まぶた
♪ブーブー
「蘭君、大ニュースだよ!私のお父さん、瞳のところのお店でレストランをやるって」
「えっ本当に!!」
俺は慌てて一也にも知らせた。
「母さん、理奈ちゃんのお父さんね、瞳の所のお店で働くことに決まったらしいよ」
「あら、ホント!」
「確かこの間の話だと調理師の免許を持ってるって言ってたもんな」
「父さんと話してるとき、その話題が出たんでしょ!?」
「うん、若い頃の話で盛り上がってな」
「でも、安藤さんてずっと料理の仕事には携わってなかったんでしょ。大丈夫かしらね?」
「そうだなあ。免許があるからって、なかなか難しいかもな・・」
「おかしいなあ・・」
「何がだ蘭?」
「瞳の話だと、誰か違うひとに決まりそうなこと言ってたからさ」
「話がうまくまとまらなかったのかしらね」
「かもね」
理奈ちゃんからその後、連絡は来ていない。
俺は瞳にメールすることにした。
「理奈ちゃんのお父さんが瞳の所でお店やるんだってな!さっき理奈ちゃんから聞いたよ」
「うん、私も理奈からのメールで知ったの。それでお母さんに確認したら、お母さんは川口さんってひとにお店を譲るって言ってたけど」
話が見えてこないぞ!理奈ちゃんはお父さんがお店をするっていってるし、瞳のお母さんは川口さんってひとにお店を譲るって言ってる。
「ちょっと出掛けてくる!」
「えっ!こんな時間にどこいくの?」
「理奈ちゃんのところだよ!真相を聞いてくる」
「明日にしたら」
「ちょっと行ってくるだけだよ」
「すぐ帰ってくるのよ」
「わかってるよ」
「蘭、ぼくも行きたいよ!」
「母さん、いいかな翼も」
「うん。迷惑かけないのよ」
「はーい!」
そして俺と翼は外階段を上がっていった。いつかはそこに理奈ちゃんがいたんだってなあ。
「今日は理奈お姉さんいなかったね!」
「そうだな」
翼も同じこと考えてたか。
♪ピンポン
「はーい」
「こんばんは、佐藤です」
「佐藤翼です」
「あら!?」
理奈ちゃんのお母さんがドアを開けてくれた。
「すみません遅い時間に」
「それは構わないけど、理奈に用事?」
「はい・・というか・・理奈ちゃんのお父さんに・・」
「そう。どうぞあがって」
「失礼します」
「失礼します」
「何だい?蘭君に翼君、私に用って」
「あの、理奈ちゃんのお父さんが瞳の所のお店でレストランをやるって本当ですか?」
「理奈から聞いたのかい。本当だよ!見習いだけどね」
「見習い・・ですか?」
「そこまでは聞いてなかったのかな」
「詳しくは聞いてなくて。それで確かめに来たんですけど・・」
そこに理奈ちゃんがやって来た。
「あっ!やっぱり蘭君だ。翼君も」
「おじゃましてます」
「おじゃましてます」
「ふふふ・・」仲良しだね!
「理奈、川口さんのことは言ってなかったのかい蘭君に?」
「ん・・うん。そうだったかな?」
「理奈ちゃん、お父さんのことしか書いてなかったよ」
「そっか」
それから理奈ちゃんのお父さんが、色々と詳しく教えてくれたおかげで、俺の悩みは一気に吹っ飛んでくれた!
そして理奈ちゃんが古い一冊のアルバムを、俺と蘭にこっそり見せてくれた。そこには若い頃の理奈ちゃんのお父さんとお母さんが・・。
その時俺は気づいていた。理奈ちゃんのまぶたが少し腫れていることを。何かあったのかな・・?
でもちっとも落ち込んだ様子はなく、きっと嬉しい事があったんだなと勝手に想像していた。
「翼、そろそろ帰ろうか」
「うん」
「私そこまで送るよ!」
「お邪魔しました」
「おじゃましました」
「理奈ちゃん、何かあった?」
「えっ?なにかって」
「ん・・いや何でもない!」
理奈ちゃんのそのひとことで、俺は確信できた。
「じゃあね」
「じゃあね」
「理奈お姉さん、またね!」
「うん、またね」