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第百十八話 英雄王の息子(閑話?)

いろいろあって時間が出来たので……お久しぶりです。

A.G.2882 ギネス二七一年 アルメル二年

霜の月(十の月) 木の週の六日(三十日)

ティグルモート(ティグルの人々≒ティグルの国)

旧ウーゴル首長国 港町メルコ

ティグル


 カカドゥの第一子で討魔の西滅軍八万騎を預かるディグルは、北限の港町、メルコの埠頭に立っていた。

 この地の者達からは既にモート(族長≒王)と呼ばれる身のティグルであったが、カガンとなってこの地にウルス(国、国主、部族集団)を建てる許可は貰っていない為、あくまでも討魔軍の将としての地位と、カカドゥ・ウルスの一族長の身分でしか無い。

 ティグルがウルスを打ち建てる許可を貰っているのは、あくまでも海の向こう、魔王の大陸だったのである。

 そのティグルが見つめる荒れた海の向こうには、未だ見ぬ魔王の大地があるはずであり、既に何度か先遣隊が海を渡っていた。


「やはり帰ってきませんでしたな……」


 この場に一緒に居たのだ。

 そんな事はもちろんティグルにもわかっている。

 なにより最後に送った先遣隊の船には、ティグルが誰よりも信頼していた幼馴染みの、モンケ将軍までもが乗り組んでいた。

 それを知っていながら余計な台詞を口にして、ティグルの心を煩わせる様な真似をするのである。

 他のウルスの民ではあり得ない所業であったが、この愚か者の口は未だ止まらない。


「馬が駆ける限り何処へでも我らは進み、戦い、勝利するしょう。しかし、海は馬では越えられませぬ。魔王の大地は海の彼方でございます」


 要するにこの男は西征を中止しろと言っているのだ。愚かにも討魔の軍がなんなのかすら理解していない。解っていた事ではあったが、この程度の男であってもホーイソの有力な王族だったのだ。無碍には出来なかった。

 何度かその口を永遠に閉ざすか、黙る様にと口頭で命じるかを迷ったティグルであったが、どうにも馬鹿馬鹿しくなり掛ける言葉が見つけられ無い。

 結局そのまま不機嫌そうな顔のティグルが見つめていると、次第に顔を青白く変色させ、頭を下げて黙りこんでしまう。

 黙り込むくらいであれば最初から口など開くなと思うティグル。


(街の男どもは口も尻も軽過ぎる。余計な言葉は女どもにくれてやれば良いのだ)


「……先遣隊が戻ろうと戻るまいと我らは征くのだ」


 暫く白波の立つ水平線を眺めていたティグルが、まるで吐き捨てる様にして言う。

 これまではホーイソやタイタルの商人達が従った事で、事前に侵攻予定地域の情報を得ることが出来ていた。

 だが、ここから先は違う。

 先遣隊などと言う迂遠な存在を必要とする事になった原因でもあったが、ディソーラ海、魔王の民達の言う所のミルターナ海を支配しているのは、ホーイソやタイタルの商人ではないのだ。海を越えた向こう、魔王の大地に暮らす、イラウレーアやスポーレの商人達なのである。

 そしてイラウレーアやスポーレの商人達はウルスのヤサ(決まり事、習慣、法律)に従わない。

 つまり魔王の大地にどのような困難が待っているのか、ウルスの民には予想すら出来ないのだ。

 だがティグルは行かねばならなかった。

 魔王の大地を最初に蹂躙するのは、それこそどんな手を使ってでも、ティグルの西滅軍でなくてはならなかった。

 公式にはともかく、父親が違う可能性がある事で後継者争いから大きく出遅れてしまっていたティグルには、これからがまさに正念場と言って良かったのである。

 なんとしてでも他の兄弟達よりも先に海を渡り、魔王の大地を平らげる先鞭となる。

 それがティグルをカカドゥ・ウルス第一位の後継者候補に押し上げてくれるはずであった。


「我らは征くのだ……」


 もう一度そう言うと、従う者達には一瞥もくれる事なく踵を返して、一息に馬に飛び乗った。


(馬では海を渡れない?)


 宿営地へ向かって愛馬を駆けさせながら思考を巡らすティグルであったが、既に心は決まっていた。


(だが、凍った海ならばどうなのだ?)



色々な意味で長かった第6章はこれで終わりです。

次話から新章になりますが……閑話で1話だけ書いたお話とか、もう記憶されてる方なんていませんよね……遅くなって本当に申し訳ございません。

次の投稿は未定ですが、気が向いたらメッセージなどいただけると嬉しく思います。

よろしくお願いします。

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