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閑話 傭兵 01

ブクマ感謝記念で予定を変更して閑話を一話投稿します。

ブックマークして下さった方々、本当にありがとうございます!

A.G.2866 ギネス二五五年

火の月(八の月)水の週の一日(七日)

ザルデン王国 ブラン



 旧ブランザ王国の王都ブラン(ラネック王国の占領下では勝利を意味するザイアと呼ばれていた)は、現在ザルデン王国国王軍の占領下にあった。

 ザルデン王国と、一時ザルデン王国から離脱していたザルツ公領との同盟が成ったのとの知らせとほぼ同時に、二八〇〇〇の兵でザルツ山地を越えるという常識外の進路をとり、ザルツ公領からハルツ川を渡河して直接ブランを包囲したのである。

 ブランザ王国を滅ぼしておきながら、ラネック王国は徒らに民を虐げ富を貪り、魔の森の攻略という神々より与えられし使命を果たさなかった、というのがザルデン王の掲げた大義名分であった。

 ラネック王国にも言い分はあったが、事実として魔の森の攻略は一度も行っていない。

 それ以前にあまりにも素早い侵攻であったため、ブランを治めていたゴース公爵は兵を集める事すら出来ずに降伏するより道が無かったのである。

 武装解除の折、一部の暴徒化した住民によってラネック王国の貴族やその私兵が殺された事件等もあったが、ザルデン王国国王軍から見れば、事実上の無血開城となった事は幸いであった。

 同時にラネック王国に雇われていた傭兵達についても、降伏と同時にザルデン王国との契約に有り付く事が出来た。

 ラングラット公国出身の傭兵隊長ゲオルグ・ガイセもまた、ブランの治安維持部隊の補佐という任務を請け負う事が出来た事で、大きな安堵の溜息を吐いていた。

 傭兵隊長と言っても雑用の小僧まで含めて五〇人程の傭兵集団であり、これから始まる各地の反抗的なラネック系領主の討伐・掃討作戦に駆り出されていたら、どんな扱いになるかわかったものではない、そう思っていたのだ。

 なにより請け負ったのは治安維持の主力ではなく補佐である。

 主力はクルト・エアハルト男爵とその与力の騎士達の持つ兵士達であり、本格的な揉め事にはエアハルト男爵自身が当たる事になるという部分が最高であった。

 もちろんゲオルグ以外にも複数の中小傭兵団が同様の契約を請け負っており、総勢二〇〇〇の兵でブランの治安を維持していく事になる為、一番旨味のある商業地域の担当になる可能性については考慮していないが、それでも美味しい契約であった。


「面倒事は男爵へ、美味しい所は俺達で」


 傭兵にとっては夢の様な仕事になるはずであった。

 エアハルト男爵が普通の貴族であれば……。


「そんな訳でゲオルグ、貴様には現在のフェルデ区とマールスドーフ区の治安維持を合わせて任せる」


 ザルデン王の軍勢が各地に散った翌々日の事である。


「――エアハルト様、マールスドーフはオットマーの担当だったはずですが……?」

「オットマーは死んだ。彼奴の部下が略奪を働き、それを隠蔽する為に住民を害したのだ。で、私が斬った。お前はそんな真似をしないと信じている。詰め所の位置は知ってるな?」

「は、はい」

「では以上だ。行け」


 はっ、と勢い良く答えたは良いが、昨日の今日で傭兵団が一つ潰されたのである。オットマーの所も精々が三〇名程の傭兵団でしかなかったが、数が多いとか少ないとか、そういう問題ではない。内心の動揺はとても口では言い表せない程であった。

 そこで、そう言えば途中の広場で晒し者になっている罪人の一団がいたな、と思い出す。

 住民達が石を投げていた事から、石打ち刑なのだろう。つまり生き残っても終身の犯罪奴隷落ちのはずであった。

 慌てて件の広場に行って見れば、予想通りオットマーの傭兵団員であった。


「正気かあの男爵様は?」


 もちろん正気である。

 王族や指導者層の多くを渦巻く灰色の霧(モモ)によって殲滅されてしまったラネック王国は、本来の目的を完全に見失い、本国で始まった壮絶な内戦と権力争いの結果として、遠征軍は略奪と収奪が目的となってしまっていたのだ。

 ザルデン王国でも少なくない数の貴族達が渦巻く灰色の霧(モモ)によって殺されていたが、そんなこんなの混乱からも完全に回復し、ラネック王国遠征軍と旧ブランザの市民達、そしてラネック王国からの移民と言う名の棄民達の間に生じていた火種が燃え盛るのを何年も待っていたのだ。

 当然、ザルデン王は本気でこの地を自国の領域として組み込むつもりであるし、その為の方針も方策も検討し尽くされており、実行可能なだけの力を蓄え続けていたのだ。


「部下の罪は上司の責任……か」


 契約が終わった翌日、クルト男爵が傭兵隊長達を集めて行った演説を思い出したのである。


「つまりザルデン王は相当の覚悟で挑んで来たという訳だ」

 

 仕方ない。と、ゲオルグはそれまでの考えをすっぱりと捨てる事にした。

 命あっての物種なのである。


「契約が終わるまでは精々お上品に振る舞うとしよう」


 ゲオルグにとっての誤算は、三ヶ月であった契約期間が予想を超えて長くなってしまう事と、五〇名程であった傭兵団「シルス湖の竜」が瞬く間に拡大し、三〇〇名を超える規模にまで成長してしまう事であるが、それは未だ、もう少しだけ未来の話である。

 

 


挿絵(By みてみん)




本編の投稿は明日の朝七時になっています。

批評感想誤字脱字や矛盾点など、なんでもコメント頂けたら嬉しいです。

よろしくお願いします。

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