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第二十話 世界樹 ※

A.G.2868 ギネス二五七年

星の月(三の月) 火の週の三日(十五日)

古代神殿



 ユーリウスが助けた二人は妖精族(エルフ)の戦士であった。

 予想通り二人とも極上のイケメンであったが、予想外だったのは囮組みの生き残りであるイケメンの性別が女性であった事だろう。

 妖精族に相応しいその残念な胸はともかく、戦士らしからぬスリムな肢体はそれなりに需要があるタイプだ。

  問題は、毒を受けた左足が腐って切断しなくてはならなかった囮組みの妖精族(エルフ)の女性が目を覚まさないのは仕方ないとして、然程大きな傷を負っていた様に見えなかった妖精族(エルフ)の男性の方が、この日の明け方になって目を覚まし、厄介な遺言を残した直後に亡くなってしまった事である。


「……折角助けたのに」


 ポツリと一言漏らしたユーリウスであったが、表面上は上手に取り繕う事が出来ていた。

 遺言の内容が非常に厄介であった事も理由であるが、主人を亡くして泣き叫ぶ魔剣インテリジェンス・ソードへの対応で、エリとメディナがいっぱいいっぱいになっていたと言う事も理由の一つであろう。

 ユーリウスの内心はもうこれ以上無いほどに乱れていたし、いつ混乱の余り叫び出してもおかしくない程であったのだが、幸いにももう一人の方は回復に向かっていた。

 この精神面の弱さは恐らくユーリウスの弱点になる。

 エリやメディナ、いっその事あの悪魔(モモ)にでも鍛えさせる必要があるのではないだろうか?


「ユゥ、ここはもう良いからあなたは女性の方を診ていて。何かあったら直ぐに呼んでね?」

「わかった」


 エリもメディナも、まさか泣き叫ぶ魔剣の世話をしなくてはならない羽目に陥るとは、思ってもみなかったのに違いない。


「嫌がるブルーに無理を言って乗せて帰って来たのにな……」


 眠り続けるの女性を見ながら呟くユーリウス。

 言っても仕方のない事ほど言いたくなるのはユーリウスの癖なのだろう。

 と、不意に眠り続けていた妖精族(エルフ)の女性が身じろぎして何やら呟いた。

 誰かの名前だろうか?

 即座に身を翻してエリとメディナを呼びに走るユーリウス。

 これで魔王の後継者を自称するのであるからお笑い草と言うものである。

 結局、慌てた様子でエリとメディナがやって来たものの、妖精族の女性が目を覚ましたのはそれから半刻程も過ぎた夕刻の事であった。


「――で、では、私だけが生き残ってしまったと……」


 そう言って絶句してしまった彼女の名前はフィーム。

 ネレアのフィームと言うらしい。

 フィームが目覚めた事で漸く落ち着きを取り戻した魔剣インテリジェンス・ソードが側に付く事で、なんとか口を開く気力を取り戻したフィームであったが、自らが命を投げ出してまで助けようとした相手が亡くなっていたと言うのは相当堪えたのだろう。

 遥か北方の山地に暮らす妖精族の戦士達が、なぜ魔の森に居たのか、何故妖精族の至宝とも言うべき世界樹(ユグドラシル)の苗木などと言う貴重な物を持っていたのか等については、フィームの体力が回復してから聞き出そうと言う事になった。

 そう。

 よりにもよってこの連中は、妖精族が命よりも大切にしている世界樹(ユグドラシル)の苗木など言う爆弾を抱えていたのである。

 亡くなった妖精族の遺言とは、もちろんその苗木についてであった。


「エリ?」

「なあにユゥ?」

世界樹(ユグドラシル)ってなに?」


 あぁ、とエリがため息を吐いた。


「ごほん。ではエリ先生がお教えしてあげましょう。歴史のお勉強ですよユーリウス」


 エリの言葉を要約すれば、それは数百年の時を生きる妖精族が、神々から直接受け継いだとされる「命のゆりかご」とも呼ばれる大木である。

 この大陸全土を見ても、彼等に残された世界樹は妖精族の国(ヴェルグニー)にある一本のみであり、他は神竜とも古竜とも呼ばれる神々にも等しい力を持つと言う竜族の巣に一本があるだけだった。

