第八十一話 不正規戦
短いですけど平常運転に戻った感じです。
A.G.2881 ギネス二七〇年 アルメル一年
霜の月(十の月) 火の週の五日(十七日)
ノイエ・ブランザ王国 魔の森の街道上
ボニファンは漸く開通した森街道(グリーフェン砦とアルメルブルクを結ぶ道)を、自動貨物車三〇両からなる護送縦隊を率いて北上していた。
護衛三〇名を乗せた、五台の「自動三輪車爺さん型」兵員輸送車と、凡そ四トントラック程の大きさがある総積載一トン程の六輪車が二五両で、トラックの内六両は黒くて長い丸太の様な物が突き出し幌に包まれた奇妙な台車を牽引している。
不正地走行能力はほぼ皆無であったがその機動力は驚異的であり、迷宮の外壁とほぼ同様の素材を使った外板はほぼ無敵と言える程の強度と剛性を誇り、分厚いポリカーボネート製の窓は弓矢はもちろん大半の魔法攻撃を物ともしない為、その全てが事実上の装甲車両であった。
運んでいるのはアルメルブルク産の鋳塊と迷宮資材、そしてロートシートの防衛戦と、予定されているザルツ公領への侵攻作戦で使用する為の兵器類だ。
可能であればエレンハルツ川からハルツ川へ抜けて船で輸送したかったのだが、ノイエ・ブランザとザルツ公領の国境では両国の軍勢が睨み合いを続けていた為、自動貨物車を用いた護送縦隊による輸送となったのである。
アルメルブルクの代官で近衛騎士団の団長に内定しているボニファンが率いている事からも、この護送縦隊がどれ程重視されているかわかるだろう。
なにしろ運んでいる兵器が兵器である。
空中戦艦の副砲の拡大強化型で牽引式の十二センチ電磁加速砲六基なのだ。
固定する為の長い一本の足と左右に展開する可動式の足が二本、それから牽引する為の車輪がついており、砲弾は榴弾と装弾筒付き徹甲弾が一種類づつ。
テオデリーヒェン大公国滅亡以後、いや、滅亡と前後して、ノイエ・ブランザ領内では軍需物資を運ぶ商隊や輸送部隊への襲撃が相次いでいたから、ボニファン達が不安に思い神経質になるのも仕方のない話ではある。
そして、その不安は的中してしまった。
魔の森の出口まであと数百メートル、凡そ八〇〇ローム程の所で車列の中ほどの所を走っていた自動貨物車の一両が横合いから爆裂魔法による攻撃を受けたのである。
自動貨物車自体はその程度の事でどうなるものでもないのだが、そのすぐ後ろを走っていた車両が驚いて停止してしまったのだ。
殆ど同時に左右の森の木が数本倒れて来て護送縦隊を分断、更に雄叫びが上がって左右の森の中から伏兵が飛び出してきた。
小さく舌打ちして指示を出すボニファン。
「全車停止!」
バイザーを操作して状況を確認。護送縦隊は密集した状態で集結している。
訓練通りである。問題無かった。
ボニファンが即時通信機で叫ぶ。
「四号車と五号車の指揮はボーランに任せる!」
「ボーラン了解! 四号、五号の指揮をとります!」
幸い電磁加速砲は全て通過している。
敵は六八名、大半が傭兵崩れの野盗の様な連中らしいが、何処かに魔法使いが居るはずだった。
「三号車は電磁加速砲を守れ! 全員降車! 押し包んで殲滅するぞ! 一号車二号車は兵装自由!」
即時通信機からの応答を聞く限り落ち着いて対処しているらしい。
問題があるとするなら自動貨物車の運転手達だろうか?
