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転生した古竜は人生を謳歌する  作者: くま
少女は生きる
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125話 山、動く

えー……以前に投稿した125話続きに126話のヴァルカン、ポーロ回なのですが、取り返しのつかない設定矛盾が発生していたために削除させていただきました。

大変申し訳ございません。

それと、諸事情によりかなり不定期な投稿となっておりますが、読んでくれれば幸いです。それ以前に、このページを開いてくれたこと自体に感謝します。ありがとうございます。

それでは、125話をお楽しみください。



 音がする。


 羊飼いは、最初その音を羊が大移動する音と勘違いした。

 その羊飼いが飼う羊は実に百頭近くにも上り、群れ全体が同時に動けば、地響きのような音もするだろうと、あたりをつけた。


 だが、次の瞬間地面が揺れた。


 草原の上に眠りこけていた羊飼いが飛び起き、近くで眠っていた犬がキャンキャンと喚き始める。しっぽをたらし、恐怖するように犬はある一方から目を背ける。


 何かと思って羊飼いがそちらを見てみれば、そこには山があった。


 だが、それは二度目の勘違いにすぎない。山と思ったそれは、あまりにも巨大な生き物だった。巨大すぎるその生物は、天を突き、雲の上から地上を見下ろしている。


 まるで人のような二足歩行の巨人は、静かに動き出す。


 山脈すら、あの生き物にとっては砂場の中に作られた塹壕程度の障害物にしかならない。そうして歩き出した巨人は、とある街を目指していた。


 その街の名は――――


――巨人出現十日前。


――ルイムの町。


「もうすぐ収穫祭の時期か」


「そうですよ姉さま」


「となると、食べ歩きがはかどるな」


 リーリャ達一行は、収穫祭という近くに迫ったイベントに心躍らせていた。


 収穫祭とは、一年の後半の時期になると催される祭事ごとの一つだ。豊穣を願う祭りであり、その日一日はあらゆる人間が無礼講であるとされている。

 そんな祭事ごとに商人たちは目をつけ、時代が経つにつれ、ただの儀式のような行事は祭りを彩るように露店の立ち並ぶ華やかなものになった。


 そんなわけで、簡単に言えば収穫祭は国を挙げての祭りというわけだ。


 貴族領ごとにどんな催事をやるかは変わってくる。そして、今年はホワイストアの領地ではなくクリウス達の家であるブルタリアス家の統治する領土にて行われるそうだ。


 収穫祭のメインとなる催しが行われる街は、ルイムの町から二つ隣の街である、グローアンという街に決められた。


「我は家の都合で一足先に行くことになるな」


 そんな収穫祭の前日ではあるが、リーリャはモアラたちよりも一足先にルイムの街を発つことになるという。その理由は、息子お気に入りであり、ホワイストアと懇意のパン屋ということで、ブルタリアスの当主から直々に出店しないかという話がリーリャの家のパン屋に来ているからだ。


 その話をすぐさまに受けたリーリャの母であるリナは、いち早く出店の場所取りをするために、ブルタリアスからの手紙が届いたその日に一人でグローアンの街へと出張した。


 そして、サイムとリーリャの二人は、リナの後を追って出店用の道具と材料を後から運ぶこととなったのだ。設営の関係もあり、十日前からルイムの街を出る必要があったのだ。


「しばらくは寂しくなりますね」


「ふふふ……その分、収穫祭は楽しみにしておるのだぞ」


 その会話を最後に、リーリャはルイムの街を出た。


 それから数日して、いちおうの次期党首としてクリウスが、そしてその付き添いのサリアスがルイムの街を出ていった。




「久しぶりですね、誰もいないというのは」


 その日一日をリーリャやクリウス、サリアスといった幼馴染たちと過ごさない一日として過ごすのは、実に数年ぶりのことだった。

 クラマキナに入学する前。今からすれば五年以上も前の出来事だが、モアラは誘拐された。それを助けたのはほかならぬリーリャであり、モアラがリーリャを姉さまと慕う発端となったのもその誘拐事件が原因だ。


 しかし、その誘拐を受けてモアラの父親は、モアラの外出に厳しい制限をかけた。サリアスやクリウスと遊ぶのさえままならなくなったあの時を思い出し、ひっそりとした感傷に浸りながら、モアラは一人の時間を優雅に過ごす。


 お姉さまのために磨いた紅茶淹れの技術。特に理由はないが、確かめるように高く上げたティーポットから、霞がかる神秘的な竜泉から落ちる滝のように、透き通った紅茶がカップへと注がれる。


 空気と混ぜ合わせるために行われる所作は、モアラがメイドたちから教えてもらったこと。それは、一種の精神統一のようなものだった。


 そして、一口紅茶を嗜み、その風味に満足して茶菓子を頬張った。


 もそもそと菓子をはみながら、モアラはリーリャへと思いをはせる。


(お姉さまが恋しいです。結局、腕を預かることもできませんでしたし)


 あの森での一件でモアラに腕を任せるのはいろんな意味でまずいと予感したリーリャは、やっぱり自分が持っていると自分の腕は自分で持っていた方がいいとして、モアラから取り上げた。

 それを残念に思いながら、モアラはしぶしぶ姉さまの決定に従ったのだ。


 そして、茶菓子を嚥下した後、もう一口紅茶を飲む。


(……そういえば、サリアスが変な魔法の研究をしてましたね)


 次に回想するのは何やら怪しげな実験をしているサリアスの姿だった。


 リーリャの腕を直すために奮闘するサリアスだったが、その成果は出ていない。そのため、以前経験した義竜の苦い経験を糧にして、新たな力を得る研鑽の方に一時的に注力することにしたのだ。


 リーリャの腕を断ったのも、どんなに切られようと、どんなに貫かれようと死ななかったあの力も、どちらも同じ竜という不確かなキーワードの中に内在する力だ。


 彼らが言う竜の力とは何なのか。もし、次に竜が現れたとしても大丈夫なように。そして、その竜の力を無効化できるとしたら、リーリャの腕をつなげられるかもしれないとして、そちらの研究を始めていた。


(手伝いはしましたが、いろんな意味でサリアスの道のりは長そうですね)


 その道のりが何を指すのかは語られない。


 そんな最中、残った紅茶をすべて飲み干した。


(クリウスは……)


 最後に思うのは、蒼き剣を持ち、最もやんちゃな幼馴染のこと。彼の努力を、モアラは今までずっと見続けていた。


「クリウス。あの二人は、あなたにとってどう映るのでしょうか」


 だからこそ、彼を思い浮かべる。自分たち四人の関係性をつなげたのは、間違いなく彼なのだから。



 幼きとき、モアラに一目惚れしたクリウスから、三人は友人としての関係を持った。


 そして、三人で遊んでいるとき。偶然クリウスの蹴ったボールが、リーリャへと当たったがために、四人の関係性は築かれた。


「私たちはいつまでも一緒。そうですよね、クリウス」


 その案じる声は、一人だけの静寂の中に溶け込んでいった。


 明日、モアラはグローアンを目指してこの町を出立する。二日ほどの時間を使って、目的地の到着する旅路。そして、グローアンに到着したら、一泊してすぐに収穫祭が始まるだろう。


 恋しい友人たちを思い浮かべながら、モアラは静かに収穫祭の時を待った。




――巨人出現まで、あと三日。

 




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