その時は私も連れてって
そして次の日・・
「おはよー!・・ん?理奈ちゃん、あれ見て」
「えっ?」
俺と理奈ちゃんが教室に入ると、黙々と机に向かい勉学に励むやつがいた。一也だ!
一也はもともと頭のデキはいい方で、本気で勉強すれば学年でもトップクラス。しかし・・・。
「一也、熱でもあるのか?」
「よう蘭!熱なんか無いさ。俺は只今猛勉強の真っ最中さ」
「何でまた?」
「『少年よ大志を抱け』って知ってるか?俺には大いなる目標が出来たのさ!」
「はあ・・」
「瞳、おはよう。一也のやついったいどうしたんだ?」
「私にもわかんない」
「だよなあ」
「ははあ・・」
「理奈、何か心当たりあるの?」
「たぶん留学!」
「留学?」
「ロサンゼルスにね!」
「なるほど!瞳のあとを追って、一也もロサンゼルスへ行くつもりなのか」
「えっ!一也が・・」瞳もビックリ!
「単純なやつ・・」
「蘭君・・心がピャアなのよ!和久井君は」
「それで瞳はどうなの?」
「どうって?」
「急な話だったからさ」
「仕方ないよ!お父さん一人になんかさせられないしね」
「うん・・」優しいね瞳。
「一也、瞳を追ってロサンゼルスにいくつもりか?」
「わるいか?!」
「わるくはないさ。お前が本気なら俺も応援する!」
「サンキュー!蘭・・さあ頑張るぞー」
その単純さが一也の魅力だね!
ところでロサンゼルスってどの辺にあるんだっけな?アメリカ合衆国の西それとも東・・。
外は大雨だ。
「蘭達、今日はさすがに部活はないんだろう?」
「ああ、中止の連絡がさっきあった」
「じゃあ瞳のとこ行かないか?お母さんの喫茶店」
「俺はいいけど」
「理奈ちゃんは?」
「私も大丈夫!」
「よし決まった!」
「決まったって一也、瞳はOK なのか?」
「これから聞いてみるよ」・・いちばん肝心なことが後回しか。
そして俺たちは無事、瞳のお母さんの喫茶店でホットケーキにありつけることに!
この喫茶店、結構な広さがある。実際、瞳のお母さんがお店としてテーブルを置いているのはスペースの半分程度。あとの半分は、キッズスペースとして解放している。
「おばちゃん、このお店すごく広いよね!」
「そうね!元は私のお友だちのお父さんが、本格的なレストランをやってたとこだからね。そこを格安で貸してもらってるのよ」
「なるほどそうなんだ」
「でも夏にはここも手放さないといけないんですよね」と理奈ちゃん。
「うん。家の方とあわせて、買い手を探してもらう手続きをしないといけないのよ」
「寂しくないですか?」
「家もお店も愛着があるから、寂しいのは確か。でも仕方ないわね」
「お母さん、喫茶店の仕事が生き甲斐みたいなとこあったもんね!」
「こんなホットケーキでも、皆みたいに美味しいって言ってくれたらねそれは嬉しいものよ」
「ごちそうさまでした!」
「美味しかったでーす!」
「じゃあね瞳」
「うん・・」
途中一也と別れて、今は理奈ちゃんと二人。ふたつの傘は時々ぶつかりっこ!
「瞳、やっぱり元気なかったなあ」
「理奈ちゃんもそう思った!?実は俺もなんだ・・」
「急な話だもんね!」
「さすがの瞳も・・でも瞳ならきっと大丈夫さ!意外と何でも前向きに考えるタイプだからな」
雨はいつの間にかやんでいた。
「理奈ちゃん、雨降ってないみたいだよ」
「ああ、いつの間に・・」
「それにしても一也、本気なのかなあ・・ねえ理奈ちゃん、ロサンゼルスってアメリカのどの辺りだっけ?」
「確かカリフォルニア州だから、西海岸の方よ!」
「ふーん。俺も行ってみようかなロサンゼルス?!」
「えっ!蘭君も・・」
「冗談だけどさ・・」
「・・その時は私も連れてってね!」
「えっ!」
そんな俺の鼓動はまたしてもスピードアップなのでした。