第九十話 プラティカル・エフェクト
手直ししてたら三分ほど遅れちゃいました。
A.G.2881 ギネス二七〇年 アルメル一年
夜の月(十二の月) 水の週の四日(十日)
ザルツ公領(ノイエ・ブランザ軍占領地域:ザルツ州)
第四物資集積所
「なぜエーディットがここにいる?」
「ユーリウス様が私の乗った高速飛行船を徴用したからです」
フェストゥン砦に到着した高速飛行船から降りてきたエーディットを見て、そんな間の抜けた会話を交わした主従であったが、第四物資集積所に到着した時には、ユーリウスは兜に一本の平たい角が付いた真紅の動力甲冑を身に纏い、エーディットもまた純白の動力甲冑姿であった。
因みにユーリウスが徴用した高速飛行船でやって来たのはエーディットだけでは無い。ユーリウスが個人的に雇った傭兵団「シルス湖の竜」の精鋭部隊も一緒である。
特に団長のゲオルグはやる気が漲っているらしい。
エーディットが動力甲冑を持っていた理由について聞くと「こんなこともあろうかと」などと言われて悔しがっていたユーリウスである。
ともあれ、二人の有能な魔導師が到着した事でザルツ領侵攻軍第二軍の士気は上がっているが、第二軍の兵力は既に半減している。
魔物や魔獣に倒された訳ではなく、難民たちを第三物資集積所へ送っていった為である。
現在第四物資集積所に居るのは二〇〇〇程でしかない。
つまりカイ中佐率いる第十三任務部隊が戻って来ても四〇〇〇程の軍勢で、二〇〇〇近い難民達を守って撤退しなくてはならない訳だ。
もちろん第十三任務部隊にはナグルファー号が支援についているから、余程の事がなければ撤退戦は成功するだろう。
「周辺の魔物や魔獣の分布を見ると邪魔なのは巨大猪と大豚鬼か」
「――おっ◯とぬしさまとはなんでしょう?」
ユーリウスの呟きにエーディットが反応した。
「巨大猪の別名だな。シェルベ子爵、どっちを叩くべきだと思うか?」
「大豚鬼であれば我らでも対処可能ですが、巨大猪は五頭おります。我らではかなりの損害がでるかと……」
「わかった。巨大猪はこちらで片付けよう。第十三任務部隊が戻って来る前に玄関先くらいは綺麗にしておかないとな?」
その台詞にニヤリと笑うゲオルグ。
「新鮮な巨大猪の臓物が手に入りますね。久しぶりに煮込みで喰ってみたい所ですが……?」
「良いだろう。第十三任務部隊と難民連中にも喰わせてやろう。それじゃシェルベ子爵には大豚鬼の群れをお願いする」
「はっ。お任せ下さい」
まだ到着して一時間程だと言うのに、やる気が漲っているはゲオルグだけではないらしい。
馬も自動貨物車も無い為徒歩で向かわなければならないのが面倒であったが、ユーリウスの索敵レーダーは特別製である。
囲んでユーリウスとエーディットが同時に魔法で攻撃すれば、あっという間に終わるはずであった。
「ブルー達が居れば楽しいんだが、味方から攻撃されそうだし諦めるとしようか。エーディットも準備は良いか?」
「はい。魔晶や魔石も一袋づつ持って来ましたから、久しぶりに古代風魔法の真髄をお見せできると思います」
「……あ、あーアレか……エグイんだよな……まぁ毛皮が欲しいわけでもないし良いか……」
そんな訳で、エーディットが持って来た魔晶や魔石もある事から、動力甲冑の能力を能力を全開にして巨大猪狩りである。
途中緑色の子鬼の小さな群れとも出会うがゲオルグ達一二名の傭兵が一瞬で片付けてしまう。
凡その方向に駆け続けて二〇分程、六キロメートル程の荒野のど真ん中で突然ユーリウスが立ち止まった。
「見つけた。二キロ、じゃなくて半クルトくらい先の林の中に居る。風下から回り込んで奇襲する。俺とエーディットの魔法で片付くと思うが、撃ち漏らしたら足を止めてくれ」
「難しいですなぁ、殺しちまったらいかんですか?」
実に楽しそうな声のゲオルグである。
「勝手にしろ。その代わりに怪我をしたら許さんからな?」
「お任せ下さい総司令官閣下」
