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グングニルの槍、その迷惑な一撃

作者: ミミズク

 2005X年ついに我々は仮想遊泳望遠鏡カミカゼの制作に成功した。この開発には新技術の光点転移法と新データ圧縮技術そして何よりも優秀な蓄電池のコラボレーションによって成功なさしめたわけだが、

 それより何より、最も新しかったのはその思想である。



 2000年代も中頃になると我々技術では火星移住や軌道エレベータどころか、まともな有人宇宙飛行でさえ安定して成功させることができないことがわかった。さらに不幸なことに無人小型探査機が送ってきたデータによると、宇宙は我々の想定よりのっぺりとしており夢や希望もないことがわかった。


 具体的にはエネルギー資源や希少金属、あるいは転用可能な元素(特に放射性同位体)などなどであるが、これが殆ど無いか、あっても手が出せない、ペイできないのである。

 我々の住む土地には金を始めとして石炭、ウランなど有用な鉱物が数知れどあれ、大量に集中的にないために活用できない鉱山など山のようにある。いや、正確にいえば鉱床の定義とはカネになるかならないかだけである。


 もし海のように微量の金(Au)しか含まなくとも、海から金を効率的に生成する技術・・あるいは世界の金単価の高騰によりペイするならば海は巨大な鉱床たりえる。鉱山ならず鉱海である。

 さらに極端な話をするなら水銀(Hg)を分解したり、水素(H)を融合して金を作っても構わない。とにかく宇宙から希少、有用な鉱物を得るには僕大な資金と革新的な技術が必要だった。


 2000年代後半、人々は宇宙に夢見るのをやめた。むしろ莫大な額を払って他国の船に便乗させてもらうなど、税金の無駄遣いとして槍玉にあげるくらいだった。このあと長い間宇宙開発は暗黒時代に突入する。



 2030年代後半、天才科学者で稀代の変人であるN氏はある妄執に取り憑かれていた。彼は世界を操る知性体、いうならば神のような存在が高次元に存在しなければならないと考えていた。慣性質量と重力質量の一致は既に10万桁までの精度で求められ、世界生成プログラムは自律的に我々と同じ姿、文化をもつ仮想生命体を創造していた。

 彼は仮想空間に住む自分と同じ姿、文化をもつ知性体に何度も終末を加えたあと、ついに確信したのだ。


 彼の考えによるとどんな仮想空間もその端が存在しないわけがないので、超弩級の望遠鏡を用いれば世界のほころびが発見できるとのことだ。彼はコマゴメピペットによって自分の世界が破壊されるのをよしとしなかったので、望遠鏡とカメラを使って世界の端から高次元世界を取り込もうと画策した。


 2040年代、ついに世界のほころびメッシュ構造を確認した。1億光年をも遠くにある青い惑星を包むように網目が張り巡らされていた。N氏はそこが世界の果てで青い惑星の向こうには自分のような科学者だか神がいることを確信していた。



 時は戻って205X年、N氏とその狂信的な弟子達はカミカゼを宇宙の端に向かって打ち上げた。カミカゼと青い惑星の距離が十分近づくと転写装置によって前方180度、奥行き10万光年のデータを取り組むことができる。そのとき起こった超強力なフラッシュによってオリジナルの青い惑星は一瞬で溶けてしまった。


 実を言うとN氏が世界の果てだとおもったメッシュは、青い惑星の住人つまり我々地球人によって構築された(昔でいうところの)ソーラーパネルであり、全くもって勘違いだったのだ。で、私のこの意志もオリジナルのそれではなくカミカゼ内のハードディスク内のものである。

 いや、より正確に言うならばこのデータはN氏に送られている方なのかもしれない。我々地球人からすると世界の果てやら、フロンティアやらを夢想する前にブラックボックスに閉じ込められて甚だ不満である。


 しかし、もし我々がN氏の星に向かっているデータならば、世界は統合され新たな未知の輝きを生むだろう。ただしN氏やその同族の知性体は我々に都合のいい存在とはとても思えない。ディスク内を精査したところ彼が仮想生命体にしたピペット百烈拳やランプ火炙り地獄のことは歴史的事実だと認定されている。


 考えるに、どちらにしろあまりいい未来は望めない。地球人類がせっかくフロンティア・スピリットを取り戻したと思ったらこれである。結局自分たちで制御できないからこそのフロンティアなのか。


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