第六十三話 会議は踊るよ
今日は18時にもう一話投稿します。
A.G.2880 ギネス二六九年
霜の月(十の月) 地の週の三日(三日)
ナーディス諸侯領 ハウゼミンデン
推進装置を外輪からスクリューに変更されたシュリーファ号でハウゼミンデンを訪れたユーリウスは、大量のゴーレムを一挙に投入した大規模な、この世界ではあり得ないほど大規模に行われている都市計画工事の視察を行っていた。
最初に行われたのはドリスの丘と呼ばれる城壁に囲まれたハウゼミンデンの中心部を、堀で囲んでハルツ川の水を引き込む工事であったが、これは二週間程で工事を終えてしまっている。
途中で低地になっていた場所に流れ込んだ水で浸水してしまった家屋が出る等様々な問題も派生していたが、問答無用で移転させた上で同地をさらに掘削して港に変えてしまっていた。
そして現在行われているのはハウゼミンデンの周囲に点在する三日月湖――その昔はそこがエレンハルツ川とハルツ川の合流地点だった――を外堀の一部とするのと同時に、水運による都市の活性化を目的とした水路の建設である。
名も無いハルツ川の支流の流れを変えて外堀に水を引き込むのと同時に、ハルツ川からも掘削して水量を確保しようとしていた。
既にゲルマニア全土に新しい二つの迷宮と、その迷宮の利権を売り出すという告知が届いていた事、更にはハウゼミンデンでは新旧三つの迷宮内で暮らす事を禁じると共に、出宮料を迷宮内で得た物での物納を許可する旨の告知も同時に行われていた事から、噂を聞いた無数の人々がハウゼミンデンへと押し寄せ、ゲルマニアでは唯一のスラム街が形成されつつあった。
「まぁこうなる事はわかってたんだけど、流石に酷いな……」
先ずもう匂いが凄まじい事になっているのだ。
スラムは衛生状態が最悪なのである。
「これでも一か所に集中し過ぎない様に振り分けを行ってはいるのですが、なかなか思うようにはいきません」
隣にはエーディットも控えているのだが、護衛の兵士を含めて三〇人近い男達を引き連れての視察である。
住民達も興味津々であったが、そこはスラムの住民とでも言うべきか、貴族風のユーリウスや時折見かけるお偉い役人を見ても遠巻きにするだけだった。
かなり警戒されているらしい。
「犯罪の取り締まり以外で武力の行使はしていないだろうな?」
「は、はい、それはもちろん、命令は徹底させております」
ならばこれが普通の反応なのだろうと気にしない事にしたユーリウス。
「それで井戸の整備と汚物の回収は一体どうなってる?」
「井戸の整備はゴーレム三体で行っていますので、なんとか必要分の飲料水は確保しています。ゴミや汚物についても全て回収させて新しい迷宮に捨てさせる様にはしているのですが、周知が難民の流入に追い付いていないのです」
「わかった。それで今後はどうやって周知を流入に追い付かせるつもりなのか教えてくれ」
「それは、人員を増やしていくしかないかと……」
「その方法で間に合わないんだろう? 駄目じゃないか?」
駄目だろう。
だがどうやら策が無いらしい。
「……そうだな。先ずは難民達の構成を良く調べろ。必ず複数の集団に分かれて、集団毎に指導者がいるはずだ。そいつに周知を手伝わせた上で人数を把握させ、人数に応じた金を渡して汚物の処理を依頼しろ。ついでに集団の居住地域毎に清潔さを競わせて最も綺麗だった地域に報奨金を出せ。開発についても優遇してやったら良い。報奨金は全体の汚物処理の予算から抽出して残しておけ。出来るな?」
「な、なるほど。わかりました。直ぐに実行いたします」
そう言って即座に配下の者を呼んで指示を出す。
「あぁ、それから集団の指導者は貴族を相手にしてるつもりで対応しろ。場合によっては俺が本当に貴族にするかもしれないからな?」
「――は、はい!」
後ろに控えている他の者達にも視線を送るユーリウス。
「お前たちも良く話あって協力するんだぞ? お前たちの中から貴族が、お前の隣の奴が貴族になるかもしれないんだからな? 後で泣き言を言っても知らんからな?」