結構いい年をしたオヤジなのだが、なかなか楽しい男である。
ユーリウスが天才と認めたヘルムートが忠誠を誓うだけあって、その戦闘能力も指揮能力もこれでまた大したものなのである。
ヘルムートのスパルタ教育の賜物ではあったが、この年で動力甲冑の戦闘補助機能も必要十分に使いこなしているのは素直に凄いと思うユーリウスであった。
そこから更に走る事五分程だろうか。
再びユーリウスが立ち止まる。
「エーディット、ゲオルグ、どうやら気付かれてるぞ?」
「この距離でですか?」
かなり大きく迂回していた為、ゲオルグの言う通り未だ目標の林まで一キロメートル以上はあるだろう。
「間違いなく気付かれてる。相当頭も良いな。散開してこちらを包囲して襲うつもりだと思う」
「――そんな事までわかるのですか?」
「わかる。くそ、こっちが気付いた事にも気付いたかな……?」
と、その瞬間、割れた角笛の様な巨大猪の鳴き声が響いてきた。
「くそっ! 五頭全部がこっちに来る! 速い! ゲオルグ! 撃ち漏らしは無いと思うがいざという時は頼む」
「了解!」
ユーリウスの指示にゲオルグが答え、同時にユーリウスの周囲に無数の魔法陣が展開して複数の窓が一度に開いた。
ユーリウスとエーディット、そしてゲオルグ達一二名が七つの組になって散開する。
相互に支援可能な距離である。
「エーディット、何頭やれる?」
「二頭は仕留めます」
「わかった。今送った三頭は俺がやる」
時速八〇キロメートル以上は出ていそうなワゴン車サイズの猪と、群れのボスらしいマイクロバスサイズ猪である。
既に自動追尾している為まず外す事は無いが、強化型の魔法を使っても一発では殺しきれるか不安になる所であった。
「……それは猪と呼ぶにはあまりにも大きすぎた、大きく、重く、そして大雑把過ぎた……って所だな。肉塊にしてやるよ猪野郎っ! 喰らえ! 強化圧縮火炎槍三連!」
「――っく! 風よ! 大気よ! 稲妻を纏て嵐となりて敵を切り裂け! 轟雷暴風斬!」
その瞬間、無数の魔法陣と凶悪なフラッシュエフェクトと共に、ユーリウスの両手の間から全長二メートル程の青白い炎の槍が三本三連続で放たれ、一瞬遅れて大きく片手を振りぬいたエーディットの右手から、電光を纏った白く霞んだ竜巻が二つ生まれて飛び出した。
エーディットに狙われた内の一頭とユーリウスに狙われた内の二頭が回避しようとしたが無駄だった。
二人の魔法は狙い通りに焼き、貫き、包み込んでズタズタに引き裂いて、殆ど同時に全ての巨大猪が、まるで交通事故でも起きたかの様な轟音と共にもんどり打って倒れる。
「――や、やったか?」
「おいぃっ!!」
ユーリウスの台詞に突っ込みを入れたのはゲオルグである。
良い反応である。
「ユーリウス様! いい加減にしてください! アレほど余計なエフェクトを入れないようにとお願いしたではありませんか!!」
エーディットはどうやらフラグを立てた事に怒っている訳では無いらしい。
「だが断る!」
「ユーリウス様!」
と、再び夫婦漫才でも始めそうな勢いであった二人だったが、どうやらそんな事をする暇は無いらしい。
「総司令官閣下……? ご自分で立てたフラグの処理はどうかご自分でお願いしますよ?」
「え?」
マイクロバスサイズの巨大猪は未だ生きていた。
※ノイエ・ブランザの軍制
状況に応じて貴族の私兵である貴族軍が加わる事が前提で、各兵科が単独で動く事は少ない。
通常は任務部隊という諸兵科連合で戦う。
第五任務部隊や第十三任務部隊等の番号は編成順。任務が終われば解散される。
王国が兵站を担う。
場合によっては王国が商人を雇う事もある。
貴族軍を含めたノイエ・ブランザ王国全軍で約三〇〇〇〇(三四〇〇〇)
王国軍九〇〇〇(一〇〇〇〇)
貴族軍一八〇〇〇(二〇〇〇〇)
騎士団二二〇〇(三〇〇〇)
傭兵団八〇〇(一〇〇〇)
貴族軍
マルク辺境伯三〇〇〇、旗下の貴族軍が三〇〇〇
