第九十五話 新式兵装開発計画
本日二話目の投稿になります。
A.G.2881 ギネス二七〇年 アルメル一年
夜の月(十二の月) 人の週の三日(三十四日)
ノイエ・ブランザ王国 ノルトブラン州
王都ハウゼミンデン
その夜、一人で何やら延々と考え続けていたユーリウスは、それまで放置し続けてきた幾つかの計画の実行をアニィに指示した。
しかもアニィにこれまで付けることの無かった人間と中間種の部下を付け、アニィ自身を計画の責任者として実行する様に指示したのである。
最初の指示は、それまで利用していなかったブランとハウゼミンデンの迷宮の活用を許可した上での、オートマタの生産と、アルメルブルクの迷宮での超小型無人航空機の大量生産の指示である。
「――構わない。オートマタの生産を優先してくれ。月産どのくらいになる?」
どうやら来月にはアルメルブルクで二〇体、ハウゼミンデンで一〇体、ブランで五体程度は生産可能になるらしい。
「今すぐ初めてくれ」
ハウゼミンデンとアルメルブルクでオートマタ専用高速飛行船が離陸準備に入った。
直接現地に赴いて生産ラインの構築を行うのである。
その次が軍の近代化に必要な高性能な動力源の開発計画を中心に、その動力源を利用して実現可能なあらゆる兵器の実用化計画だった。
レシプロとタービン(ジェット)の両方を一度に開発する様に指示を出し、ラムジェットとロケットエンジンについても研究を進める様に指示する。
「燃料は迷宮で作れるだろう?」
大丈夫らしい。
「油田指定可能な迷宮をピックアップしてくれ」
これには暫く沈黙が続いた。どうやら無数のシミュレーションを繰り返しているらしい。
今後ゲルマニア全土をノイエ・ブランザ王国の統治下に置いた際、何処で生産させるのが便利か、数百年先まで様々な条件を加えて予想しているのである。
結果はエレンとエレンホルであった。
エレン湖の水運が使える事と、将来的にも大都市で在り続けるであろうブランが近い事が理由であった。
「食料その他の物資輸送はどうなる? 食料生産力が足りなくなるとかは?」
問題無いらしい。
「開始してくれ」
エレンとエレンホルにオートマタを派遣する指示が出た。
次いで軍の近代化計画である。
早急に戦力化する様に指示したのは、兵員輸送車に装甲兵員輸送車と、歩兵戦闘車、戦車や自走砲に対空車両と、有人・無人の大中小多脚砲台である。
さらに戦闘機に攻撃機に爆撃機と輸送機、そして早期警戒管制機に電子戦機に無人航空機各種。
船舶についても金属や迷宮外壁材で作られた哨戒艇やエアクッション艇等の他、ラネック王国を併呑した暁には必須となるであろう、外洋型の各種艦艇の設計も含まれていた。
「もちろんハウゼミンデンとブランで作って良い。迷宮の改装が終わって資材の生産が可能になるのは何時だ?」
最短でも準備だけで一ヶ月程度は必要になるらしい。
「それで良い。都市計画チームに必要な工場を用意させてくれ」
かなり厳しいらしい。
「人員を増やせ。自動人形や中間種を増やして回しても良い」
人員の配置計画が大幅に変更になり、即座に板状携帯端末や即時通信機を通じて連絡が行く。
アルメルブルクから数体のオートマタとオートマタが引き抜かれ、高速飛行船に乗り込んだ。
次いでノイエ・ブランザ軍の銃砲弾の開発計画である。
「以前ボツ案にした装弾筒と魔石を組み合わせた銃火器の設計を出してくれ」
窓が幾つか展開する。
全て魔石を装薬代わりにした電磁加速砲や電磁加速砲に電磁加速砲であった。
銃本体又は砲本体に組込まれた魔法陣が作動すると、装弾筒部分、もしくは弾体の周り、もしくは後部に取り付けられた魔石から熱と電気を取り出し、電磁加速砲か電磁加速砲か電磁加速砲で弾体を撃ち出す物である。
ここでは弾体の素材を選ばず、初期加速に魔石の電力化時の爆発的な反応とガス化を利用可能な電磁加速砲を選択する。
数十種類の選択肢の中から適当に選ばれた小銃の通常弾は、直径六ミリメートル(十分の一クライ)、長さが凡そ二センチメートル(六分の二クライ)の紡錘形で、電磁加速砲も電磁加速砲も滑空砲である事から弾頭側面には溝が切ってあり、爆圧を受け止める薄いリングと装薬部分を支える樹脂のカバーが弾頭側面から底部に嵌っている。
