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第二十一話 魔剣とホムンクルス

A.G.2868 ギネス二五七年 獣の月(六の月)木の週の一日二十五日)

古代神殿



 いつの間にか初夏の日差しが差し込んでいる神殿の中庭では、生き残った妖精族(エルフ)の戦士が、ユーリウスが作った義足を着けて剣を振るっている。

 魔物の骨と革に、マギシュトゥンの筋肉を持つ簡易版ゴーレムの義足だ。

 もちろん膝下から先の感覚は無い為、上手く歩ける様になるまで一月程の訓練が必要になってしまったが、それでも一般的な義足と言う名の棒きれよりも遥かにマシというものであろう。


「フィーム! 食事が出来たよ!」


 どうやらタイミングを計っていたらしいユーリウスが声をかけた。


「あぁ、すまない。もうそんな時間だったか。ありがとう」


 ユーリウスが手にしていた手ぬぐい、と言うよりぼろ切れを受け取り汗を拭いながら礼を口にするフィーム。


「あまり無理はしないで? それも所詮は試作品だし……」

「そうだな。折角作ってくれたのに壊してしまっては大変だ」

「違うよ! 激しい動きをしてる時に壊れたら怪我をするかもしれないでしょ?!」

「あぁ、ありがとう。ユーリウスは優しいな。きっと良いお婿さんになれるぞ?」


 と、ユーリウスのの頭を撫でながら言うフィーム。

 これでも魔王の迷宮を攻略すべく編成された、妖精族の精鋭部隊に選ばれた一人なのである。

 例え突然義足が壊れてしまったところで、ユーリウスが心配する様な事にはまずならないだろう。


「もう。何がお婿さんだよ……。それより食事が終わったらさ、またちょっと実験に付き合ってよ」

「いいだろう。ユーリウスは命の恩人だしな。どんな実験にでも付き合う覚悟はある」

「なんだよそれ。俺、そんな変な実験とかしてないでしょ?!」


 いや、最近はそうでもない。

 特に一体目のホムンクルスを復活させてからは、半ば人体実験紛いの怪しい実験が増えている。

 それもこれも四肢の欠損を治すと言う大義名分があったからだが、先程のフィームの動きを見れば、特に急ぐ必要も無い気がしないでもない。


「おいヒヨッコ、実験は良いが剣術の訓練も忘れるんじゃねーぞ?」


 と、不意にユーリウスの背中から声が響いた。


「黙れ駄剣」


 ユーリウスが世界樹の苗木を届ける報酬として貰った魔剣インテリジェンス・ソードである。

 名前はヒュメルフリューグ。

 大地の民(ドワーフ)の名工が、彼らの王を守る為に打った最強級の魔剣である。

 ただし、ユーリウスは確かに主としてヒュメルフリューグと契約はしているが、会話の通りその関係は最悪の状態であった。

 それもある意味仕方がない。

 そもそも四歳児が持つ様な剣では無いし、実際問題ユーリウスでは背中に背負うので精一杯の有様である。

 宝の持ち腐れもいいところだろう。

 もちろんユーリウスも最初は辞退してフィームが受け継ぐべきだと言ったのだが、亡くなった戦士カレスの遺言だからと、頑なに固辞されてしまったのである。

 もう一つ。

 フィームに受け継がせようとするあまり、ユーリウスが放った台詞もまた悪かった。


「俺も要らないよ。だってコイツ、ただの駄剣じゃない」

「なんだと?!」

「違うとでも言うつもりか?」

「ふざけんなよヒヨッコ! 俺はかの大地の民の名工ロデンザがその王を守る最後の盾として鍛えた最強の――」

「だからソレ。大地の民の王を守れず魔族に殺され、次の主の魔族の王も妖精族に殺され、その次の主の妖精族も魔物に殺されて、誰一人守れなかった役立たずって事じゃん……」


 うん。ユーリウスが悪い。じゃん……じゃんじゃん……と、ヒュメルフリューグの心の中でリフレインしたのが聞こえた気がするし。

 あと、人には触れちゃならん痛みがあって、そこに触れたら後はもう命のやり取りしかないんだって、昔の偉い人が叫んでたし。

 ユーリウスが悪い。


「ユーリウス様、エリ様もメディナ様もお待ちでございます。お急ぎを」


 と、ユーリウスと駄剣(ヒュメルフリューグ)が騒がしく言い合いしている所へ現れたのは、二週間程前に復活させたホムンクルスで、名前をエーディットと言う。

 最終的に一〇〇体以上見つかったホムンクルスであったが、即座に目覚めさせる事が可能だったのは二〇体ほど。

 その二〇体の内、エーディットだけが本当に眠っているだけの状態だったのである。

 色素の薄い殆ど白髪に近い銀色の頭髪に、青い影の入った赤い瞳の少女である。

 見た目の年齢で言えば十七、八といった所だろうか?

 問題は精霊を降ろす方法がわからず、アニィの一部を分離して、精霊界側から直接核となる魔晶を起動した、半精霊とでも言うべき存在であった事だろう。

 ホムンクルスとしての初期記憶と、アニィが持つ精霊としての記憶にテオドラの記憶。

 モモはそのうち馴染むだろうと楽観的であったが、ダメなら精霊を消して魔晶を書き換え、改めて最初からやり直せば良いと言う考えがあるからである。

 ユーリウスとしては出来れば避けたい選択肢であった。


「あぁ、エーディット、聞いてくれよ、この駄剣が――」

「お急ぎ下さい」

「あ、はい」


 後ろでぷっと吹き出しているフィームにちょっと肩を竦めて素直に歩き出すユーリウス。

 折角ハーレムを期待て復活させたホムンクルスであったが、ユーリウスに対する当たりがどうもキツイのである。

 少なくともユーリウスには。


「フィーム、俺、エーディットに何かしたのかな?」

「なぜだ?」

「なんか物凄く嫌われてるみたいだし?」

「……ふむ?」

「ヒヨッコが。お前の何処に好かれる部分があるって言うんだよ!」

「なっ――!」

「お急ぎを!」

「はい!」


 ユーリウスがどう思っているのかはともかく、エーディットについて言えばユーリウスを嫌っている訳ではないだろう。

 造物主(クリエイター)を嫌うホムンクルスは存在しない。

 ……正確に言えば、ユーリウスは目覚めさせただけでエーディットを作り出した存在では無いので、精々が名付け親(パーター)でしかない訳であったが……。

 やはり嫌われているのかもしれない。

 

 



 



次の投稿は明日の朝七時です。

いよいよ初めてのお使いです。


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