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第十七話 拡張計画

A.G.2868 ギネス二五七年

星の月(三の月) 火の週の三日(十五日)

古代神殿



 ゲルマニアに雪解けの季節がやって来ていた。

 ユーリウスは冬の間に四頭に増えた『(ヴェロキラプトル)』のブルー、デルタ、エコー、チャーリーを引き連れ、新たに稼働させた二体のゴーレムを指揮して神殿の周囲に耕作地を拡張していた。

 因みにブルー以外は未だ産まれて間もない子供の(ヴェロキラプトル)で、体長は一メートルほど。

 互いの羽根や羽毛を蹴散らしつつ戯れ合う姿が可愛らしい……ような気がしないでもない。

 なお冬の間に稼働するゴーレムの数は八体にまで増えており、労働力としては過剰なほどとなっている。

 が、自重を忘れた中二病の転生者にはまだまだ十分であるとは言えないらしい。

 何れはゴーレム軍団を整備して、この地に独立国を築く予定なのである。


「よーし! そのまま今掘ったラインまで全部掘り返しておいてくれ! 出てきた大きめの石コロは纏めて正門の外に積んでおく事! 終わったら倉庫に戻って待機するように!」


 ブルーに跨ったユーリウスに対して恭しくお辞儀をするゴーレムを満足気に眺めるユーリウス。

 次いで用水路の整備を行っている二体のゴーレムを確認しに行く。

 神殿北東の水源から水を引き、耕地を造成している神殿の北側を経由して、耕作予定地の南側に三つほどある池へと流し込むのである。


「よし! これが完成すれば漸く人口が増やせる! つまりホムンクルス達を目覚めさせる事が出来る……!」


 そう呟いて拳を握り締めるユーリウス。

 畑を拡張して食料生産能力を上げ、ブルー達を組織化して狩りの効率を上げて人口を増やす。

 その考え方は正しい。

 正しいが、目的はホムンクルスによるハーレム形成である。

 なぜこんな奴が転生して来たのだろうか?


「次は城壁の建設か」


 そう、ユーリウスは元から存在していた城壁を補修・強化した上で、更にその外側を城壁で囲うつもりなのである。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 この城壁が完成すれば本当に人口を増やす事が可能となるだろう。

 もっとも、魔の森の深部とも言えるこの場所は、一般的な迷宮で言えば地下五十階くらいからしか出現しない様な、本物の化け物揃いなのだ。

 いくら頑丈な城壁で守られているとは言え、好き好んでこんな場所に住みたがる者などいる訳が無いのである。

 もちろん生まれた時から住んでいるユーリウスは理解していないし、命令を受けたゴーレム達に否やは無い。

 森を切り開いて大地を均し、岩を叩きつけては土を固め、休む事なく土を盛っていく。


「いずれはコンクリートか石垣で補強するとして、とりあえずは空堀を掘って土を盛るだけでも良い。切り出した木材も大量にあるし、これが乾燥したら家も作れる」


 やはりブルーに跨ったまま満足気にゴーレム達の作業を確認した後、ゴーレムの配置を考えるユーリウス。


(最低でもあと二十体は必要か。急ぐ必要は無いとしても、街造りには大量の労働力が必要だしな……)


