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第十八話 狩り

A.G.2868 ギネス二五七年

星の月(三の月) 火の週の三日(十五日)

古代神殿



 ユーリウスとブルー達による狩りは、基本的には森の中での待ち伏せだ。

 ユーリウスが獲物を探してブルー達を誘導し、デルタ、エコー、チャーリーで追い立てユーリウスが魔法によって足を止めてブルーが止めを刺すか、ブルーが足止めをしたところへユーリウスの魔法が止めを刺す。

 本来ブルー達には手が出せない様な上位の魔物であっても、ブルーの俊足とユーリウスの火力があれば対応可能であった。


「ブルー!」


 と、小さく、しかし鋭いユーリウスの声。

 これにはブルー達も一切返事を返さず、全身をバネのようにして即座にその場で停止する。

 ユーリウスは既にHMDとステータスの魔法を展開済みであり、視界の右上には最近追加したばかりのレーダーも稼働中であった。

 敵味方が不明な黄色の光点は複数あるが、その多くはユーリウスの周囲から離れつつある小動物達、魔物を表す赤い光点一つだけだった。

 危険な魔物や生物の兆候は無い。

 ユーリウスが確認していた間に、どうやらブルー達も獲物の臭いを嗅ぎ分けたらしい。早くもブルー達の鋭利で長大な鉤爪をゆらゆらと動かしている。

 ユーリウスはブルーの背から飛び降りると、ハンドサインだけで指示を出す。

 ブルーはその場で待機、デルタが右手、エコーが左手、チャーリーが奥からである。

 一見目立ちそうな派手な鶏的色彩のブルー達であったが、多彩な色を識別できる動物や魔物は少なく、森の中ではその多彩な色がそのまま迷彩として機能しているのだ。

 当然森の中で羽根を逆立ててしゃがみ込んでしまえば、それがそのまま天然のギリースーツに早変わりする。こうなるとブルー達(ヴェロキラプトル)の存在に気が付く生物など滅多に存在しない。

 そうして待つ事二分ほどであろうか?

 最初に聞こえてきたのは「ぷぎゃーっ!」

というチャーリーの鳴き声であった。

 直後にあがる、まるで割れた角笛でも吹き鳴らしたかの様な叫び声。

 草食の魔物で今日の獲物でもある双頭大鹿(ディヴァングレン)である。

 二つの頭と其々に枯れ木の様な複雑な形の二本の角を持つ、恐らくは鯨偶蹄目に属する鹿の化け物だ。

 成体ともなると体長は軽く四メートルを超え、体重も三トン近い。

 大量の下生えや樹皮などを食い荒らす魔物であったが、その分若木や下生えの若芽の発育を促す能力があり、一頭だけであれば森の生態系に与える影響は少ない。

 ユーリウスも作業中のゴーレムを攻撃されていなければ放置したはずだが、どういう訳かゴーレムを見る度に攻撃して、その都度撃退されていたのだ。

 警戒心が強いために発見出来るとも思っていなかったが、発見した以上は狩りの対象である。

 チャーリー達が追い込んで来るのに合わせて魔方陣を展開するユーリウス。

 使うのは得意の焔の魔法であった。


「ブルー!」

「くけぇっ!」


 ユーリウスの声に即座に反応して飛び出すブルー。

 と、ほぼ同時にチャーリー達に追い立てられたディヴァングレンが森の木々を蹴倒し蹴散らし飛び出して来る。

 ディヴァングレンは既に満身創痍といった見た目ではあったが、部位毎の損傷状態を確認すると傷はどれも浅く、行動には然程支障が無いらしい。

 だがそれもブルーが飛び出し攻撃を開始するまでの事であった。

 辛うじて動脈への一撃は回避出来たもののすれ違いざまの鉤爪の一撃で首筋を切り裂かれ、驚きのあまりその場で棹立ちになった所で低い姿勢のまま一瞬で飛び出してきたエコーによって、右の後ろ足を噛まれて骨まで砕かれてしまう。

 損傷状態を表す全身図では、ディヴァングレンの右後ろ足は一撃で赤く染まり、耐久度の残りは二パーセントにまで落ちている。

 相当痛いのだろう。再び壊れた角笛の様な咆哮をあげるディヴァングレン。

 噛み付かれた右の後ろ足はもう役には立たないが、それでも滅茶苦茶に振り回す事でなんとかエコーを引き離そうとする。

 と、正面から隙を伺っていたブルーが今度は左の前足を、それも関節の裏の筋を狙って切り裂いて離れると、左の前足を折って尚も必死で威嚇するように二つの頭で合計四本の角を振り回す。

 だが相手はブルーである。その程度でどうにか出来る相手ではない。ディヴァングレンの角が狙いを外して逸れた瞬間、無防備になった片方の首筋に喰らいつくと一塊ほどの肉塊を噛み千切る。

