123話 川上の幕間
街の南西部。――より、さらに南下。
そこには、街のど真ん中を通るドニエス川に合流する河川がある。その川には名前はないが、皮を北上すると、南西部にあるロズ森林と呼ばれる場所に繋がっているためにロズ川と呼ばれている場所だ。
その川を登っていくと辿り着くという湖畔を目指して、リーリャ達は歩いていた。
「……ここら辺は魔物は少ないのだな」
「まあ、貿易路として使われているぐらいですしね。昔の人は魔物を避けて貿易を行っていましたし、それから魔物が人を避けるように生息地を広げていったらしいですよ」
すでにリーリャ達はロズ森林へと侵入をしており、たいした魔物と出会うことなく散策をしていた。
「確か、この先の湖畔の岸にある花畑がキレイなんだったな」
「おじさんの情報だと、そろそろだと思うのですが」
警備隊のおじさんから、湖畔のほとりに咲き誇る花畑はこの町の隠れた名所。少し歩く必要があるが、一目見るだけの価値はあるとリーリャ達は聞いた。
花が好きという女子らしい趣味があるわけではない。だが、人生を楽しみたいリーリャが、森の中の湖畔にある、人生に一度は見るべき景色と聞いてしまっては行くしかない。
そんなわけで、道中の風景も楽しみつつ、リーリャ達は上へ上へと川を上っていった。
「……お姉さま」
その道中。岩場に囲まれた小さな谷で、モアラがリーリャへと話しかけた。
「どうした?」
「お姉さまは……あの学園での事件のさなか、私たちとは違う竜と戦っていたのですよね」
その目は、リーリャのいまだ残る傷に向けられる。
リーリャの腕の左腕は切断されている。しかし、なぜか切断されているにもかかわらずつながっているのだ。
その腕は、肉体的には繋がったまま、物理的に腕だけが別の場所に存在するようになって、今もリーリャの首から下げられた包帯の中にしまわれている。
普通なら腕を一本なくしたと絶望する傷。再生の魔法は簡単なものなら一般人でも使えるが、それ以上――人間の再生能力を超えた再生の魔法を扱えるのは、世界でも片手で数えられる程度しかいない。
さらには、リーリャの傷は単純に腕を切断された以上に不可解なもの。貴族であるモアラたちと友人であり、王子であるハジメとも知己の仲であるリーリャは、切断された腕を治す見込みがないわけじゃない。だが、この傷は例外すぎる。
魔法的な分析すらその全容を明かせない力。
モアラは、リーリャに降りかかる未知に対して、不安を抱いていた。それが今、たった二人で森の中にいるこの状況が膨れ上がったのだ。あの時、私が駆けつけてあげていれば、腕を失うことはなかったのではと。
リーリャが滝の上を目指して岩場を登るときに、登攀のために手を使うことができないその光景を見た時に、そんな考えが頭をよぎったのだ。
「……そうだな。とりあえず、不安そうな顔をするんじゃない」
「不安になりますよ」
愛すべき姉さまの腕がなくなっては、愛を伝える妹は不安に思うしかない。
モアラがそう口にしようとしたとき、リーリャはモアラにモノを投げつけた。
「ちょっ……姉さま、これは!?」
投げつけたものは、他でもないリーリャの左腕だった。
話している間に、モアラが気が付いた時にはすでにリーリャは岩場の上へと昇っていた。
そして、その高さからモアラへと宣言する。
「そんなに心配なら、その腕はモアラが持っていろ。我は、おぬしのことを信頼しておるからな。それに、お前も魔法でも何でも使って早く登ってこい」
言われるままに、モアラは風の魔法を使って岩場の上へと移動する。
「ほれ、やっと着いたぞ」
リーリャはにやりと笑った視線の先には、小さな湖畔とその湖畔を取り囲むように咲き乱れる紫色の花畑が広がっていた。
「腕がなくとも、歩いてればいつかは辿り着ける。そういうもんだ。それに、この腕はサリアスが研究してくれてる。あいつなら、いつかこの腕を直してくれるやもしれぬぞ」
「……そうですね。私からもサリアスには頑張ってもらえるように色々と言わなければいけないようです」
リーリャの言葉は、絶対にあきらめない心から放たれたもの。その言葉を聞いて、モアラは強く、強くリーリャの腕を抱きしめるのだった。
「――――あ、ところで姉さま。この腕は私がもらっていいんですよね」
「前言を撤回する。感覚があるから返してもらうぞ――お、おい! 待てモアラぁあああ!!」




