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俺の日常とこの町

・・・目が覚めた。

俺は寝ぼけた体を起こし、目の前にある柱時計を確認した。時刻は7時。少し寝すぎたかもしれない。確認の為よく耳を澄ますと、下の階から重低音が響いている。俺は少し慌てながら服を着替え、部屋を出た。

部屋を出てすぐ近くの階段を下りる。すると目の前には稼働している大型の機械と、その隣で汗水流しながら作業をする初老の男性がいた。俺はそれを確認すると、壁に掛けてある工具入れのベルトを取り、つけながら老人の隣に行った。

「随分と遅い出勤だな、リーフォ。何を夜更かしして遊んどった」

「機械の組み立て本を読んでたんだよ、じーさん。・・・何をすればいい」

「だったらこの機械でも見てろ」

そう言って俺に渡してきたのは、黒い色をした小型の物だった。俺はそれを受け取り、奥にある木の作業台に行って腰を下ろす。そして隣の棚から一冊本を出し、ベルトから必要な物も取ると作業を始めた。

先ほどの老人・・・もとい初老の男性は、俺の祖父であるクラフである。俺が住むアイソレという名の町で唯一の機械技師。だから周りからは頼りにされている。歳の割に若い容姿だし、他人には優しいことも頼りにされてる要因の一つであろう。身内には厳しいのであるのだが。と、そんな祖父の下で暮らし、機械技師となるため俺は修行している。前述のとおり、かなり厳しいが。

「本なんぞ見ねぇでいいからさっさと直せ。後が控えてんだ。ちまちまするようなら放り出すぞ」

・・・な、厳しいだろう。

俺は大きな声で返事をし、出した本をしまうと急いで取り掛かる。幸いそんなに難しい物でもない。俺でも何とかなるものだ。頭の記憶を頼りに進め、5分掛からず終えることができた。俺はできたものを持って祖父のところに行く。

「じーさん終わったぞ。てかこれなんなんだ」

そう聞くと祖父は呆れた表情をし、「自分で直したものが分からねぇのか」と言った。確かにその通りである。少しばかり恥ずかしく感じたが、それでも気になり改めて聞く。するとため息交じりに祖父は答えてくれた。

「これはカメラだ。これを使うと風景や人の姿を残すことができる。まぁ数年前に“忘れ去られた”一品だがな。残ってるのも奇跡なくれぇだ。使い方なんぞ知ってる奴もいないってのによ」

カメラというものを見ながら言う祖父。その表情は先ほどの呆れから、懐かしさを感じているようなものであった。

「そうか。次はどれをすればいい」

「・・・これを頼む」

俺は新たに機械を受け取ると、また作業台に戻って修理を始めた。今度は薄い板のような物だ。これは前回直したことがある。名前は確か携帯電話。カメラ同様に“忘れられた物”らしい。

先ほど祖父も言っていた“忘れられた物”。これは何らかの理由で使用方法や名前なんかを忘れてしまった物たちの総称である。俺らが分かるのは本にすべてが書いてあるから。逆に言えばそれがなければ、俺や祖父でさえ理解することができない。なお忘れられた理由は不明らしい。祖父が言うには「ある日突然分からなくなった」とのこと。魔法としか思えない事象だが、残念ながら魔法は存在しない。いったいどういうことなのか。俺には理解できない。

そんな忘れられた物たちや機械を直していくこと5時間。だいたい昼になったころ、仕事があらかた終わった。まだ少しあるのだが、祖父曰く「リーフォにはまだできねぇから、お前さんはあがっていいぞ」とのこと。なので昼飯を買うがてら町を少し歩くことにした。

この俺の住む町アイソレは、人口20万程度の目立たないところである。しいて言うなら町を囲む天高い城壁と、使われていない立派な駅、そして遊園地があるくらいだ。城壁は外敵から身を守るために作られたと聞いているが、生まれてこの方そんなものが来たことはない。来るのは行商人と遊園地関連の人たちのみだ。駅は前述どおり、今は使われていない。いや、使えなくなったが正しいだろう。何故なら列車というものが“忘れられた物”であるからだ。駅の中にはあるが、動かし方が俺たちに理解できないのだ。遊園地は・・・特記することが無い。ただの娯楽施設だ。

「おーい、リーフォー」

ふと後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。振り向いてみると、そこには帽子を深くかぶり、コートをまとった男がいた。一見不審者に見えるが、こいつは俺の友達であるモグである。この町で炭鉱夫として働いている。

「モグは休憩か?」

「そうだよ。今から子山羊亭に行くんだ。リーフォも来るかい」

「・・・だな。気は進まないが行くとするよ」

モグはそれを聞くと、嬉しそうな表情をして俺の隣を歩き始めた。今から行く子山羊亭は、簡単に言えば宿屋だ。行商人のために開いているが、来ない時もあるため普段は食堂として機能している。値段もリーズナブルで、なにより美味い。特にビーフシチューは絶品といえる。そんな凄く良い店であるのだが・・・一つだけ問題がある。それは、まぁしばらくすれば分かるだろう。

そんなこんなで、モグと話をしているうちに子山羊亭に到着した。うん、やはり宿屋も兼任してることもあり、周りより大きいな。いつ見ても感心するくらい立派だ。そう思いながら、俺は店の扉を開け、モグと共に入っていった。

「いらっしゃい!!」

入るとすぐに、活気にあふれた客の声と、元気のいい女性の声が響いてきた。この女性は、ここのオーナーの妻であるモザだ。主にこの食堂のコックをしている。

俺らは空いている席を探し、適当に腰を下ろす。そんな丁度いいタイミングで、テーブルの上に水の入ったコップが乱雑に置かれた。飛び散る水が顔にかかるかかる。誰がしたか分かりつつも、俺はその人物の方を向いた。

「いらっしゃいませ、お客様。さっさと注文しなさいな、ポンコツ見習いさん」

茶色のツインテールを揺らしながら、結構ドスの効いた声でその少女は言った。・・・やはりこいつだったか。俺がここに行きたくなかったのはこいつのせいなのである。

この少女はモザの一人娘であるシーター。俺より1つか2つほど下離れている子で、幼馴染でもある。顔も整っていて、世間からみれば可愛い部類にはいる。聞く話によると結構モテるらしく、シーター目当てで店に来る男性も多いらしい。

・・・ここまで聞けばまだいい印象だろう。だがここからだ。

この子はなぜかは知らないが、俺を目の敵にしている。最初はそうでもなかったが、ある日を境にさっき言ったみたいな態度をとるようになった。一応原因を探ってはいるが、今日まで改善したためしはない。

「ビーフシチューセットを二つ」

俺はシーターの買い言葉をスルーしてオーダーをする。舌打ちが聞こえた気がするが、まぁこの際気にしないことにする。

「いつもながらすごいね、シーターちゃん」

モグが顔を近づけ、小さな声で言ってきた。確かにあれを即座に思い浮かぶのは凄いかもしれない。そう嫌味を含めた尊敬を感じながら、同じく小さな声で言葉を出す。

「そうだな。・・・なんでああなったんかなぁ」

「実は惚れてる、とか」

「残念ながらそれはないな。あいつが好きな奴知ってるからさ」

「そうなんだ・・・。本当になんでなんだろうね」

そうモグが言ったと同時に、モザが料理を運んできてくれた。



【次回はここから始まります】

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