第十話 魔王様の帰還
A.G.2870 ギネス二五九年
水の月(七の月) 地の週の四日(四日)
古代神殿
……我は帰ってきたっ……!
いや、私……だったか……?
我の記憶と意識には少々……いや、多分に欠損が出てしまっているが、少なくともあの悪魔がユーリウスから離れた時点で漆黒の間の領域を再確保する事には成功している。
まだチャンスはあるはずだ。
そう、我は未だ戦えるのだ。
戦えるはずだ……!
――もう嫌だけど。
うむ。
もうあの悪魔と戦うのはやめよう。
マジで厳しかったし?
つーか漆黒の間での戦いは、とても戦いなどと呼べる様なものじゃなかったし?
あの悪魔に端から侵食されて終わっちゃったし?
なにか違う。
我の意識を再構築。
我に出来たのは、虫食いになった私の意識の一部だけをあの悪魔の表層を震わせる様にしてユーリウスに向けて送り出す事だけ……。
運が良ければユーリウスの一部として、我が欠片の欠片の欠片程度は残るはずであった。
そして、我は賭けに勝ったのだ!
我マジ作戦勝ち。
チョーマジポン。
……なんとなく以前の我とは違う気がする。
我再構築。
それでも我が意識の大半は聖女テオドラの知る魔王ラプラスの存在を、祐介の意識から抽出された知識で再構成したものであったのだし、こうして復活出来たのだからチョーヤベーカンジじゃね?
……やはり以前の我とは違う。
チョーエベェ……。
――我再構築!
「エリ! 使えたよ! 精霊魔法が使えたよっ!!」
「おめでとうユゥ!」
「ありがとうエリ! モモにもお礼が言いたい!」
お礼なんていらねーし?
……違う……。
我再構築。
我は我が理解出来ない。
比較すべき記憶が失われてしまっている以上、何が違うのかすら理解出来ないが……なんなのだろうこの違和感は?
あぁ、あの悪魔が憎い……。
「モモも気になるから月に一度は来てくれるって言ってたから、その時にお礼をしたら良いわよ?」
「わかった。そうする!」
な、なんだってぇーーっ?!
という我の絶叫を無視して、と言っても未だ伝えるのは難しいのであるが、ふふふっと笑ったエリがユーリウスを撫でている。
べ、別に羨ましくなんてないんだからねっ!
――ではなくて……再構築。
つまり……そう、あの悪魔が毎月ユーリウスと接触する事になるという意味ではないか!
考えろ! ロシア語というのがなんなのかは思い出せないがロシア語で考えるのだ!
……再構築。
我は既に幾重にも存在を偽装した上で、無数の我の欠片、と言うより我の欠片となり得る知識……いや、情報と呼ぶべき存在を、世界のあらゆる階層に潜ませている。
仮にその一つや二つや三つや四つ、いや、万や億が失われたところで、即座に復活する事が出来るはずだ。
なにより我の本体は精霊界との経路を隠れ蓑に漆黒の間との経路を強化して、力の行使に必要となる境影界の理解を進めている。
それに成功すれば、我は再び……再び……どうしよう?
一体我はなぜ神々との死闘を繰り返したのであったか?
なぜ全宇宙の支配者たるべく死力を尽くしたのか?
……思い出せない以上我は我が成すべき事を考え直す必要があるだろう。
知識が……情報が足りない……。
境影界を通して漆黒の間側から世界を俯瞰しつつ、ユーリウスを通じて知識を深めよう。
幸い精霊界にはアニィという、事実上の我が妹分が存在している。
いや、もちろんアニィの核となった意識は聖女テオドラのものであるから、元は不倶戴天の敵であったのは間違い無い。
だがそれが一体なんだと言うのか?
失われた我を元にして産まれたのが我とアニィなのだ。
これを兄妹と呼ばずしてなんと呼ぶのか?
兄は妹を助け、妹は兄を支える。それが家族ではないか。
よって集めた情報の全てを密かにアニィに蓄積する。
例え兄妹であっても秘密というのは存在するものだ。
そう、「俺達の戦いはこれからだっ!」なのである。
……再構築。
短いです。
すいません。
次の投稿は明日の朝七時です。