チーム全体の権限としてはかなりのものを渡していたのだが、思った通りと言うべきか、どうやらチーム内での足の引っ張り合いがあるらしい。
軽く全員の顔を引きつらせてから再び歩き始めるユーリウス。
「難民対策はとりあえずそれで良いとして。周辺の地形の把握は終わってるか? 担当は誰だ?」
「私です。凡その所は終わっています」
「水車が設置できそうな場所は見つかったか?」
「はい」
「一番有望な場所はどこだ?」
「ここから北に一クルト(凡そ四キロメートル)も行かない所に、二メートル程の落差を作れそうな場所あります。ですがその、実は地主がおります」
「代替地で交渉できるか?」
「ただの荒れ地ですから恐らくは……」
「任せる。拗れる様ならヴィーガン卿に出てもらえ」
「はい」
そうしてハウゼミンデンの各所を視察しながら、報告を受けては指示を飛ばしていくユーリウス。
「次はなんだ?」
「商工のギルド長との面談があります」
早朝から昼を過ぎてもそのまま視察を続け、ついでの様にして立ち寄った、出来たばかりの自由市場の屋台で腹ごしらえをするユーリウス。
もちろん交代している護衛の兵士達を除き、全員がその場で立ったままの昼食である。
チームの何人かは胃を押さえながら無理やり軽めの食事をしていたりするが、見て見ぬふりをするのが武士の情けというものだろう。
「ギルドか。自由市場を作るのにも随分と文句を付けて来たらしいな?」
「そういうものです。諦めて下さい。それより商業ギルドに数人要注意人物がいます」
「資料をくれ」
「はい。こちらになります」
そう言って手にしていた串焼きを咥えると、肩掛け鞄から分厚い紙の束を取り出すエーディット。
ユーリウスは器用に片手でそれを支えて読みながら、時折脂で汚れたままの指で資料を捲って読んでいく。
エーディットが少しだけ嫌な顔をしたが気にするつもりは無いらしい。
「どれだ?」
「八ページと二一ページを」
と、串焼きの最後の一切れを齧りとって無理やり飲み込むと、鞄から同様の書類を取り出す。
「アシル・ペリアン。ザルデン王の犬です」
「……理由は?」
「ルツの商人と名乗っていますが、生まれはリプリア王国。ザルデン王とはメンディス大公時代から付き合いがあります」
「それだけか?」
「身代の割に資金に余裕がありすぎます。なによりこの男が乗り込んで来た途端にザルデン系市民の妨害工作が止まりました。隠すつもりは無いのでしょう」
「警告、いや、相手に警戒させて目を引き付ける為の囮か?」
「はい」
なるほどね。と、一言呟き沈黙する。
「それで次のヴェッツェルってのは?」
「ブランの古い商家です。ブランザ王国が滅ぶまではゲルマニアでも一、二を争う豪商でした」
「そんなのが生き残ってるのか」
軽く驚き目を見張るユーリウス。
「はい。他の多くの商家が破産の憂き目を見た中で、未だに豪商と呼ばれるだけの規模と資産を維持しています。もちろんヴェッツェル自身はブランを動いていませんが、恐らくヴェッツェルでも精鋭と思われる者達を送り込んできていますから、まともにやったらシュリーファ商会など三月もかからず潰されますね」
その言葉に書類を眺めていたユーリウスの表情が厳しくなる。
「それほどか?」
「はい。ブランザ時代はヴェッツェルの名前が豪商の代名詞だったそうで、今でもその影響力は計り知れません。ゲルマニア中にヴェッツェルが育てた商人達がいるのです」
「――なるほど。気を付けよう」
「はい。そしてその下、先代ヴェッツェルのエジード老。ブランのご隠居と言えば知らぬ者は無いそうです。そして孫のソフィ。この三者が揃って、しかも別々にハウゼミンデンに商会と商館を構えました。正確な所はわかりませんが、それぞれが購入したり借り上げたりした土地の合計はハウゼミンデン全体の三分から五分、下手をすれば八分にもなるかと」
「おいおい……なんだよそれは……化け物かこいつら?」