装薬部分を含めた全長が約九センチメートル(一・五クライ)で装薬部分の直径が約一センチメートル(六分の一クライ)。
長銃身の電磁加速砲による初速は秒速一二〇〇メートル近く、三〇〇〇〇ジュールを超える。
なお銃砲弾の大きさは狙撃銃や大型の機関銃の銃弾でこの一・五倍から二倍程度、同じ形式の大口径砲であればこの数値の一〇倍程度の大きさと思えば間違いない。
元々計画だけは有ったのだが、そこまで大量の魔石を用意出来ない事からボツ案になっていた装備だ。
が、今後ノイエ・ブランザでは、クズ魔石やクズ魔晶は無尽蔵に手に入る。
躊躇する理由など無かった。
「そうだ。単純な物で良いから銃本体に敵味方識別装置は付けられるか? 味方に向けた時には作動しない様に」
もちろん可能である。言付けの小鳥の機構を流用した小さな装置が即座に描き出される。
「一番単純な物を」
それで決定であった。
ノイエ・ブランザの全兵士に認識票を持たせる事に決まった瞬間である。
ノイエ・ブランザ軍の認識票を持っている対象には、狙って引き金を引いても魔法陣が作動しない。
「認識票の盗難対策を」
幾つか候補が出るが、クズ魔晶と超小型の簡易型板状携帯端末を認識票にする事に決まった。
首からぶら下げるタイプだが、一度外すと指紋認証を二人以上で行わないと起動しない。
体温と心拍が確認出来る登録済みの指で認識票に触れた後、既に認識票を起動している別の人物が触れる事で起動する様にしたのである。
「先ずは五万個だ」
迷宮の準備が終わってオートマタと製造ラインさえ整えば日産数千個は作れるらしい。
「突撃銃の生産開始までに全兵士に届く様にしてくれ」
アルメルブルクの生産管理表に新しい製造ラインの構築計画と生産計画が追加される。
「その突撃銃の設計案を。一番製造が簡単な物から一〇種類。この中で一番ストッピングパワーが有るのはどれだ? 命中精度は? 分解整備が簡単な物は? 一番頑丈なのはどれだ? 軽いのはどれだ? 小さいのは? 装弾数が多いのは? 安く作れるのはどれだ?」
次々と順位が入れ替わる。
「……甲乙付け難いな。迷宮の魔物を想定した戦闘で使い易いのはどれだ?」
出て来たのはブルパップで銃床部分――といっても銃身は銃床に見える部分にも達しているのだが――にヘリカルマガジンを装着したFN-F2000的形状の突撃銃で、全長は凡そ七二センチメートル(一二クライ)。
銃剣とグレネードランチャーが――実際には固体燃料噴進弾――必須とある。
迷宮内では至近距離の多数の目標に弾をばら撒く必要がある状況に陥る事が多いのに、通常の小銃弾では大きなダメージを与えられない様な魔物や、銃撃では意味が無い膨大な数の肉食昆虫等の群体も出て来る為だ。
ついでに跳弾を防ぐ為に指先ひとつで初速を調節する事が出来る等の特徴があるが……製造コストは高い。
「なるほど……じゃあコレでいいや」
「じゃあコレでいいや」で、未来のノイエ・ブランザ軍、制式装備が決定した瞬間である。
どうやら疲れてきたらしい。
かなり投げやりになっている。
因みにノイエ・ブランザ軍の装備としては、突撃銃も含めて銃砲弾は基本的にケースレス弾の予定である。
装弾機構だけで排莢機構が要らず、構造を単純化出来る上に銃本体の重量についても軽減出来るし銃砲弾の軽量化も可能で、採用した「突撃銃一型(仮)」について言えば、一〇〇発から二〇〇〇発サイズのヘリカルマガジンが装着可能な設計であった。
「ついでにコイツの長銃身高初速版も作って。ランチャーは要らない」
新しい設計が表示される。
「二脚銃架付けて、箱弾倉で。小型の板状携帯端末を付けて射撃管制出来る様にして……」
とユーリウスの台詞に合わせてどんどん設計が変更されていく。
「これは小隊用の狙撃銃で。弾は通常弾以外にフレシェット弾も用意。更に長銃身にして弾頭を一・五倍した物で正規の狙撃銃を」
表示された設計案を即決する。
「次は対物銃」
ずらりと設計案が並ぶが、ぱっと見て見た目で選んだらしい。
二脚銃架付きでブルパップ構造の平べったい銃身を持つ大型の自動狙撃銃である。
射撃管制系はミニ板状携帯端末で行い、初速は一二〇〇メートル程で小銃と然程変わらないが、弾頭重量が五〇グラム近い事からその運動エネルギーは軽く三〇〇〇〇ジュールを超えるという化け物である。
一体何に使うと言うのか?
