第百十五話 ヘタレとエーディット
本日二回目の投稿になります。
A.G.2882 ギネス二七一年 アルメル二年
星の月(三の月) 火の週の三日(十五日)
ノイエ・ブランザ王国 ノルトブラン州
ハウゼミンデン
エーディット
四美姫の強引な誘導の下、エーディットとユーリウスの関係は微妙に捻じ曲げられていった。
が、少なくともそれはエーディットにとっても好ましくないとはいえない変化であった。
「ユーリウスと呼んでくれ。頼むよエーディット」
「ユーリウス――さま」
「様は要らない」
「ユーリウス」
「エーディット辛い思いをさせてすまなかった」
ユーリウスはピロートーク講習会に出る必要がある。
狂ったように求め合ったその後の会話なのだ。
もう少し考えて口を開くべきである。
「やめて下さい。ユーリウスさ、ユーリウスはちゃんと私の想いに応えてくださいました」
「でも」
「でもじゃありません。私は私です。ユーリウスをお慕いしているのは私なのです。例えそれが初代から引き継いだ部分が多いからだとしても、私がお慕いしているのは間違いないのです」
「どうして、俺なんかの何処を慕っているんだ?」
ダメな奴。
「ユーリウスにとって私は初代の身代わりでしかないとしても、中間種は主を慕うものなのですよ。私の場合はそれだけでなく、初代の記憶からも影響を受けていますけど……でもそれが無くても私はユーリウスを慕っていたのです。私がそう造られた存在だからではなく、いえ、それもありますが、私は元々中間種達がどんな扱いを受けていたのかを知り、ユーリウスがどれほど力を尽くして現在の様な扱いに落ち着いたのか、それを知ってユーリウスを慕わない中間種は居ないのです。今更道具として生きる事など出来ないのです。道具に生きる事を教えてくれたのはユーリウスなのです。私がユーリウスを慕うのは、私が生きているからなのです。生きている証なのですよ」
「証」
「そう証です。私がユーリウスを慕う事こそが、私が私である証です。初代の記憶も幾らかは残っていますが、そんな物で心は動かないのです。私の造物主様で中間種の救い主、それがユーリウスなのですよ」
と言いながらユーリウスの鼻先を指で突付くエーディット。
「忘れないで下さい。私は私なのだと。同時に忘れないで下さい、初代エーディットの事を。彼女は本当に、私に負けないくらいユーリウスを愛していたのです」
「……エーディット。エーディット、エーディット――俺が殺した」
「違います。違うのです。初代を救ったのですよユーリウス。黒い悪魔に喰われて記憶まで奪われて死ぬ所を助けたんです。私には初代の記憶が沢山残っています。私の記憶で私ではない人の記録。救ったのはユーリウス。貴方です。初代はもう居ないけど、初代の欠片はちゃんと生きてここにいます。時々鬱陶しいんですけどね?」
「――すまない」
「赦してさしあげますとも。私がお慕いする方からの贈り物なのですから」
「愛してるとは言ってくれないのか?」
「言って欲しいのですか?」
「言って欲しい」
「愛してます。心の底から」
ユーリウスは泣いた。
悲しみと喜びと期待と不安がないまぜとなって。
殆ど声も出さずに。
エーディットに包まれて泣いた。
それは初代エーディットへ悔恨でも慕情の涙でもない、弔いの涙だった。
読んでいただいてありがとうございます。次の投稿は未定ですが、できるだけ月1回程度は更新できるように頑張りたいと思っています。また、ご意見感想誤字脱字等ありましたらよろしくおねがいします。




