ひとりよがり
試合会場からの帰り道、大きな声の主は瞳。
「さあーてと、今日はお母さんの喫茶店で残念会でもしましょうか!!」
「ん?瞳のところまだお店やってんのか?」
「うん、今月までね」
「蘭、理奈ちゃん・・どうする?」
「・・・」
「ねー、瞳お姉さんのとこいこうよ!いいでしょ?蘭・・」
「そうだな!皆で押しかけちゃうか」
「理奈お姉さんは?」
「私は・・」
「理奈!」
「うん・・でも、迷惑じゃない?」
「平気平気!お店いつも暇だからさ!」
「よーし、決まりね!!」
「やったー!」一番はしゃいでるのは翼くんかな?!
瞳、ありがとうね。
結局試合は最後の最後、私のミスで負けてしまった。
ボールを蹴るまでは足の痛みは全然なかった。でも、ボールを蹴る直前、軸足となる左足にズキッと微かな痛みがはしったのだ。
そしてボールは狙いをわずかにはずれ、ゴールポストにはじかれてしまった・・。
最後の最後、私のミスで・・。
おもわずその場にしゃがみこむ私を、チームの皆が支えながら立ち上がらせてくれた。
「理奈、ドンマイ!」
「うん!そんなに落ち込むことないよ理奈」
「そうだよ!私たちは精一杯やった。そして、決勝戦まできてさ・・」
「理奈がいなかったらここまでこれたかわからなかったわ!」
「そうそう、堂々と胸を張ってさ!皆で掴んだ準優勝なんだから」
「みんな・・」
そしてひとりの子が言った。
「今日の理奈のプレー、私たちちっとも嬉しくないよ!」
「えっ?」
「最後私たちにシュートを撃たせてたでしょ!理奈はシュートを決めないで。何で理奈が自分でシュートしないの?」
「それは・・」
「理奈はこのチームの大黒柱 、エースなのよ!皆が繋いでつないで理奈に最高のパスを出す。シュートを決めるのは理奈、あなたなんだからね。」
「うん、私もそう思うな!なんて言うか・・それがチームワークだと思う」
「・・・」
「ごめん理奈、へんなこと言って」
「うんん」
チームワーク・・私がやってたことって、このチームワークを壊しかねないことだった・・?!
これだったんだね!蘭君や瞳が私におしえたかったことって!
「さあ笑顔笑顔!」
「今日は負けちゃったけど、リベンジのチャンスはまだあるわ!」
「うん」
「明日からか猛練習よ!」
「えっ先輩、明日からもうですかあ!?」
「ふふふっ。みんなゴメンね!」
「蘭、理奈お姉さんたち何話してるのかな?」
「何かなあ・・・」
「惜しかったわねー!」
「でも皆よくやったよ!」
「なんだよ一也、その優等生発言!?」
「たまには言わせてくれよ!」
「ったく!!」
そして私たちは瞳のお母さんのお店に到着した。
「お邪魔しまーす!」
「あっ!いらっしゃい。待ってたわよ」
「待ってた?」
そこには美味しそうな料理が沢山並んでいた。
「うわー!うまそー。おばさん、俺たちが来るの知ってたのか?」
「今朝瞳から聞かされてね!」
「ん?瞳どういうこと?」
「本当は理奈たちが試合に勝って『おめでとう会』にしたかったんだけどね・・」
「ってことは負けっちゃったか」
「でもカッコよかったんだよ!理奈お姉さん」
「翼くん・・アリガトね」
「それにしてもお母さん、これだけの料理よくできたわね?!」
「でしょう!!・・実は頼もしい助っ人が来てくれたのよ、ほら・・」
「こんにちわ」
「あっ!川口さん」
「ちょうど暇してたもんでね」
「それにもう一人、蘭君と翼君のお母さんもね!」
「ん?俺の母ちゃんが・・何も言ってなかったけどな・・なあ翼」
「ぼく知ってたよ!!」
「えっ!?何で言わないんだよ翼」
「へへぇ」
「だから翼をおいてすぐに帰っちゃったんだな」
それから蘭君のお母さんも加わり、私たちの残念会は盛大に始まったのだった。
そしてその夜・・
プープー・・蘭君からメールがきた。
「今日は惜しかったね!それでも見事準優勝!! P.S.足の具合はどう?」
「足の方は全然大丈夫!あのね蘭君、私わかった気がする、蘭君が言ってたこと。私のやってたことって結局はチームワークを乱してしまうだけだったんだよね。私のただの独りよがり・・今日ね、チームの皆がその事を教えてくれたんだ。今日は負けちゃったけど、今度こそ優勝を狙うわよ!」・・送信。
この学校に転校してきて本当に良かった。つくづくそれが感じられた素敵な一日だった・・。
プープー
「応援なら任せてくれ!!」
蘭君・・アリガト。