迷宮下層のボス戦でも一撃で終わりだろう。
「次は短機関銃」
実に簡単に採用決定していくユーリウス。
どうせ比較対象なんて無いのだからどれでも良いと思っているのだ。
なお、短機関銃は散々迷った挙句に「突撃銃一型(仮)」のカービンタイプに決定した。
短銃身で弾頭の加速距離が短くなった事から、同じ銃弾を使っていながら初速が三割以上低下していた上、ブルパップなのは同じであったが装弾口が上部に変更され、ヘリカルマガジンも上部に装着される設計になっている。
ミリオタであればもっと真剣に考えただろうが、残念ながらユーリウスは中二病である。
「よし。じゃあ拳銃いこう、拳銃」
当然拳銃についても適当過ぎる程に適当であった。
余り興味は無いらしい。
なにせ最初は拳銃とナイフが一体化したガンナイフなどという色物を採用しかけたくらいなのだ。
それも電磁加速砲ではなく装弾筒付きのフレシェット弾を発射する電磁加速砲だ。
銃身が短すぎて加速距離が足りない上に、拳銃弾のエネルギー量が少すぎて初速が足りず、金属製の鎧どころか革鎧であっても、余程の至近距離から撃たなければ貫けないという貧弱な物でしか無かった。
「――うーん、やっぱりナイフならナイフ、拳銃なら拳銃で装備するべきだよな……」
当たり前である。
「って、電磁加速式の拳銃だと威力が小さすぎるんだよなぁ……高性能な装薬ってどうやったら作れるんだ?」
これも当然である。拳銃では加速可能な距離が短すぎてかなりの大電流で発射しなければならないのに、拳銃弾に使用するつもりの魔石量では下手をすると革鎧すら撃ち抜けない事になる。
「回転式拳銃じゃ装弾数が少なすぎるしねぇ? 突撃銃と同じ銃弾を使うとグリップ内に収まりきらないし……?」
という事で設計させたのがモーゼルC96の様な拳銃である。
それも四〇センチメートル近い全長がある。
凡そ短機関銃と大して変わらない大きさであった。
「……邪魔じゃね? つーか皆剣持ってるじゃんね? 銃剣も付いてるじゃんね? サイドアームとか剣で良くね? 拳銃とか要らなくね?」
ダメだろう。
アニィも今後成立する新たな警察組織に配備する予定を表示して拳銃の配備を促している。
「んー……じゃあアレだ。光学兵器か短針銃はダメか?」
どちらも非武装の人間が相手であれば使えない事もない程度の物が作れそうではあったが、一発毎に親指サイズの魔石を消耗する為効率が悪い。
しかも。
「魔物相手じゃ虚仮威しにもならないじゃない」
である。
「やっぱり火薬が無いのがダメなのか? 綿火薬とか下瀬火薬とか作らなきゃダメなのか? つーか名前は知ってるけど中身は全くしらんぞ?」
ユーリウスの言葉に窓が一つ開いて幾つかの工程表が表示された。何年か研究すればどれも実用化してみせると言っているらしい。
「……まぁ余裕があったら進めて。任せるから」
アルメルブルクのオートマタが二体任された。本腰を入れる必要があると思っているらしい。
「いっそメタルストーム系のミニ噴進弾でも使うか?」
以前命中精度が悪い事と見た目の微妙さでボツにした、二本の銃身が縦に並び、六発づつ超小型の噴進弾が一列に装填された拳銃サイズの小火器の設計が表示された。
「弾頭に羽根を付けて回転機構にして、銃身の先端までめいいっぱい入れるとどうなる?」
設計が変更された。一本で十二発。十分だろう。
「銃身を一本にして。予備弾倉というか予備銃身を二、三本持たせたら十分だね」
弾頭は炸裂弾と火炎弾である。
装甲目標に対しては炸裂弾を全弾一斉射撃する事で対処する。
「こいつを使わなきゃいけない状況になったら逃げるだけだし、こんなもんで良いか……あ、折角だし散弾銃も作ろう……いや、グレネードランチャー(※1)の弾頭が使える汎用ランチャーでいいや」
※1 実はミニロケットランチャーである。擲弾ではなく噴進弾なのだ。
即座に「突撃銃一型(仮)」に取り付ける予定のランチャーに銃床と照準器を取り付けた単発の発射機が再設計される。
「ポンプと弾倉とドラムの各給弾装置つけて。それぞれのメリットとデメリットを教えて」
各種注釈が付いた何十もの設計が即座にポップアップしてくる。
「あー! もう良い! 取り回しが良くて突撃銃と相性の良い物!」
箱弾倉の五連発三〇ミリ自動ロケットランチャーの設計が表示された。上部の照準器を外せばそのまま突撃銃にも取付可能になるらしい。
「コレ、コレで良い。これにしよう。突撃銃に装着する単発の物は歩兵小隊毎に一丁から二丁を基本に、戦闘工兵小隊一個に箱弾倉付きのランチャーを一丁から二丁くらいの割合で、ランチャー単体の時に使う大型の箱弾倉も生産して。弾種は散弾と非殺傷弾とガス弾も追加で」
アルメルブルクのオートマタが新しい製造ラインの設置を始めた。
「あとは何が必要かな?」
ざざっと数千種類の装備品案が表示された。
「……アルメルブルク、ハウゼミンデン、それからブランの生産力に応じて順次生産を始めて下さい。お任せします。実用試験はアルメルブルク周辺の魔物狩りで。妖精族にお願い出来る分はお願いしても構わない……」
ここで遂にぶん投げた。
……そんな事で良いのかユーリウス?