慌てて飛び出さなければ、余程の大魔法でも使われないかぎり安心なはずではあったが、いくら平気だとは言われていても、恐ろしいものは恐ろしいに違い無い。
「自動貨物車運転手は絶対に外に出るな! 必ず守る!」
命令を飛ばしながら板状携帯端末を操作して戦場情報を表示する。
自動貨物車に取り付こうとしている者、周囲を警戒している者、じっと潜んでこちらを伺っている者……。
ニヤリと笑ったボニファンは護衛兵を次々と選択し、範囲選択した攻撃目標を指定する。これで各自のバイザーに敵の凡その方向と人数が表示されたはずであった。
「ケネスとホルストは着いて来い!」
「はっ!」
今度は自分も自動三輪車爺さん型兵員輸送車から飛び出した。
手にしているのは小型のクロスボウである。
もちろん腰には剣を佩いているし、破砕型と閃光型の二種類の手榴弾も持っている。
ユーリウス以外の者が敵であれば負ける気がしなかった。
既に兵員輸送車の屋根に取り付けられた旋回機銃が唸りをあげて無数の小鉄球を撃ち出している。バイザーからの指示に従えば同士討ちは先ず無い為、その点については心配していない。
因みに二人の兵を率いて森に飛び込んだボニファンが向かうのは、敵指揮官及び魔法使いと思われる森の中で動かない四人の所である。
筋力補助機能を全開にして風の様に森の中を駆け抜け、あっという間に三〇メートル程の距離に近づく。
街道から聞こえてくる叫び声や爆発音に閃光等で浮き足立っているらしく、気付かれた様子は無かった。
バイザーをツータップして戦術画面を呼び出しケネスとホルストの攻撃開始位置を指定すると即座に二人が動き出す。
敵の四人を範囲選択、ポップアップしてきた選択肢の中から会話ログを選択。
指先で最新のログ部分を確認しつつ、音声マークをタップする。
「――のだあれはっ! 魔導士があんなに居るとは聞いてないぞ!!」
「煩い黙れ! 大体お前が魔法をしくじるからこんな事になったのだぞ!」
「私はしくじってなどいない! あの箱馬車が硬すぎるのだ! もういいっ! 俺は逃げるぞ! やってられるか!!」
「ふざけるな! 今更逃げるなど許されるとお――」
「二人とも黙れ! 司祭殿からの指示がある」
司祭? と首をかしげたボニファンだったが、直ぐ様バイザーをツータップしてもう一つ戦術画面を開き、ウィンドウを移動して敵の位置に動かすと、両手で中心部分を両手で広げて拡大する。
薄暗い木々の合間に四人の男達が確認できた。
全員革鎧を着た傭兵風の男達だが、一人だけ魔導士が良く持つ杖をてにしている男がいる。司祭とは残り三人の内どれだろう? とそう考えた所で戦術画面がポップアップし、ケネスとホルストが攻撃開始位置に着いた事を示す青い点が点滅した。
全員捕虜にすれば良いと思い直し、ケネスとホルストの光点を範囲選択して選択肢から情報、武装、とタップし閃光手榴弾を選択する。
二呼吸程してケネスとホルストの青い光点が二回黄色に瞬くのと同時にタップ音が聞こえてきた。
その間にタイマーのアプリを選択して五秒を指定するとケネスとホルストと自分の三人を選択してタイマーに重ねるボニファン。
バイザーに黄色い五の数字が表示されてカウントダウン。
三の段階でクロスボウの安全装置を確認する。
一、ゼロ、ケネスとホルストが同時に閃光手榴弾を投げた。数字が小さくなり、視界の片隅で一、二、三、とカウントしていく。
そして爆発音と閃光。悲鳴があがる。
三人が同時駆け出した。
「ケネス、ホルスト! 殺すなよ!」
「了解!」
「はっ!」
五秒程で目を押さえてのたうち回る四人の元にたどり着き、魔導士の頭を蹴りあげ意識を飛ばし、もう一人の顔をクロスボウの銃床部分で殴りつける。
顔を上げるとケネスとホルストもそれぞれ一人づつ確保しており、既に結束バンドを取り出している。
「口を塞ぐのを忘れるな? 全員念の為マナを封じておけ――っと、………マナ封じの結界は三号車と六号車に積んである」
「了解しました」
戦術画面を確認すると、敵の生き残りは既に一〇名ほどで、全員が森の中へと逃げ出していた。
損害は転んで打ち身をつくった者が一名、自動貨物車運転手で閃光を見て視力低下している者が八名だった。
運転手に外を見るなと指示しなかった事は戦訓として報告するべきだろう、とボニファンは溜息を吐いていた。
この戦い自体は圧勝であり、動力甲冑とアニィによる戦術支援系の補助の有効性が、これまで通りに証明されたという程度のものでしか無かった。
が、襲撃者の中にリプリア王国出身のクラメス教の正規司祭が居た事で、後に懲罰戦争の転機になった戦いであると記憶される様になる。
今更ですけど、ボニファンのイメージはウォーキング・デッドのダリル、ノーマン・リーダスです。
誤字脱字その他コメント等ありましたらよろしくお願いします。




