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転生した古竜は人生を謳歌する  作者: くま
竜の記憶
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プロローグの2 それは火のように暖かく


 竜は人を育てていました。



 竜が人を育て始めて十数年ほど経ちました。

 人の子は女の子でした、その子はもう近くの町で成人と呼ばれる年齢になりました。


「どうしたのお父さん?」

『いやなに、レイナの成長が早いなと思ってな』


 『レイナ』とは竜の拾った人の子の名前です。

 そして、竜も長く人を観察していたので言葉も理解できます。あとは簡単、風を操り空気を振動させて音を出して声を作りました。


『レイナはいいのか?』

「なにが?」

『その、なんだ、我は竜でレイナは人だ。レイナは、人のいるところで暮らしたくはないのか?』


 そう問われたレイナは困ったような顔をしました。


「私はお父さんの本当の子供じゃない。けど、お父さんと一緒にいたいっていう気持ちはちゃんとあるんだよ?」

『そうか……』


 レイナは笑顔で返事をしました。しかし、竜はどこか困ったように返事をしました。






 しばらく経ち、レイナはよく竜のいる森を出るようになりました。


 竜は知っています。レイナがもうすぐ竜のもとを旅立つことを。

 レイナは森の外で男の人とよくは会っているのです。


 竜はどこか寂しそうにしそうに感じましたが、その気持ちよりも、レイナに男ができることの喜びの方が勝っていました。






 男はとある国の王子でした。そして、レイナは身寄りのない平民でした。

 恋に落ちた彼らは、身分という壁を疎ましく思いました。


 しかし、ついに王子は決心しました。





 王子はレイナとともに駆け落ちしました。

 王子は王子という身分を捨て、レイナとともに人知れず何処かの村へと移り住んだのです。

 その光景を見ていた竜も、ついにとあることを決心したのです。





『レイナ』

「あ……」


 久しく聞いていなかった竜の声にレイナは少し驚きます。


「お父さん、久しぶり」

『そうだな』


 親子の間で少しの沈黙が流れました、そして、先にレイナが口を開きました。


「お父さん、私、結婚したんだよ」

『……』

「ロイドはね、すごく優しいんだ。最初は身分なく私と接してくれてね。自分の家を捨ててまで私と結婚してくれたんだ」

『……』

「それでね。お父さんのことをロイドに言いたいんだけど……いいかな?」


 実はレイナも決めあぐねていたことがありました。それは自分の父親のことです。

 いつかは話そうと先延ばしにしていたことをついに父親に相談したのです。しかし、


『それはするな』

「……え?」


 竜の言葉にレイナが目を丸くします。


『我はただの竜、そしてお主はただのレイナそれだけだ』

「それは、どういうこと……?」


 レイナは問いました、その言葉の真意を。しかし、問うまでもなくレイナは理解していました。その言葉の真意を。

 ただ、レイナは認めたくなかったのです。その意味を。


『何、意味などない。そうだな、あえて言うとするならば……』


 レイナはいつの間にか涙を流していた。


 いやだ、離れたくない。そうレイナの感情はレイナ自身に騒ぎ立てます。しかし、レイナはぐっと唇をかみしめ、竜の言葉を待ちました。


『孫の顔、楽しみにしてるぞ』


 竜のはそう言い残し、どこかへと消えました。レイナは、竜の声が聞こえなくなったことを、それがどういうことなのかを理解しました。


 レイナは泣きました。枕に顔をうずめて、王子は心配しました。しかし、翌朝に見たレイナの顔はどこかつきものが取れたように晴れやかでした。


 そして、竜もまた、人知れず泣きました。





 竜は眺めています。

 竜の眼下には一つの村があります。


 元王子だった彼はすでに一人前の農民になり、村の中に溶け込んでいます。


 最初のころはただの村人というにはできすぎた、まるで貴族のようなしぐさを見せる彼。しかし、村の人間たちは彼を快く迎え入れてくれました。 


 そしてその妻である彼女もまた、村に歓迎されていました。

 彼らの夫婦の間には子供も生まれ、隣人たちとの関係も良く。彼らの居る村は笑顔であふれていました。


 


 竜は彼らを眺めながら虚空につぶやきました。

 

『幸せにな』


 その日を境に、竜は住処を移しました。





 

 竜は久しぶりにとある村を訪れます。


 あの時から、何度も彼らのことを思い浮かべては彼らの場所へと向かいたいという意識と戦っていました。


 竜は様々なことを思います。


 彼らはどんな間柄になっているか。子供はどんな子に育っているだろうか。新しく子供はできているのだろうか。


 少しの不安と大きな期待を胸に竜は村に向かいました。





 そして村に着いた時、竜は目を疑いました。





 村は真っ赤に染まっていました。




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