115話 立ち向かった八人
『時間を稼げ? 何か策があるのか』
「我の魔力が持つかはわからぬが、有効であることは保証できるな」
『そうか、わかった。アイラ、リフィル頼めるか?』
『おーけー!』
『頑張ってください、リーリャさん!』
リーリャの提案に、ポーロは信用を示した。
すぐさま目の前のハンドグンドに対しての対抗手段を持つリフィルとアイラへと時間稼ぎの指示を出す。
それを、通信機越しに聞きながら、リーリャは魔法を発動するために集中した。
(……あの鱗を無視するためには、一撃にて非常に強い攻撃をせねばならん。それこそ、確実にあ奴を倒せるというほどの力を)
その魔法は、リーリャにとっては少しばかりトラウマのあるモノだった。
だが、背に腹は代えられぬ。それに、今リーリャのために戦う友を見捨てることは、リーリャにはできなかった。
両手で頬を叩き、気合を入れなおす。
「おい、ポーロ」
『なんだ?』
「この魔法は、近距離にて叩き込む必要がある。あ奴の八本の尾をすべて引き付けてくれるか?」
『……なんて無茶な注文だよ……』
ポーロは断らない。
それを、了承と受け取り、リーリャは魔法を発動のために、準備をする。
まず、リーリャは自分の右腕に意識を集めた。
これから、この右腕にのみ、『魔闘付与』を掛けるからだ。本来ならば、全身に纏いたかったが、魔法の制御が難しくなる上に、リーリャの魔力が相手に攻撃を届かせるよりも先に無くなってしまう。
だからこそ、リーリャ『魔闘付与』を右腕にのみ発動させる。
「『竜の舞』……『竜の爪』、といったところか」
荒れ狂う魔力は、まるで竜の様に。
リーリャからの願いを聞いたポーロは司令塔としてその頭を回転させていた。
もとより、六組の中では知識量という点にて右に出る者はいなかったポーロだ。そして、魔法が使えるようになってからも、意欲的にその知識を増やしていった。
いまでは、リーリャと双璧を成して頼られる存在となったポーロは、今の状況に文句を流していた。
「ああ、くそっ……もともと俺はこんな役回りじゃないのに」
だが、そう言ってもいられない。
仕方ないと思考を切り替え、ポーロはまずグレゴリーへと通信を繋げる。
『こちらグレゴリー』
「煽るのはほどほどにしとけ。それと、リーリャのサポートに回ってくれ
『サポート?』
「あいつにはあの竜の鱗を突破する攻撃があるらしい。ただ、どうやって近づくか聞き忘れたからそっちで相談してくれ」
『なるほど。まあ、いい感じに相談しておくよ』
そうして、通信を切ると、次にこの場にはいないフーゴルへとつなげる。
『なんだ?』
「作戦だ、そっちの……」
「……で、できそうか?」
『問題はない。それに、俺がやるわけじゃないからな』
「いい性格してるな。切るぞ」
通信機片手に、ポーロは次々に指示を出す。
そして最後に。
「リーリャ、準備はいいか?」
『ああ、問題ない』
「そうか、それじゃあ。作戦開始だな」
準備は整った。
『リフィルちゃん、行くよ』
「うん、準備万端だよ!」
先鋒はアイラとリフィル。
先ほどからハンドグンドの攻撃を見事に防いでいるために、最も警戒されている二人だ。
その二人が、同時に動いた。
もちろんながら、ハンドグンドは対応する。ただし、反撃を行うのはリフィルにのみだ。アイラには自らの力が通じないのに対し、リフィルは魔法で守っているだけで、リフィル自体には通じるからだ。
ただし、アイラを素通しするわけではない。アイラには二本の尾にて防御をし、リフィルには反撃と二本の尾を差し向ける。
『もらったぁッ!!』
だが、アイラはすぐさま尾を掴んだ。先程からハンドグンドの本体を狙うばかりだったアイラが、急に尻尾を狙ったためにハンドグンドが驚愕する。
「『殻』ぁ!!」
そして、その反対側では、リフィルが魔法を発動させた。
大きく魔力を消費し、その魔法はハンドグンドの尾を包むように展開された。
それは、人が手袋を使って手を包むように、尾に真っ白な外殻を作り出したのだ。
――残り四本。
焦るハンドグンド。
何とか抵抗するものの、根元近くまで白い外殻は尾の力を完全に覆い隠し、外れない。
脱出しようともがくも、ハンドグンドの足代わりの尾では踏ん張りがきかないために、アイラの拘束から脱出することができない。
『よし、拘束成功!』
喜ぶように声を上げるアイラの通信の次に、フーゴルの通信がリーリャの元へと届く。
『こっちは準備できてる。あと三十秒ほどだ』
フーゴルの通信に事前情報の無いリーリャが首を傾げて疑問を浮かべるが、それを遮るようにポーロが通信にてリーリャ達に準備を促した。
「それで、本当にこれでいいのかな?」
腰を落とし、前傾の姿勢となり突撃の構えをとるリーリャの背後から、グレゴリーが声をかけた。