 世界樹は生命の木とも呼ばれ、その幹はもちろん、葉や根や樹液に至る全てが非常に有用な資源となる為、遥かな昔から凡ゆる種族が争奪戦の的として奪い合い、長い年月の間にその殆ど全てが失われてしまったのである。

 世界樹自体は非常に成長の早い強靭な樹木ではあるのだが、いかんせんマナとの相性が悪過ぎるのである。

 樹皮や落ち葉はそれだけで錬金術の触媒として利用可能な程であるのに、放置すればあっという間に侵食されて結晶化して枯れ果ててしまう。

 育てる為には樹木全体を結界で覆い、周囲のマナを寄せ付けない様にするしかないのである。

 もちろんそれだけであれば然程難しい話ではないのだが、世界樹と呼ばれるだけあって全高六〇〇メートルにまで成長し、枝の広がりもまた同じ程になるのだ。

 結局そこまで巨大な結界を扱える種族以外に世界樹を育てるのは不可能であり、現在生きている種族の中では妖精族と竜族だけと言う話になる。


「全高五〇〇ローム(※)以上って……一ロームが大体六〇センチだから、一〇〇ロームで六〇メートル、全高三〇〇メートル以上っ?!」

「よくわからない驚き方ですけど、それでもまだ成長期なのですって。古代の記録では一〇〇〇ロームにもなったそうよ?」

「ファンタジー世界ぱねぇな……どうやってその重さを支えてるんだよ……つーかどうやって先端まで水分届けてんの?」


 妖精族なら知っているのだろう。

 もちろん我にも予想可能な部分はある。マナとの相性の悪さだ。

 基本的にマナとオドは相性が悪い。

 生命の木と呼ばれるだけあって、恐らくオドの力が非常に強い、いや強過ぎるのだろう。

 だからこそある種のマナに触れるとたちどころに変質してしまう。


「よくわからないけど、ユーリウスの疑問は多分妖精族なら知っていると思うわ」


 確かにその通りだろう。


「ねぇユゥ?」

「なに?」

「あなたは本当に妖精族の国(ヴェルグニー)まで行くつもりなの?」

「行くよ。約束したから。魔剣も貰っちゃったしね?」


 そう言うユーリウスの瞳を暫く見つめていたエリであったが、ふう、とため息を一つ。


「いいわ。わかった。私も行ってあげる」

「ええっ?! いや大丈夫だって、ブルーと一緒に行くつもりだし! 多分あのエルフのお姉さんも行くし?!」

「それじゃ帰りは一人になっちゃうじゃない。私も行きます」

「いや、だって、これは俺が頼まれた事だし……」

「ダメです。私も行きます。大体あなた自分

年齢を覚えてるの? いくら魔法が使えるからって一人でなんて無理に決まってるでしょ? そんな事私が絶対に許しません!」


 ユーリウスの抵抗は、ものの数分で終わった。

 ユーリウスは異世界舐めすぎだと思う。確かに身体は六、七歳程度にまで成長しているが、先ずは鏡でも見て自分の年齢をよくわきまえた方が良い。

 あとユーリウス。

 爆発しろ。




※ 度量衡

クライ 約6センチ

ローム 約60センチ

クルト 約4000メートル


ミル 約0.8リットル

イル 約18リットル


デル 約3グラム

スタン 約520グラム

イルジ 約20キロ





次の投稿は明日の朝七時になります。

批評感想誤字脱字や矛盾点など、なんでもコメント頂けたら嬉しいです。

よろしくお願いします。

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