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第十三話 ハイブの闇

A.G.2870 ギネス二五九年

雪(氷)の月(十 一の月) 地の週の三日(三日)

古代神殿



 ブルーとニグラスの世話を終えたユーリウスが、ブルーを従えて食事に入って来た。

 手にはブルーが今朝産んだばかりの卵を持っている。


「エリ、卵持って来たよ」

「くけぇっ!」

「ありがとうユゥ。それからブルー。直ぐに食事だから座って待っていてね?」

「はーい」

「くけぇ」


 毎朝の事なので誰も不思議とは思わないのだが、この後ブルーも一緒に一品だけ、卵の殻と卵料理を貰って食べるのである。

 朝食、と言っても日の出と共に起きて朝の作業をした後であるから、時間的には午前九時から十時くらいが朝食の時間である。

 神殿の倉庫に備蓄されていた大量の物資はもちろん、食料庫の食料や調味料に酒類等についても、結界の封印のおかげで食べられる状態であったため、食事の質が劇的に上がっている。

 その分食事の手間が増えて、交代で食事の準備をしているエリやメディナが嬉しい悲鳴をあげ、ユーリウスもまた歓喜の雄叫びをあげていた。

 個室と専用の研究室を得る事が出来たメディナの様子を見た時には、てっきり研究に没頭したまま食事にすら出て来なくなるのではないかと思っていたが、美味しい食事は研究の喜びを超えるものであるらしい。

 エリの食事が完成するのを見計らったかの様に現れたメディナも含め、食前の祈りを捧げて食事を始める三人と一羽、いや、一頭か?


「ユゥは今日何をする予定なの?」


 食事の合間にエリが聞く。

 既に狩りや畑の手入れが出来る季節ではないし、農機具等の用具や生活雑貨も大量に遺されていた為、エリもメディナも半ば惰性で糸を紡ぐくらいしかやる事が無いのである。

 当然メディナは嬉々として怪しい実験を繰り返しているのだが、エリやユーリウスの鍛錬や学習に付き合う事を忘れてはいない。


「トイレ、厠の状態を調べてみる。上水道の水源は噴水と同じでモモが整備してきたし、風車が動いたからもうなんの心配もいらないんだけど、下水が一体何処につながっているのかがわからない」

「それは必要なの?」

「うん」


 当然である。

 ユーリウスも食事時にそれを口にするほど無分別では無かったが、メディナはユーリウスの懸念に気付いて少しだけ顔を顰めていた。


「そしたらモモを呼んだ方が良い?」

「手に負えない様ならお願いするけど、多分俺の魔法でなんとかなると思う」

「そう。それじゃお願いね? 私は糸紡ぎがあるから何かあったら作業場に来て?」

「わかった」

「メディナは今日も実験するの?」

「他にする事も無いからね。試薬も沢山見つけたし、春にはお店を出せるくらいの薬が出来るわ。そしたら街で服を買いましょう。ユーリウスも大きくなったし、一度人の暮す街がどんな所なのかくらい見ておいた方がいいわ」


 メディナはどうしてそんなに薬が好きなのか?

 とは口にしない。

 エリもユーリウスも、メディナの薬が非常に良く効く事を知っていたし、日用品を手に入れる為に街へ持っていくなら、なるべく嵩張らない物の方が良いからだ。

 それに聞いてしまえば半日くらいは薬の素晴らしさや研究の大変さを懇切丁寧に語ってくれるはずで、二人ともそれは避けたいのである。


「そ、それじゃご馳走様。ブルー!」

「くけぇっ!」


 即座に撤、転進するのが吉である。

 というわけで、ユーリウスは下水道の確認を行う。

 必要なのは迷宮の地図を作る為の魔法だけで、極々ありふれた魔法の応用だ。

 迷宮内では魔法の発動を阻害する場所や魔物の所為で限定された効果しか発揮しないが、下水道の構造を調べるだけならこれ以上の魔法は無いだろう。

 特にユーリウスの場合、契約している精霊が非常に強力なのである。

 人格としてはテオドラの残滓に過ぎず、自ら思考する能力については幼児に毛が生えた程度であったが、潜在力で言えば魔王の残滓までもを取り込み、何れはモモを超える程の存在になる可能性すら秘めていた。

 もちろん、地上で直に力を振るうモモと比べたら、同じ力を使ったとしてもその効力については数段落ちる為、真正面から力比べをしても勝ち目は無いし、どれほど強力だと言ったところで、古の契約に基づいて振るわれる力でしかない為限界がある。


「……おかしいな?」


 どうやら下水道の構造調査(マッピング)が終わったらしい。


「全部地下研究所に繋がってる」


 おかしな話ではない、のだが、迷宮がどの様な存在なのかを知らないユーリウスには理解不能なだけだ。


「くけぇ?」

「あぁ、大丈夫だよ。不思議だっただけだから」


(全部研究所の下層に流れ込んでる訳か。もしかして汚水処理の設備でもあるのか? 溜め込むだけだんて訳はないよな?)


 いくら探したところで、汚水処理の設備など無いだろう。


「一度下まで行って調べるしかないか……」


 やめときゃいいのに。



 そんな訳で、時刻は既に午後の二時といったところだろうか?


「エリ! モモを呼んで! エリ!」


 何も考えずに研究所の最深部へと突撃したユーリウスとブルーは、そこでこの世の地獄を見たのである。


「どうした……の――ユーっ! 直ぐに身体を洗って着替えなさい!!」


 エリがそう言うのも当然であった。

 

 

 




次の投稿は明日の朝七時になります。

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