 動脈は外れてしまっていたし、呼吸についてももう一方の首からも行われている為なんとか動かせてはいるが、その瞳には最早恐怖の色しか無い。

 そうこうするうちにチャーリー達が追いついて、すぐ様ヒットアンドアウェイの牽制攻撃を開始する。

 ディヴァングレンの命運は既に尽きていたが、それで手を抜くユーリウスではない。


「ブルー!」

「くけぇっ!」


 ユーリウスの声が聞こえた瞬間、ブルーがさっと身を翻して叫び声をあげる。

 その声でチャーリー達もすぐ様ディヴァングレンから離れると、その瞬間を見計らったかの様に、森の下生えを消し炭にしながら青白い閃光が迸った。

 ユーリウスの放った焔の魔法である。

 閃光の太さは凡そ一〇センチメートル。長さは二〇メートル程で、ユーリウスの手からは一直線に伸びていたが、ディヴァングレン自身の動きによって、二つの首に分かれる部分の一番太く重要な部分が、薄皮一枚残して綺麗に焼き切られてしまった。

 急速に光を失う四つの瞳を彷徨わせ、漸く魔法を放ったユーリウスの存在に気付くがそこまでであった。

 重力に引かれて落ちる二つの頭が生えた首。

 一瞬の間を置き、焼かれた首筋から膨大な量の鮮血を吹き出しつつ、ディヴァングレンの巨体が地響きを立てて倒れた。


「くけぇっ!」

「くけ!」

「くえっくえっ!」

「ぷぎゃー!」


 倒れたディヴァングレンの周り集まり勝利の雄叫びを上げるブルー達。

 ディヴァングレンの損傷状態とHPを確認し終えたユーリウスは、ホッとため息を一つついて騒ぎ続けるブルー達に合流し、気付いたブルー達が静かに傅く様にするのを制して叫び声を上げる。


「とったどーーっ! 鹿とったどーーっ!!」

「くけぇっ!」

「くけ!」

「くえっくえっ!」

「ぷぎゃー!」


 狩りである以上はこれで終わりという訳ではない。

 これからディヴァングレンの後ろ足にロープをかけて適当な大木の枝に渡して、ブルーに手伝って貰って血抜きを行なうのだ。

 その間に捌いて抜き出した内臓から肝臓だけを取り出し、炎の魔法で軽く炙って一口食べたあと、先ずはブルーにそれを与える。

 狩った獲物は先ずはボスから順番に食べるのだ。

 チャーリー達が食べるのはユーリウスが食べ、ブルーがそれを分け与えられた後。

 ユーリウスからレバーと内臓を食べる許可を受けたブルーがそれを食いちぎり、自身の分を確保した瞬間、チャーリー達が一斉に残りの部分にかぶり付く。

 狩りの後の儀式であった。

 森の主さまからエリ達に従属の魔法で従う様にされた存在ではあったが、ユーリウスが狩りを主導する様になってからは、さらにブルー達との親密度が上昇しているため、恐らくこれで間違ってはいないのだろう。

 なおブルー達は何故か雑食で、神殿に居る間は雑穀等も良く食べる。

 不思議な生き物、いや、魔物であった。


「さて、他に魔物はいないかなぁ……と?」


 と? 索敵の為に拡大したレーダーの端に、人族を表すオレンジ色の光点が出現していた。

 南の方角である。

 更に索敵範囲を拡大すると、オレンジ色の光点が全部で五つ。ユーリウスの、と言うより神殿のある方向に向けて移動している。そしてその後方にあって、どうやらオレンジ色の光点を追跡しているらしい三つの赤い光点。

 誰かが魔物に追われているらしい。

 よく見ると四つのオレンジ色が囮になって三つの赤色を防ぎ、一つだけ先行しているオレンジ色を逃がそうとしているらしい事に気付く。


「……あちゃぁ……なんなのコレ? なんのフラグ? 逃げてるのは何処かのお姫様とかそーゆー話? つーかこーゆーのはせめて十年は後にして欲しかったんだけどなぁ……」


 と、レーダー画面を確認しながら下らない妄想を撒き散らしたユーリウスであったが、そのまま見捨てるのも心苦しい。

 何より見ている間に囮になっていたオレンジ色の光点が一つ消えてしまったのだ。


「やばいっ、誰か死んだっ?!」


 既にディヴァングレンの臓物を食い尽くしていたブルー達がユーリウスの言葉に反応する。


「くけぇ?」

「緊急事態だブルー! デルタ、エコー、チャーリーは此処で待機!」


 ブルーの背に飛び乗りながら叫ぶユーリウス。

 チャーリー達が顔を見合わせるが、ブルーが一声叫ぶと納得顏をする。

 難しい指示はブルーからでないと伝わらないらしい。


「行くぞブルー!」

「くけぇっ!」


 厄介事の匂いしかしないが、ユーリウスはそれに気付いていない。

 せめてエリかメディナを呼ぶべきだろうに……。







やっとお話が少しだけ進みます。

次の投稿は明日の朝七時になります。

感想や誤字脱字その他のご指摘等ありましたらよろしくお願いします。

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