荒らされました。
木は焼き払われ、動物は踏みにじられ、土は毒に侵されました。
そして人々は言います。
「あの邪竜から土地を取り返して!」
「平和だった場所にあんなにしやがって!絶対に許さねぇ!!!」
「私たちの大好きだったあの自然を……あの邪竜が奪ったのです……これは許されるべき行為ではありません……!!!」
そして、ついに邪竜の前にとある人間が現れます。
「主はだれだ?」
「俺は……勇者だ」