ヴィーガン侯爵五〇〇〇、旗下の貴族軍は二〇〇〇
その他の貴族軍が五〇〇〇
ノイエ・ブランザの貴族軍は、その規模に応じて二~一〇体のゴーレム兵が配備されている。
一族郎党だけで三〇〇〇、五〇〇〇という兵力を動員出来る貴族も居れば、自身と村人数人しか動員出来ない様な貴族とは名ばかりの貧乏騎士や男爵も多い。
貴族軍の常備兵は少ない為、平時は王国軍と貴族軍の戦力差が逆転する。
基本的には領地の守備兵力であり、中下級貴族の大半は兵站能力も低い事から、元々侵略には向かない。さらにノイエ・ブランザではユーリウスが全ての迷宮を王家に召し上げてしまった事から、貴族軍の兵站についても王国が全面的に賄っている。
そうした事もあり、現状ではユーリウスが常勝を続けている事と利益を気前良く分けている事、それからヴィーガン侯爵ハルトとマルク辺境伯ゲオルグがユーリウスの求めに無条件で従っている様に見える事から、貴族軍と王国軍の区別無くユーリウスの指揮の下で戦っている。
もちろん渦巻く灰色の霧への畏怖と恐怖もある。
騎士団
騎士団は事実上の国立傭兵団だが、建前上は貴族間では中立。貴族同士の騒乱で雇われる事も多いし、各地の迷宮に出掛けて訓練を行う事もある。一人もしくは数名の単位で各地を巡って魔獣や魔物の討伐を行ったり、騎士団単位で動いて野盗や盗賊の討伐等も行っている。また、他国の騒乱に雇われて兵を出す事もある。
王家の直轄地や常駐している騎士以上の領主が居ない場合、騎士団の騎士には即決の裁判権が認められている事から、辺境の各地を巡って魔物や魔獣を退治するだけでなく裁判や揉め事の調停等も行っているし、小さな街で公正な第三者としての立場を買われて、短期間裁判官として雇われたりする事もある。
が、騎士団の最大の仕事は、実は貸金業と貸し金庫だったりする。
中立の立場で独立した戦力を持ち、しかも独自の城や砦を持っているから、金を預けるなら騎士団か神殿というのが相場。
傭兵団
金で雇われて武力を行使する事を認められている集団。
基本的には領地毎に許可を貰う必要がある。
複数の傭兵団が集まってギルドを形成する事はあるが統一されたものは無い。
複数の傭兵団が集まって作ったギルドもあまり長続きしない。
ただし傭兵団同士の繋がりはある事から、不義理をしなければ紹介状を使って各地の戦場で雇ってもらえる可能性はある。
王国軍
定数一〇八四四、実数は九〇〇〇前後
編成は予算単位、()内は運用単位
機動歩兵六〇〇、一個近衛機動歩兵大隊(二五個小隊)、二個機動歩兵大隊(同)
騎兵一六〇、二個騎兵大隊(八個騎兵中隊、一〇個偵察騎兵小隊)
歩兵三〇〇〇、三個歩兵大隊(七五個小隊)
弓兵一〇〇〇、一〇個弓兵中隊(五〇個小隊)
工兵一八〇〇、五個工兵中隊(同)、四個戦闘工兵中隊(四〇個戦闘工兵分隊)
魔導兵六四、八個魔導兵班(六四個魔導兵、内ゴーレム操作兵一六)、ゴーレム兵一六
輜重兵一八九〇、三個輜重兵大隊(二一六個輜重兵分隊、四三二輜重兵組、馬丁一六二)
技術・営繕・整備兵二〇〇、二〇個技術兵班(一〇〇個技術兵組)
特科兵二八〇、移動砲台二〇、水上艦六(整備は民間)
軍医、衛生兵、看護兵五〇 軍医六、衛生兵三〇、看護兵一四
その他一八〇〇(情報・作戦・運営・管理・従卒・馬丁を含む)
ノイエ・ブランザ全土にユーリウスの私物である一〇〇体近いゴーレムが配備されており、アルメルブルクの領主として雇った魔導士達が運用している。
空中戦艦と固定砲台はユーリウスの私兵。大半がホムンクルス。
特車の輸送・護衛車両である装甲自動三輪車爺さんは共にユーリウスの私兵。
自動貨物車については既に販売が開始されており、既に複数台を保有している貴族も居る。
ノイエ・ブランザ軍の兵科と編成
歩兵(剣兵・槍兵)
最大単位は連隊
最小単位は組
組は兵二名指揮は先任
班は五個組一〇名指揮は伍長
分隊は二個班二〇名、指揮は軍曹以上
