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第四十三話 ファーストルック・ファーストショット・ファーストキル

A.G.2868 ギネス二五七年

霜の月(十の月) 人の週の三日(三十三日)

テオデリーヒェン大公国 エレン



 領主軍は城壁に篭ったままで、連合軍はエレンから五キロ程の所に本陣を敷いており、これまでのところ大勢には変化は無い。

 が、既に市街地にも貴族連合軍の兵士達が侵入して、睨み合いからの小競り合いが何度も発生している。

 流石に古くからのブランザ系市民達の大半は、昔から利用されていたらしいエレン湖に半ば沈んだ古い遺跡に立て籠もっており、エレンに残っているのは城壁内に立て篭もる領主軍とザルデン系住民と、迷宮から追い出された堕民達、そしてユーリウス達と船大工の三分の一程であった。

 船大工達の多くも身の危険を感じ、遺跡の方に移動してしまったのである。


 ユーリウスの感覚からすると随分のんびりとした戦であったが、この世界は魔法がある分だけこれでも随分素早いらしい。

 そもそもが子ずれの娼婦がのんびり歩いて間に合う程度の行軍速度であるのが中世の軍隊というもので、例えばローマ帝国や織田信長といった連中の軍事行動と比べてはいけない。

 問題は堕民達の多くが市街地から、造船街のあるシャンター川の中洲の方に逃れてきていた事だろうか?


 ユーリウスが不用意に堕民の一部――フィリベ達四人――を手下になどしてしまったものだから、もしかしたら自分達も、などと考えた者達がやって来て、それを見た別の堕民がわけも分からず中洲の方に移動し、それを見た別の堕民がわけも分からず~~というループが発生してしまったのだ。

 実際、元からエレンの街で暮らし、戦が終った後もエレンの街で暮らし続けようと思う者達からすれば思いもよらない選択肢であったが、いざとなれば橋を落とすだけで十分な防御力を発揮するであろう中洲は悪い選択では無い。

 ユーリウスも最後は船でエレン湖に出る事にしているが、その前に二つの橋を落としてしまおうと思っている。

 エレンの街がどうなったところで所詮は他人事であるユーリウスにとっては、橋を落とすだけで片付けばシュリーファ号の性能を秘匿する意味でも上策と言えるのだ。


「――どうやら傭兵たちの方が我慢出来なくなったらしいな?」

「はい。貴重品は持って逃げた後ですが、家捜しすればそれなりに売り物になる物が転がっていますから」

「売れるって言っても何処で売るんだそんなも……あぁ、ブランから着いて来た行商人達が居たか」

「はい。目端が利く堕民が既にそうして略奪して回っていますから、傭兵たちからすれば我慢の出来る事では無いでしょう」

「何れ中洲(ここ)にも来るかな?」

「来ます」


 と、そうした会話をしたのが昨日の事である。


「マジで来たな……二〇人。――いや、二二人か」

「――そうですね。どうします?」

「撃退してもまた来るよな?」

「来ますね。領主軍は何をしてるんだ?」

「ここに堕民やラネック系住民が集まっている事は把握しているでしょうが……」

「――あぁ、アイブリンガー子爵が守るべき『市民』の対象外なわけか。当然連合軍の連中も同様に思ってる訳だな?」

「恐らく」

「よしわかった。穏便に済ませてやろうかとも思ってたが、引っ掻き回してさっさと決着させよう」

「――はい?」


 どうやら延々とグズグズしていたユーリウスの気持ちも漸く定まったらしい。

 遅過ぎである。

 だいたい領主軍も貴族連合軍も纏めて虐殺してやれば話は一番早いのだ。

 それをしないのはシュリーファ商会の面々を神殿に連れ帰っても養いきれないのと、エレンの街に拠点を残したいという「お気持ち」だけの話なのだ。

 要するに戦の後もシュリーファ商会がエレンの街で活動出来れば、後は何をしても良いという事に気付いた訳である。


「先ずはこの二二人は全員倒してしまおう」

「――殺すのですか……?」

「いや、気を失ってもらうだけ。――多分死なない……んじゃないかなぁ……?」


 因みに傭兵たちは中洲の南にある橋を渡り、再開発が止まっている新市街を抜け、散歩でもしているかの様な歩き方で造船街へと向かってきている。

 造船街と中洲の新市街の間は原野と湿地帯であり、季節柄枯れた薄や蒲の様な植物が点在しているだけで見通しは悪く無い。

 時折渡りの水鳥が飛び立って行くのを見れば、傭兵たちの接近についても一目瞭然であった。

 当然ながらシュリーファ商会の面々と、ユーリウス達に従う事に決めているらしい船大工達――哀れにもユーリウスを、ハウゼミンデンの豪商にして錬金術師だと思い込んでいる為である――も、全員が戦闘準備を整えている。