「ですから要注意人物です」
「……マジかよ……」
マジである。
基本的に識字率が低すぎて知識の継承が難しい世界において、長く続いた貴族や商家やギルドと言った存在は知識の宝庫なのである。
例えばそれが商取引に関する手法だった。
先ずは土地から押さえるという考え方は間違いではないし、実際に非常に効果的な市場支配の手法の一つでもある。
それをどうやら現実に実行しているらしいこのヴェッツェルの一族には恐怖すら覚えるユーリウス。
「確かに独占禁止法とかねーしなぁ……つーかギルド関連の法律とかどう見ても独占維持法だったし」
大商人達に負けないだけの力をつけてから一気に市場の独占・寡占を叩き潰すか、それとも気付かれない様にこっそりと少しづつ進めて、気付いた時には独占・寡占が悪っていう常識になっている様に導くか、つまりはそう言う事である。
「……どうなるかわからないし、両方進めるしかないか……あ、でもゴーレム技術とか独占したい技術はあるから、特許法と特許法を周辺国含めて強制出来る様になるまでは独占維持法が必要なのか……八分か。うん、簡単じゃないか。ハウゼミンデンそのものを更に巨大化させたら良い。それで対抗できる」
盤面をひっくり返すというより、盤面そのものを拡大してしまうやり方で影響力を局限しようという考えだった。
ユーリウスの言葉にエーディットのその赤い瞳だけが楽しそうに動く。
「それからこちらが商工のギルド長達からの要望を纏めたものです」
と、何時もの肩掛け鞄から更に数枚の書類を取り出すエーディット。
「――あー、要するに儲けさせてくれたら上納も増えるよ、って話な?」
「そうですね。そうとも言えます」
「別に再分配が上手くいくなら構わないんだけど、富は必ず偏在するんだよね……?」
と言ってもユーリウスは富の偏在が悪い事だとは思っていない。
もちろんある程度は抑制しないと自分達の首を絞める事になるし、かと言って規制が過ぎれば商取引そのものを停滞あるいは衰退させてしまうから、面倒な問題だと思っているだけだ。
そもそもユーリウスはこの世界の富に大した興味が無いのである。
どれ程の富を集めようと『コスプレした可愛いおにゃのこの受付が居るネカフェで過ごす休日の午後』など手に入らないのだ。
その程度の『富』とやらにどんな価値を認めろというのか?
「どうするかなぁ……でも今はギルドが事実上の社会保障制度そのものなんだよなぁ……国の社会保障制度が運用可能になるまでは仕方ないか……」
「あの、もしかしてギルドと敵対されるおつもりなのですか?」
「んー、出来ればギルドを取り込んでしまいたいんだけどね? 例えば全ての商工ギルドの上位組織を作って、ギルド毎に存在する細かな規定を統一して運用するとか……?」
「ギルドの統一ですか」
「それが一番手っ取り早い気がするんだよね。それでギルドが担っている社会保障の部分を一括して運用する組織を作って、その組織を取り込む……その後ならギルドは潰しても構わないし?」
なにやら真剣に考え始めたエーディットを置いて、各所に設置始まっているゴミ箱に持っていた串を捨てると、どうやら随行の者達も全員が食事を終えているのに気付いた。
「皆食ったな? それじゃ次に行くぞ?」
ユーリウスの言葉で全員が一度に動き出した。
そうして商工のギルド長が集まっている倉庫ギルドの本館に向かうのであった。
「あぁ、これは確かに倉庫ギルドでなきゃ無理だわ」
集まっているギルド長を名乗る者達の数を見て呆れた様子で呟くユーリウス。
案内された急遽改装されたらしい倉庫ギルド本館裏の倉庫には、三〇〇人近い男女がユーリウスの到着を待っていたのである。
椅子はユーリウスが座る為に用意されたらしい一つだけであったが、無機質な石壁にはタペストリーが飾られ、薄暗いはずの倉庫の天井に開けられた大きな穴から明るい日差しが差し込んでいた。
そうして席に着いたユーリウスに向かってしきりに謝罪を繰り返す、この場の代表者らしい倉庫ギルドのギルド長であるガルバン。