小隊は二個分隊四〇名、指揮は曹長以上、通常は少尉
中隊は五個小隊二〇〇名、中尉以上
大隊は五個中隊一〇〇〇、大尉以上
連隊は三個大隊三〇〇〇、少佐以上
弓兵(長弓・弩)
最大単位は大隊
最小単位は分隊
分隊は一〇名
小隊は二個分隊二〇名、指揮は少尉以上
中隊は五個小隊一〇〇名、指揮は中尉以上
大隊は三個中隊三〇〇名、指揮は大尉以上
工兵・戦闘工兵
最大単位は大隊
最小単位は分隊
分隊二〇名、指揮は曹長以上
小隊は二個分隊四〇名、指揮は少尉以上
中隊は五個小隊二〇〇名、指揮は中尉以上
大隊は三個中隊六〇〇名、指揮は大尉以上
特科兵
兵器による。
専従
技術兵(営繕兵、整備兵)
最大単位は小隊
最小単位は組
組は兵二名指揮は伍長以上
班は五個組一〇名指揮は軍曹以上
分隊は二個班二〇名、指揮は曹長以上
小隊は二個分隊四〇名、指揮は少尉以上
魔導兵
最大単位は小隊。
最小単位は魔導兵
全員が士官以上
魔導兵、魔導士一名
組で二個魔導兵二名
班で四個組八名
分隊で二個班一六名
小隊で二個分隊三二名
輜重兵
最大単位は大隊
最小単位は組
組は兵一馬一
班は兵一、御者兼馬丁一、荷馬車×一、馬一、伍長以上
分隊は兵四、御者兼馬丁一、荷馬車×一、馬一、軍曹以上
小隊は二個分隊+二個組もしくは一個班、兵一二、荷馬車×二、馬四、馬丁一、少尉以上
中隊は六個小隊、兵七二、荷馬車×一二、馬二四~三六、馬丁六~九、中尉以上
大隊は六個中隊、兵四三二、荷馬車×七二、馬一四四~二一六、馬丁三六~五四、大尉以上
馬や荷馬車はゴーレム駆動車に置き換える予定。
騎兵
騎兵の定数は一個小隊で騎兵四名に馬六頭と従卒四名に馬丁二名である
騎士の伝統を受け継ぐ事もあり、機動歩兵よりも小隊の単価は高い
騎兵は全員士官であるから、小隊の指揮官で中尉以上、大隊で大尉以上、連隊で少佐以上
大半の騎兵は貴族が国に提供した騎士と従卒からなる為、騎士以上の貴族の比率が高い。
騎兵は連隊が最大単位
最小単位は小隊。
小隊で騎兵四名に馬六頭と従卒四名に馬丁二名の計一〇名と馬六頭
中隊が五個小隊二〇名に馬三〇頭、従卒二〇名に馬丁一〇名の計五〇名と馬三〇頭
大隊で四個中隊八〇名、馬一二〇頭、従卒八〇名に馬丁四〇名の計二〇〇名と馬一二〇頭
連隊で三個大隊二四〇名に馬三六〇頭、従卒二四〇名に馬丁一二〇名の計六〇〇名と馬三六〇頭
機動歩兵
機動歩兵の編成は一個小隊が八人であるから、中隊で四〇名、大隊と言っても定数で二〇〇名
機動歩兵は連隊が最大単位
最小単位は組。
全員が士官以上。
組は機動歩兵二名。指揮は先任。
分隊は二個組四名。指揮は中尉以上。
小隊が二個分隊八名、技術兵が二組四名付く。指揮は大尉以上。
中隊が五個小隊四〇名に六〇名規模の諸兵科連合の支援部隊。指揮は大尉以上。
大隊が五個中隊二〇〇名に三〇〇名規模の諸兵科連合の支援部隊。指揮は少佐以上。
連隊で二個大隊四〇〇名に六〇〇名規模の諸兵科連合の支援部隊。指揮は中佐以上。
近衛機動歩兵大隊には、基本的に支援部隊は付かない。
特車(輸送)
最大単位は小隊
最小単位は小隊
ユーリウスの私兵と貴族軍の私兵のみ
小隊は兵二(運転手)自動貨物車×一
運転手が一人の場合も多い
特車(護衛)
最大単位は小隊
最小単位は小隊
ユーリウスの私兵のみ
小隊は兵五、運転手一、装甲自動三輪車爺さん×一
特車(軽戦闘)
未実装
特車(重戦闘)
未実装
戦車(MBT)
未実装
自走砲
未実装
自走対空砲
未実装
自走対空噴進弾
未実装
プロペラ推進航空機(ターボプロップ機含む)
未実装
ジェット推進航空機(ラムジェット機含む)
未実装
ロケット推進航空機(核熱・核分裂・核融合含む)
未実装
銃兵の計画もある。
高性能な火薬が作れていない事から銃兵については突撃銃が未完成。
続きます!
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