「そう言えばランド◯イトを忘れてた」
その名は口にしてはいけない。
強化防護服又は強化外骨格と呼ぶべきである。
「パワードスーツの設計案を」
直ぐに乗り込み型の土人形から乗り込み型の自動人形等の原案が表示されるが、どれもこれも横山宏ファンや士郎正宗ファンからタコ殴りにされそうなビジュアルである。
「大型ならコッチ。小型ならコッチだな」
と、士郎正宗風の内腕の付いた強化外骨格と、横山宏風の強化防護服を基本として戦闘用・非戦闘用装備を各種設計させる。
何れは機動歩兵を強化外骨格に搭乗させ、支援部隊に強化防護服を着用させて一個の部隊とするのだ。
因みに現在機動歩兵が使っている動力甲冑の拡大強化型が強化防護服になる。
「あれ? ……もしかして……俺って……サイボーグ化出来るんじゃね? つーか分身がが作れるよね?」
両方共に可能らしい。
サイボーグ化の基礎となる技術はフィームの義足で完成しているし、後は脳を生かしておく医療関連技術があれば全身のサイボーグ化も可能となる。
さらに分身であれば、ユーリウスの思考をトレースする外部思考装置とも言うべき存在がアニィと共にあるのだ。
大型の魔晶にそれを書き込んで自動人形に載せればユーリウスの分身が出来上がる。
「俺軍団が出来てしまうのか……!」
中二病軍団とかどこのコミケかと?
冗談でもやめて欲しい。
「まあいいや。こんな感じで兎に角試作品を作ろう。全て一つづつでも構わない」
アニィが同意した。
どうやら大量生産は無理でもオートマタを動員して試作品を作るだけであれば意外と早く作れるらしい。
「アルメルブルクで作って完成次第俺の居る所に配達して欲しい」
大まかな作業工程表と配送計画が立案され、ユーリウスが承認した。
他にも既に簡単な物は完成していたが、より高性能な各種土木作業機械の開発や、航空宇宙関連事業研究についても指示するユーリウス。
ユーリウスは自身が一体何をしているのか本当に理解しているのだろうか?
深夜に良くあるハイテンションのまま、これまでに決定した内容を見直していくユーリウス。
どうやら満足出来るものであったらしい。
「よっしゃぁ! これが揃えばクトゥルー神話の化け物が敵だって怖く無い!」
おい、コラ。
それはフラグだぞ?
「最後だ。アニィ。これは可及的速やかに実現しなくてはならない最重要司令だ」
即ち、中間種を生み出す際に植え付けられる情報の、妖精族や妖精族、獣人族を含む人間への転用計画であった。
「中間種の行動指針の様なものを纏めて人間の脳に転写したい」
幾つかの方法が提案されたが、どれも元からある記憶を消す必要があった。
「あぁ、それはわかってる。わかってるが、元の記憶を消さずに転写する方法を見つけて欲しい」
どうやら時間がかかるらしい。
可能になったとしても個人差が大き過ぎて、一つの方法では対応しきれない。
「ならば精霊の経路を繋げて……いや、専用の外部記憶装置を作って埋め込むとかどうだろう? 少しづつ脳の空き領域を確認して、そこに記憶を書き込むってのは可能か?」
……少し時間がかかったが、可能ではある事がわかった。
「ならばその方法とそれを可能にする装置を作って欲しい。実験体が必要なら死刑囚を用意させる」
何度か実験すれば可能になるかも知れなかった。
だが「かも知れない」では困るのだ。
歪な中世的世界に生きてきた者達を一気に宇宙時代にまで対応させるためには、この技術が必須なのである。
軍事力で圧倒して統治機構に組み込む際、膨大な知識と模範的な行動指針を無理矢理にでも記憶させなくては怖すぎるではないか?
そう。
これはつまるところ……洗脳以外のなにものでもなかった。
誤字脱字その他感想等ありましたらコメントをお願いします。
三〇〇〇〇ジュールを三〇〇〇ジュールと記載していました。
訂正します。
三〇〇〇ではなく三〇〇〇〇です。