ユーリウスとしては別に何処でどんな形の面談になろうと構わなかったので問題は無い。そもそもこれについてもエーディットが事前に許可を出していたはずなのだが、どうやら不安だったらしい。
アニィが拾ってログ化している会話の中に、初めてユーリウスを見るギルド長達の大魔導師とか大賢者とか言う台詞を見ると、一応はユーリウスの偽装工作は成功を収めているらしい事はわかる。
「よく集まってくれた。早速だが時には限りがある。早速面談を始めよう」
「先ずは自己紹介からお願いします」
ユーリウスの言葉に続いてエーディットが倉庫ギルドの長に言う。
女に指示される、命令されるという事を不満に思う者も居る様子だったが、事前にユーリウスが想像していた程ではない。
当然である。
大半の平民達にとっては、男だろうが女だろうが偉い人は偉いのである。
アニィに個人情報を記録させる為、かなりの時間をかけて全員一人づつ前に出させて自己紹介をさせた後、最後にユーリウスが自己紹介を行う。
「うむ。皆も知っていると思うが魔導士のユーリウスだ。ヴィーガン卿よりハウゼミンデンの改革を任されている。この場で話す事は集まった面々を見てわかる通り、ハウゼミンデンに暮らす全ての者達に関わる事である。が、先ずは最初に面談を申し込んで来たモーリッツ、ガルバン、カスパー、ザームエル、アロイスからの話を聞こう。前に出よ」
まさかこう来るとは思わなかった、とでも言いたげに引きつった笑みを浮かべる造船、倉庫、貸馬、薬種、酒造、鍛冶の六ギルド長が前に出てくる。
「では改めてその方達の申し出を聞こう。代表は誰だ?」
努めて穏やかな声で六人の男達に尋ねた。
ユーリウスによる商工ギルドの再編は、こうして静かに始まったのである。
途中で年老いたギルド長達の様子が可怪しくなった所で休会し、全員分の椅子と軽食を用意させたが、会議は陽が沈み、薄くなってしまった女神の恵みが絶えた後まで続いていた。
「服飾ギルドの申し出については理解した。だが答えを出すには製糸ギルドと倉庫ギルドの話も聴かねばならぬ。エーリク、ガルバン。オイゲンの申し出について何かあるか?」
「ございます」
「ございます」
と、前に進みながら視線を交わしあったエーリクとガルバン。
内容は服飾ギルドが使い様の無い廃棄品紛いの糸を不当に買わされていると言う申し立てで、断ると服飾ギルドが借りている倉庫が使えなくなると脅されたという。
こうして話を聞いていてわかるのは、商業ギルドと倉庫ギルドの強大さであろうか?
物流と保管を握っている二大ギルドであるから当然と言えば当然なのだ。
だがもちろん、この問題についても製糸ギルドや倉庫ギルドにとっての正当な言い分があった。
まず廃棄品紛いの糸など売っていないと言う事。
第三者のギルド長を交えて話を聞きながら、織布ギルドにも話を聞く。
流石にこの時間になると、ユーリウスのやり方に慣れて来たのか、申し立ての内容も単なる難癖の様なものは無くなり、一つ一つの問題の検証にはかなりの時間がかかるようになっていた。
この問題についてもギルドの担当者や関わっていた商家を呼び出し、結局のところ服飾ギルドから格安で織布ギルドが購入していた事が判明した。
もちろん検証の為に呼び出しをかけている間は他のギルド長からの申し立てを聞いている為会議そのものの停滞はなかったし、ギルド長達はユーリウスの記憶力――アニィが記録したログを読んでいるだけなのだが――に心底震え上がっていたから、一番呼び出しの多い商業ギルドと倉庫ギルドのギルド長など殆ど死にそうな顔をしている。
それでも必死にそれぞれのギルドの利益と権益を守ろうとする姿には、ただただ感心するしかないユーリウスであった。
「――皆のもの、静まれ!」
次は誰の申し立てか検証かと、ほんの少し浮いた時間に広がったざわめきを見てユーリウスが立ち上がった。
「酒食ギルドの長は何処だ?」
「――は、はいこちらに!」