これから行う突撃に、少しばかりの不安があるからだ。だが、それでもリーリャはやると決めた。
『準備できたなら構えろ、十数えたら、フーゴルが相手の隙を作る。その隙目掛けて飛び込め』
「ああ、任せろ」
通信機から、ポーロの数を数える声が奏でられる。
『10、9、8、7』
グレゴリーへと目配せをする。
緊張から汗を滴らせるグレゴリーだが、それでもリーリャの意志に頷いた。
『6、5、4、3、』
足に力を込める。
残った右腕に魔力が集中する。
『2、1』
――0
隙。確かに、それは大きな隙であった。
音が聞こえる。羽ばたくような音が。
それと同時に、少女の叫び声も聞こえた。
「ちょっとぉ!何あのタコ、あんなのいるなんて聞いてないよフーゴルぅぅ!!!!!」
熊の様な丸い耳を頭に付けた小柄な少女は叫ぶ。逃げる自分を誘導した友人に対する文句を叫んだ。
その少女の名はテレサ。獣人であり、今何をしているかというと……。
「キュアアアアアア!!!!」
テレサの後方から、巨大な魔物が現れた。
鳥の様な見た目をしているが、その体長は遥かに大きく、そして異様な程歪に発達したくちばしをテレサに向けて羽ばたいていた。
この鳥は、ルティスをこの会場まで運んできた鳥。そして、今は会場で暴れようとしたところでテレサの挑発にまんまと乗り、今の今まで鬼ごっこをしていた鳥だ。
「テレサ! このまま突っ込め!」
そして、鳥の死角からテレサに走り続けろとフーゴルが指示を出した。
何故、と疑問の目を向けるテレサだが、近くにいたリーリャを見てなるほど、と納得した。
「なら、まかせんしゃい!」
そして、テレサは飛び込む。
ハンドグンドは自分に飛び込む少女を見た。そして、その後ろに迫る怪鳥の姿も。
困惑した頭が下したのは、その数瞬後には自らを襲う脅威を排除することだった。
残り四本の尾が向けられた。
テレサは駆ける。
後門の鳥。前門の竜。
迫る尾を前にして、テレサは笑う。
「こういうのは慣れてるから!」
一本目のテレサを狙った。それを、スライディングにて、下方に空いた隙間へと退避する。
二本目もテレサを狙った。だが、転がる様に動き、尚且つ地面をける様に跳ねることで体勢を戻した。
そこに、取りを狙ったはずの三本目が通る。更にテレサは跳んだ。尾の方へと背を向け、背面とびにてぎりぎりの回避をする。
一本目のテレサを狙ったはずの尾は空を切るが、その延長線上に立つ怪鳥の胴を貫いた。
次に、二本目が怪鳥のはねを取りあげるように根元を貫き、三本目が足を奪う。
しかしこれにて隙はなりたった。
ハンドグンドは、突然現れた脅威に対して、攻撃をしてしまったのだ。
これを、この隙をリーリャは望んでいた。
「やれ、グレゴリー!」
「『土壁』!」
グレゴリーの魔法が発動される。
それは、範囲を縮小して発動速度を上げた『土壁』。
その足元から生える壁を足場にして、リーリャは空を射出された。
勢いよく空を飛ぶ。
狙いはハンドグンド。その本体である胴体を狙って、リーリャは真っすぐ飛んだ。
「くそっ! くそっ! くそぉぉおおおおお!!!」
巨大な魔道具にて、二本の尾は捉えられ。小さな魔法使いにて、二本の尾は拘束された。
そして、怪鳥に対する攻撃に出している三本の尾は間に合わない。
迎撃には、一本しか使えない。
そう、怪鳥の迎撃の時、ハンドグンドの中に残った最後の一線が、すべての尾を怪鳥へと差し向けるのをためらったのだ。
最後の一本の尾がリーリャを打ち落としに向かう。
うねる槍は、空を飛ぶリーリャに向けられ、その胴を貫く様に真っすぐに前進し――
「生憎、俺も虫一匹殺せないたちでな」
――それは、フーゴルの一撃にて弾かれた。
先の怪鳥のおかげで、ハンドグンドの目には、フーゴルが映っていなかった。だからこそ、フーゴルはこの瞬間に最高のタイミングで攻撃を加えることができたのだ。
尾は弾かれ、リーリャにとすれ違いに空を貫く。
リーリャの拳は、ハンドグンドへと届く。
だが、ハンドグンドも足掻いた。
手を。下半身とは違い、上半身に残った腕を使い、リーリャの拳に対抗した。
拳は拳にて打ち据えられる。
竜と竜。
人間の少女が、竜を模った魔法にて拳を振るい、対するのは本物の竜。
その力は拮抗していた。
だが、竜の魔法が竜の力に対して互角ならば、竜の魔法を強くすればいい。
「『魔闘付与:二重手甲【竜の魔爪】』」
魔法に魔法を重ねるその力は、拮抗していた力のぶつけ合いをひっくり返した。
竜の魔法は、竜に勝つ。
迎え撃たれた拳はその強大な力にへし折れ、次に竜の魔法はその体へと向けられる。
そして、その一撃に戦いは終わった。
ラストに悩んだ結果数日更新を開けてしまいました。
あと二話ほどで完結です。




