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第一話 ステータスは見えない

 ……――〇



A.G.2868 ギネス二五七年 雨の月(十の月) 木の週の二日(二十八日)

古代神殿


 木の柵で囲まれた苔のベッドでゴロゴロと寝返りをうつ幼児。

 その表情は真剣そのものである。


(なぜステータスが見れないんだ? 転生したらステータスが見れる様になるのはお約束だろう?)


 お約束なのかどうかはわからないが、現状ではそんな能力が目覚めてくれる気配など欠片もなかった。


(さては鑑定か? 鑑定能力なのか?)


 もちろん鑑定能力などという便利なチートが目覚める気配も無い。

 ユーリウスと名付けられたこの幼児は、恐らく生後十ヶ月程度であるのだが、既につかまり立ちが可能となっている上に離乳食も嫌がらず、一度も重篤な病気にはかかっていなかった。

 実際のところ、それだけでも凄まじい幸運に恵まれているのだと思うべきなのだが、そこに気付く様なら中二病には罹患していないだろう。

 ともかく、親代わりらしい二人、エリと呼ばれている美少女とメディナと呼ばれている妙齢の美女は、ユーリウスの健康状態や成長具合に慣れたのか、相当必死になって泣き声をあげないと直ぐにはオムツも乳も与えてはくれなくなっており、結果として祐介が周囲を観察したり魔法の鍛錬と信じる謎の修行に邁進する事が出来る様になっていた。

 ネグレクト等の虐待を受けている訳ではない。

 幼児を放り出して二人が共に出かける事は無いのだが、貧しいために幼児につきっきりでは生活が成り立たないのだ。

 ユーリウスが身に纏っているのは荒い作りの布切れ一枚にオムツ一枚だったし、ベビーベッドは乾燥した苔に布切れ一枚敷いただけ。

 ベッドの周りの柵も手作り感満載の貧弱な物であり、今も何やらお喋りをしながら糸を紡いでいる二人の姿が見えている。


(お約束と言えば転生したらどこぞの貴族の八男とか『ざまぁ』される予定の悪役貴族の嫡男とか、そーゆー立場になるのが普通じゃないのか? ここまで貧しいのは……いやマテ、奴隷やスラムの孤児ってパターンや滅亡寸前の国の領主とかよりマシか。というかこの建物はなんなんだ?)


 まず見渡せばドーム状の屋根があり、木の板で封鎖された扉が幾つか。真ん中に噴水があり、飲料水や生活用水も噴水の水を利用していて、噴水の排水溝の一部が開かれ、そこに衝立を置いてトイレにしている。一応水洗トイレというわけだ。

 さらに大広間の入り口の大扉は大体いつも閉じられていて、一度その外が森になっているのを見たことがあり、軽く絶望していたのは秘密である。

 また、反対側の大扉はやっぱり木の板で封鎖されていて謎。

 つまり生活空間はこの大広間だけで、煮炊きが可能な簡易の囲炉裏の様な物が拵えてあり、全員がその周囲で寝起きしている。

 ついでに言えば、祐介が勝手にニグラスと名づけた一頭の黒山羊っぽい家畜と、ブルーと名づけた翼のない鶏っぽい巨大な家禽らしき存在も、広間で放し飼いになっていた。

 黒山羊っぽい何かも家禽らしい何かも雌で、ユーリウスの命を繋いだのはこの家畜の乳であるらしい。もちろん離乳食も乳粥っぽい何かである。

 時々その黒山羊っぽい何かが寄ってきて、泣いているユーリウスの顔を舐めたり、苔のベッドをモサモサと食べたりしているが、とりあえず危険は無いらしいので放置している。

 ユーリウス、というか祐介にはあまり見たいと思えない姿なのだ。 

 まあそれは良い。ユーリウスにとって大事なのはこの世界はどうやら地球ではなく、しかも魔法が存在しているらしい部分だ。

 ユーリウスの世話をしてくれている女性二人は共に魔法が得意であるらしいのだ。

 何をする時であってもちょっとした魔法を軽く連発しているのを見ていたのである。


(ここは魔法が存在する異世界なのだっ!!)


 などと、始めて見た時の感動は忘れていない。


(あのメディナっていう姉ちゃんが母親ではないのは多分予想通りだろうが、親族である可能性はある。だとすれば俺にもきっと魔法の一つや二つは使えるはずだ! そう! 魔法使いだ! 大魔導師に! 俺はなる!)


 と、いつの間にかユーリウスの離乳食をつつきにやってきたらしいブルーと死闘を繰り広げつつ、小さな両手を握りしめて天に誓う祐介であった。


(でもなぁ、魔法って一体どうやって使ってるんだ? なんか二人とも無詠唱なんだけど? 呪文とか魔法陣って無いの? 杖とか触媒はいらんの? ねぇ?)


 流石に長時間のつかまり立ちに加えての死闘は幼児の身体には厳しい為、再び苔のベッドをゴロゴロと転がりながら、身体に巻かれた布切れの解れた部分を啄んで来る強敵(とも)との死闘を繰り広げつつ、魔法についての考察という名の妄想を続ける。


(普通はアレだよな? 魔力とかあって、使えば使うほど増えるとかそういうシステムになってるんだよな? まさか魔法は自然現象で、呪文でそれを繰り返させる魔力とか関係無いタイプって事は無いよな? もしくは神様がくれた贈り物で、呪文を覚えたら一日に知力分だけ記憶出来て使えるとか? あ、でもあの二人は呪文を唱えてないし違うか? そもそもステータスが見えない時点で実は魔法チートのルートは詰んでるんじゃね?)


 見た目は珍しいほどに可愛らしい幼児であるが、中身が残念過ぎである。そんな残念な相手に無視されてムキになったのか、ブルーが手加減無しに祐介の布切れを糸くずに変えていく。


(ええぃっ! 邪魔だブルー! ハウス! あ、やめろブルー! あー! 解れる! 服が! やめてブルー!!)


 そうして祐介=ユーリウスの一日は過ぎていくのであった。



短いでしょうか?

次話は明日の朝七時に予約投稿してあります。

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