 ただし造船街を囲んでいる柵だけは随分立派な物ができているが、手にしているのは櫂や大鎌や船材を削った杖といった物であり、二二名とは言え荒事に慣れている傭兵たちに突入されたらあっさりと蹴散らされかねない。


「はじめよう。俺が魔法で攻撃して相手が倒れたら、みんなで縛り上げて連れて来てくれ。しばらくは動けない様になるはずだけど、なるべく手早く頼むぞ?!」

「――おいユーリウス様よ、本当に大丈夫なんだろうな? 今から船に乗れば全員逃げ出せるだろ?」

「今更か? 大丈夫大丈夫。キッチリ全員行動不能にしてやるから。まぁ見てろ……」


 そう言って視界の片隅に縮小していた(ウィンドウ)を大きく広げて電撃の魔法をカスタマイズするユーリウス。

 時折複数の魔法陣が浮かび上がっては消えるが仕様である。


「死ぬんじゃねーぞ傭兵ども! 喰らえ! 拡散電撃弱強化電圧型三連!」


 まさに呪文そのものとといった日本語の台詞と共に眩い雷撃が二二条。

 それが三連続でユーリウスの両手から放たれる。

 凄まじい轟音が響き渡ると広範囲の水辺から一斉に水鳥達が飛び立ち、後にはあり得ない程の沈黙が訪れた。


「……何をしている? さっさとふん縛れ!」

「は、はい! いくぞ!」


 船大工のガルツを先頭に、シュリーファ商会の男たちと職人達が駆け出していく。


「エリクも行ってくれ。居ないとは思うが、動ける奴が居たら頼む」

「――はっ! フィリベ、クリス、ボーラン行くぞ! カイは残って周辺警戒!」

「おうっ!」

「はいっ!」


 なお傭兵達は全員が生きてはいたが、半数近くがお漏らしをした状態で失神しており、その惨状は目を覆わんばかりのものであった。

 そうして身ぐるみ剥がされ縛られて集められた、異臭のする傭兵達を前にして高笑いするユーリウスがいる。


「――さてエリク。一人起こして追い出してくれ。何度でも来い、叩き潰してやるって伝えてな?」

「はい?」

「誘いをかけてやる。魔法使いが守っていると思えばそれなりの人数で来るだろうが、何人で来ても同じ目に合うだけだ。さっきの電撃は一度に指定出来る相手は二五六人しか居ないが、二五六人づつでも八〇〇人なら三回で終わる。多少残った所で向かって来る勇気がある奴がいるとは思えない」


 ……少し調子に乗り過ぎな気がしないでもないが、秒速数万キロメートルで進む電撃など、初見でどうにか出来る攻撃ではないのだ。

 エリの聖女装備並の魔道具で堅めた傭兵などいる訳が無いし、そうで無ければ一〇〇万ボルト級の雷撃を受けて耐え切れる者などまず居ない。

 仮に居たとしても魔の森の魔物達に比べたら、人間など所詮は柔らかいお肉に過ぎないのだ。

 燃やし尽して終わりであろう。


「後はあのゴーレム。アレを奪う」

「ゴーレムを奪うのですか……?」

「そう。ゴーレムなら随分調べたからね。核の命令を書き換える為の魔晶を作って埋め込むだけで良いんだよ」

「核の命令を――わかりませんが、そんなに簡単な話なのですか……?」

「そう。簡単なんだよ。魔石を入れて最初に声をかけた者の命令を聞くだけだから。俺の言葉しか聞かない様に書き換えて、あとは神殿に向かって歩かせる。あぁ、エリとボニファンの命令にも従う様にしておこうか――」

「……そんな事が……?」

「作った魔晶をゴーレムに直接触れさせなきゃならないから、そこは少し問題なんだが……なんとかなるだろ。そこまでしてやればアイブリンガー子爵だって動くはずだし、一回勝てば子爵の面子も立つだろ?」

「はい。そうですね。本格的な交渉になるかと思います」

「それじゃそういう事で、シュリーファ商会や親方達にはそこまで言わなくても良いけど、もう直ぐ戦争は終わるとだけ伝えておいて。俺は今から魔晶の準備をするから」

「はい。わかりました」


 と、その場をエリクに任せて作業場へと向かうユーリウス。

 それを見て小さく溜息を吐いたエリクだったが、直ぐにカイを呼んでユーリウスの近くで控えている様に言うエリクであった。

 





ユーリウスが、というよりアニィがチート過ぎる上に、魔の森での狩りでファーストルック・ファーストショット・ファーストキルに特化してるので、どうしてもこんな感じになっちゃいます。

しかも初見殺し特化。

ガチの殴り合いが出来るのは、今のところフル装備のエリとモモくらいしか出てきません。

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