なんでなの
そして蘭君は私に教えてくれた。
「どう?理奈お姉さん・・」
「うん、それいいかも!でも蘭君、その分勉強大変よ。1日1時間延長ね」
「えっ!1時間も」
「そう」
「蘭にそんなこと出来るかなあ?」
「ん・・・?」
「親友のためよ!」
「よし!わかったよ」
「そうこなくちゃ!」
「早速一也にも連絡しておくよ」
「瞳にはどうしようか?いきなりってことは無理よね」
「ああ。とりあえず海水浴に行くことだけ伝えたら」
「そうね」
「なんかワクワクするね!蘭」
「翼、いやに張りきってるじゃんか」
「へへぇ」
こうして次の日から、蘭君と私の猛勉強?の日々がスタートしたのだった。
「素数を選べ・・かあ。素数、素数・・何だっけ?」
「 1とその数以外に約数がない正の整数。2・3・5・7・・とか 」
「あーあ、そうだった!」
「よしっと。蘭君午前はここまでにしようか」
「そうだね。ねー理奈ちゃん、理奈ちゃんは当然○○高校が第一志望だよね。一也と同じでさ」
「ん・・まだはっきり決めてないんだ」
「えっまだ?」
「うん。蘭君は?」
「俺は出来悪いからさ・・せいぜい△△高校かな」
「ふーん、そうかあ・・じゃあ私も△△高校にしようかな!」
「えっ!マジで?」
「マジで!」
私は別に高校なんてどこでもいいんだよなあ。蘭君と一緒なら!
でもそこまでしたら蘭君迷惑かな・・。
家に着くと早速お母さんに打ち明けてみた。
「ねーお母さん、高校のことなんだけど・・」
「ん?」
「私△△高校にしようかな」
「あらどうして?この前の三者面談で○○高校にするって」
「うん、そうなんだけど・・」
「理奈、まさか蘭君と一緒の高校?」
「・・はい。その通りです」
「理奈ったら・・」
「ダメかな?」
「ダメってことないけど、折角○○高校いけそうなのに・・」
「やっぱりダメ?」
「お母さんは頭から反対はしないけど・・夜お父さんとも相談してみないと」
「うん」
そして午後も猛勉強?は続いた。
「フレミングの左手の法則・・確か親指、人差し指、中指をこう伸ばして!」
「おっ、やってるね蘭君!」
「ん?どの指が磁界だ」
「ふふっ・・人差し指よ!」
「そっか!」
「中指から順に『電磁力』って覚えるの」
「ほお、なるほど!でも試験中にこんなことやってもいいのかな?」
「ちょっと恥ずかしいね!」
「そうだよね・・」
「あのさあ蘭君」
「ん?なに」
「高校のことなんだけど・・」
「うん」
「私が蘭君と同じ高校に行くっていったら、蘭君迷惑?」
「えっ?・・そんなこと全然ないよ!すごく嬉しいさ」
「ホント?」
「ホントだとも!」
「ふうっ、良かった」
「でもさ、○○高校行けるんだったら、なんだかもったいない気もするな」
「だったら蘭君、蘭君が○○高校受験したら!?」
「あやあ・・それはさすがに・・ムリ!」
「そうかなあ?」
「そうです!」
「なんで高校受験なんてあるんだろうね?」
「それは同感かなあ」
「じゃあ蘭君、また明日ね」
「うん、わかった」
そして
「ただいま」
「お帰りなさい。疲れてるところ悪いけど、理奈があなたに話があるそうよ」
「そう。なんだろう」
「あっ、お父さんお帰り」
「ただいま。理奈、何か話があるんだって?!」
「うん・・」
「なんだい?話って」
「高校受験の事なんだけど」
「うん。お母さんから○○高校に決めたって聞いてるけど・・」
「それがね・・△△高校じゃダメかなと思って」
「△△高校?お父さん、こっちの高校の偏差値とか評判とか全くわからないからなあ。お母さんが先生に聞いた話だと、○○高校はなかなか偏差値も評判もいい方だって!だからお父さんは安心していたんだけど・・」
「うん・・」
「何か理由があるんだろう。理奈が△△高校に行きたいっていう」
「うん・・それが・・」
「それが?」
「蘭君と同じ高校に行きたいの!」
「えっ!」
「ダメかな?」
「それが理由なのかい?」
さすがにお父さんも、すぐにはうんと言ってくれなかった。
私にとってはすごく大切なことでも、大人にしてみれば、ましてや親にしてみれば、納得なんて到底無理な話だよね・・。
「蘭君、やっぱり同じ高校は無理みたい!ごめんなさい」
私は夜遅くに蘭君にメールをした。昼間いっぱい頑張ったからもう眠っちゃってるだろうなあ。
すると私の部屋を小さくノックする音がした。
「理奈、もう寝ちゃったかい?」
あっ!お父さん。
私は静かにドアを開けた。
「お父さん、どうしたの?」
「さっきの理奈の話が気になってね」
「・・ごめん、余計な心配かけて」
「そんなことはいいさ。子供の心配をするのは親のつとめだからな」
「うん」
「他人には甘いって言われるかもしれんが、いいぞ理奈が決めた高校で!理由が何であれ自分で決めるっていうのも大事なことだ。後悔しないようにな。それだけだ」
「お父さん・・」
「じゃあ、お休み」
「お休みなさい」
私は急いで蘭君に知らせようとスマホを手に取った。さっきのメールの返信はまだない。
「蘭君、お父さんが蘭君と一緒の高校に行っていいって!!」
私はそんな言葉を書き込み送信ボタンを押そうとした・・でも、押せなかった。
そして次の朝
「お父さん」
「おはよう理奈、今日はやけに早いじゃないか!」
「お父さん、私やっぱり○○高校を受験する!私が決めたのよ。自分で決めたの」
「うん。お父さんもお母さんも、精一杯応援するよ!」
「うん」
何故なのかなあ・・なんで昨夜蘭君にメールしなかったんだろう。もう眠っちゃってると思ったからなの?お父さんの許可が出て、嬉しくて仕方ないはずなのに。自分でも自分の心の動きがわからない。
そして今、○○高校に行くって決めてる私がいる。なんで、なんでなの・・。