突然の呼び出しに、転げる様にして前に出てくる酒食ギルド長。
「そこにいたか。アーヴェル、この場に『仕出し』を頼みたい」
「あの、ユーリウス様、それは一体なんでございましょう?」
「あー、『出前』でも通じないのか。要するに酒と食い物を持って来いと言っている。エーディット。金を」
「あ、はい」
と、エーディットが差し出した硬貨の入った革袋を、エーディットが何を言う暇もなくそのままアーヴェルに渡す。
「余った分の管理は任せる。今後もこうした機会がある度に食事を用意してもらう事になるだろうからな。足りなくなったら言え」
「は、はい」
「直ぐに手配してくれ。流石に腹が減った」
「はい! す、直ぐに用意させます!」
革袋の重みから大半が金貨であろう事に気付いて顔色を変えたアーヴェルが慌てて駆け出していく。
そのアーヴェルの後ろ姿を見送り背後で膨れ上がる凄まじい冷気に背筋を凍らせていると、休会になったと判断した幾人かが手洗いに向かったり、なにやら周囲の者と囁きを交わしたりしはじめる。
そんな中、先ほどから声には出さずに視線を交わしあっていた男女二人が前に進み出て来た。
「ユーリウス様、宜しいでしょうか?」
「ジビレー、だったな。それからヴィンセントか。娼妓ギルドに興行ギルドも何か申し立てかな?」
「いいえ。宜しければ食事の間だけでも皆様方のお世話をする者を用意させていただければと思うのですが、如何でしょうか?」
娼妓を呼ぶから酒と食事の世話をさせろと言うのである。
「ヴィンセントは?」
「軽食であれば兎も角、アーヴェル殿が用意されるのであればそれなりに整った物が用意される事になるでしょう。アーヴェル殿も手配はして下さるとは思いますが、ここは是非我らにギルド長の晩餐に相応しい装いの用意をさせて頂きたいのです。アーヴェル殿が戻って来る前には全て整えさせます」
ユーリウスにも断る理由など無い。
「ほう? ではお二方にお願いしよう。先ほども言ったがこうした会は今後も恒常的に開きたいと思っている。次回も両ギルドへの協力をお願いしてよろしいかな?」
微かに、ほんの微かにジビレーとヴィンセントの口元が歪んだ。
どうやらユーリウスは二人が望んでいた言葉を返せたらしい。
「ユーリウス様」
今度は倉庫ギルドのガルバンである。
「なにかな?」
「恒常的に開かれるのであれば、その会場は是非我らに提供させて頂きたい」
「お、お待ちを! 会場でしたら是非ともわれら旅荘ギルドにお任せ願いたい!」
ガルバンの声に被せる様にして、旅荘ギルドのヘルベルトが声を上げた。
ユーリウスは内心の笑いを隠して静かに告げる。
「そうだな……まぁ態々場所を変える必要もないだろう。だが流石にこれは殺風景過ぎる。どうだろう、旅荘ギルドにこの場の内装を任せては?」
「は、はい! ありがとうございます。直ぐに手配させます!」
「恐らく他にも協力してくれるギルドはあるだろうから、その者達ともよく話し合って進めてくれ」
「かしこまりましてございます」
その場の会話を聞いていたらしい細工や工芸関係の工房ギルド長が数人ガルバンとヘルベルトの下に足早に寄っていく。
「そうそう。みんな仲良くね、その方が儲かるんだから……」
「――素晴らしいお考えですね、ユーリウス様。ここは私とも是非仲良くお話させていただけませんか? もちろん帰ってからで構いません、いいえ、帰ってからお願いします」
「う、うん……わかった……」
ギルド長達には気付かれないよう、実に良い笑顔で囁き合う二人。
「ユーリウス様」
そんな二人の前に進み出てきた初老の男。
ギルド長ではない。
休憩の際にそれぞれの配下の者が入ってくるのは許可していたが、どう見ても使用人の気配が無い。
隣に立っていたエーディットを見るとすっと口を寄せて囁いた。
「エジード老、先代ヴェッツエルです」
それを見ていたエジードがニヤリと笑った。
「――お初に御目文字いたします」
誤字脱字その他コメント等ありましたらよろしくお願いします。