 あとは魚の養殖場も欲しいな。などと考えるユーリウス。

 鮭科らしい虹鱒に似た魚が、神殿の南側を流れる小白(コハク)川(ユーリウス命名)を泳いでいるのだ。

 上手く養殖出来れば食料事情を更に改善出来るだろう。


「さて。最後は採石場を見て狩りに行くぞ!」

「くけぇっ!」

「くけ!」

「くえっくえっ!」

「ぷぎゃー!」


 ブルー達は皆狩りが大好きなのである。

 一羽だけ変わった鳴き方をしていたチャーリーが即座に駆け出し、早く早くと急かしてくるのがちょっとだけ可愛い。

 全身に羽毛を生やしたフサフサもふもふヴェロキラプトルのブルー達を、ユーリウスが未だに『鶏』と呼び続けているのはただの惰性である。

 ブルー達の群れは、昼間は基本的に開け放たれている神殿の正門を駆け抜け東北東に向かう。

 そこに神殿を造った際に利用されていたらしい古の採石場跡地があるのだ。

 橅や楡などの森を、下生えなどもろともせずに駆け抜けあっという間に採石場である。

 以前はこの辺りにも時折魔物が迷い込んで来る事があったのだが、ユーリウスがブルー達を連れて狩りを行う様になって以来滅多に見なくなっていた。

 身体強化その他の魔法まで使えるヴェロキラプトルなど、そこらの魔物では一瞬で肉塊にされて終わりである。

 そんなブルー達に懐かれ畏怖されているユーリウスは、まさに魔王の申し子とも呼べる存在だ。

 身体強化したとろこで四歳児であるユーリウスには大した事は出来ないのだが、指を鳴らして炎を、いや、焔を操る姿はまるで悪魔であった。

 エリやメディナやニグラスさえもドン引きするレベルである。

 それは兎も角採石場だ。

 神殿は魔の森を東西に貫く山脈の北端、標高八〇〇メートル(神殿のある裾野から見れば五〇〇メートル弱)ほどの切り立った山を背後に聳えており、採石場はそこから急激に勾配が増す山の麓部分に造られていた。

 木々や下生えを除いてみれば、神殿を造る際に出た大量の砂利や砕石はもちろんそのままであったし、建築資材として利用される大人でも一抱え程もあるだろう長方体の石が積まれた小山が幾つも存在しており、今ではそうした小山が列を成している。


「神殿をあと三つ分くらいの量があるな……」


 三つ分どころか五つ分はあるのだが、これでもゴーレム二体で採石作業を始めて一月半ほどであった。

 採石の道具は神殿の倉庫に遺されていたゴーレム用の物だから、効率が良いのも当然なのかもしれない。


「でも城塞都市の建造を考えると全く足りないんだよなぁ……やっぱりホムンクルスで調査隊を組織して周辺の調査が必要だよな?」

「くけぇ?」


 それに避暑用の別荘も造りたい。などと考えているユーリウス。

 既にその候補地は選定済みで、そこには神殿の上水と噴水の水を供給している泉と、その泉の水が溜まって出来た自然の溜池があるのだ。

 避暑用の別荘にする事が主目的ではあったが、ヴェルフェン城かノイシュバンシュタイン城の様な城を築いてみたいという野望も抱いている。

 無駄だから自重して欲しい。


「よしゴーレム達! 石切作業はこれで終わりだ! 次は道を造ってもらう!」


 そう叫んでゴーレム達を連れて来たルートの木々を切り開き、採石場に積もっている大量の砂利を敷いていく様に命令する。


 お分りだろうか?

 この程度の命令で動く事が出来る時点で、ゴーレムには凄まじい情報処理能力があるのだという事を?

 祐介の記憶からすれば、これはもう第五世代コンピューターの一歩手前と言って良い。

 ユーリウスは魔王ラプラス様の偉大さに想いを馳せるべきだろう。


「後でロードローラーも作ってゴーレムも追加しないとな。砂利を敷いて砂を敷いて漆喰で石畳みを敷くんだったかな?」


 どうやらユーリウスはローマ街道並みの舗装道路を建設するつもりらしい。

 


「待たせたなブルー、デルタ、エコー、チャーリー!」

「くけぇっ!」「くけ!」「くえっ!」「ぷぎゃー!」

「さあ狩り(おたのしみ)の時間だっ!」







次の投稿は明日の朝七時になります。


雪に閉ざされる長い冬が終わって春が来ました。

ユーリウスは冬の間に稼働させたゴーレムを使って、神殿とその周囲の環境整備を行っています。

そして春は狩りの季節です。

狩りの初体験は済ませましたが、エリやメディナとの狩りには未だついていけないので、冬の間に単性生殖した謎生物のブルー達と狩りをしています。


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