第百六話 希望
二度目の長期間放置になってしまいました。
ごめんなさい。
連休でちょっと書き溜めたので再開しますが、色々と修正しまくっているので毎日投稿出来るかどうかはわかりません。
書き方を変えてみたり色々試していますが、続けて読んで頂いても然程違和感は無い……といいなぁ……と。
あと短いです。
A.G.2882 ギネス二七一年 アルメル二年
風の月(二の月) 地の週の四日(四日)
ノイエ・ブランザ王国 グロスヴァルツ州
アルメルブルク 地下研究所
ユーリウス
未だ巨大な培養槽には様々な物質の泥濘層の上に揺蕩う粘液状態のマナとオドが見えているだけだ。
泥濘層の上に置かれていたエーディットの魔晶は既に見えないが、それでもユーリウスは目が離せなかった。
もう直ぐ培養液の温度が上がり始めて撹拌が開始されるのだ。
エーディットを思い出す時、必ず脳裏を過るのはあの最後の瞬間である。
自らの手でエーディットの首を切り飛ばしたのだ。
その瞬間の音や手応えまでもがまざまざと思い出されて叫び出したくなる。
でもそれも終わりのはずだった。
エーディットは生まれ変わるのだから。
……生まれ変わる。
ユーリウスはそう信じている、いや、そう信じたいと思っている。
そう信じていなければ気が狂いそうなのだ。
今直ぐにも迷宮を暴走させた連中――だとユーリウスが信じる――である、クラメス教団を信徒毎皆殺しにしてやりたくなる。
事実上不可能ではあるが、全く可能性が無い訳では無い。
ユーリウスはこの世界の生物の秘密を知っているのだ。
この世界の全ての生物は、オドが完全に失われると内臓や脳の機能に障害が発生してしまうレベルでオドと共存しているのである。
ユーリウスがその気になれば、地上に生きる全ての生物を殲滅する事も可能なのだ。
まぁ直ぐに渦巻く灰色の霧に気付かれて阻止されるだろうが……。
――泥濘の表層が煙の様に揺らめき始めた。
「……エーディット……」
ユーリウスが呟いて、その場に倒れ込んだ。
直ぐにオートマタがやって来てユーリウスを抱えると、中間種用の研究室に急遽据え付けられた仮眠用のベッドに運んで点滴を始める。
直ぐに今度はオートマタが結界を張った地上で用意させた料理をベッド脇のテーブルの上に用意した。
因みにそれが例え中間種であろうと死者を復活させる手段など存在しない。
ユーリウスがユーリウスであって番匠祐介では有り得ないのと同じで、蓄えられていた記憶の不完全な継承については可能であっても、それはあくまでも記憶と言う名の記録に過ぎず、感情とは脳内の化学物質の量と偏在、脳内の微小管を流れる水の動き等に依存している。
どれほど新鮮な脳だからと言っても得られる情報には限界があり、死亡時の脳の電気信号や化学物質の状態、膨大な微小水管内の何処でどんな水流が発生していたかなどなど、死体の脳からなど解るわけがない。
不可能なのだ。
可能になるとすれば、ユーリウスの様に常時自身の思考をトレースしているアニィの様な存在が全面的にバックアップとっていた場合であろうか?
ともあれ、エーディットの記憶は第三世代の中間種を造る際の基礎情報にしていた為、事或る毎に新しい記憶を蓄積していた事が幸いと言えば幸いであった。
そのエーディットが残した最新の記憶は太陽月(一月)の地の週の六日(六日)だったのである。
その後、ハウゼミンデンに帰還する為に乗った高速飛行船が徴発されてユーリウスの下へとやって来た訳だ。
もちろん後継の中間種達を造る際に利用する為の基礎情報であるから、エーディットの記憶の全てが存在する訳では無い。
当たり前ではあったが、ユーリウスとエーディットの二人だけの記憶等、本当にプライベートな部分は丸ごと抜けていた。
結局ユーリウスに出来たのは、エーディットの脳内から取り出した魔晶を使う事、ユーリウスが『倒した』事で自動的に発動した『技能系』により「アニィが喰らった」エーディットの精霊の欠片――ボトルに入れられた水の温度を一度上昇させる為に別の温水を加えたとして、今度は一度下げる為にボトルから加えた分の水を取り出せと言う様な話。つまり気分だけ――を使って起動する事、そうして造られたエーディットと同じ顔と基礎記憶を持った個体に、エーディットと名付ける事、であった。
だからこそ「生まれ変わり」などと言っていたわけだ。
自身とて本当に生まれ変わった訳では無い事くらい理解しているはずなのに。
そうしてユーリウスがエーディットの事実上のクローンを造り出そうと必死になっている間、ノイエ・ブランザ王国が平常――戦時下であり軍事行動や生産活動に多大な遅れは出ていたものの――通りであった理由は、アニィが複製したユーリウスの思考を、ユーリウスの顔と声を使って板状携帯端末越しに指示をしていた為である。
既にユーリウスは要らないだろうこの国……。
誤字脱字その他コメントがありましたらお気軽に。
では、今後ともよろしくお願いします。




