『ガチャン』
なんで理奈ちゃんからのメールを見るだけでこんなに緊張するんだ?!
勇気が要るんだ・・?
「あーあ、ふうっ・・」
「蘭、どうかしたの?」
ゲームの画面から目をはなさないまま、翼が聞いてきた。
「いや、別に」
「蘭もやろうよこれ!おもしろいよ・・」
「ああ」
そうか、さっきは翼の登場に焦ってボタンを押しちゃったんだっけ。
あーもー!
「ファイト!ファイト!」とつぶやく翼。もちろんゲームのことだ。
よーし!俺もファイト!ファイト!
そして俺は、ようやく理奈ちゃんからのメールを開いた。
薄目でのぞくその画面には・・
『もちろんです!』の文字が!
俺は何度も何度もスマホの画面を見直した。そして、何度も何度も頬っぺたをつねった。
間違えでも夢でもない!理奈ちゃんからの『OK !』の返事だ。
理奈ちゃんが俺の彼女に!
「やったー!!」
「やったー!!蘭見てよ。勝ったよ、ほら・・」
翼はどうやらゲームに勝利したらしい。
「イエーイ!」俺と翼は思わずハイタッチだ。
そこに母さんがやって来た。
「どうしたの二人とも!?おおはしゃぎで」
「ゲームに勝ったんだよ!」
「あらすごいわね」
「へへぇ!」
「蘭、これを理奈ちゃん家まで持っていってあげて」
「あっ、腕時計」
「理奈ちゃんのお父さんのよ」
「うんわかった!」
「ぼくもいくよ」
「じゃあ一緒に行こうか」
「お願いね」
そして俺と翼は、理奈ちゃんのお父さんの腕時計を持って玄関を出た。
外はさすがに真っ暗だ。外階段への扉を開けて・・。
「わあ!針が光ってるね」
「暗いところでも見えるように蛍光塗料が塗ってあるんだよ」
「ふーん」
「さあ、早く持っていってやろうぜ」
「うん」
俺と翼が階段を上がりかけたとき、頭の上から声がした。
「蘭君、翼君!」
理奈ちゃんだ!
翼は階段をかけ上がっていく。
「あっ!理奈お姉さん」
「理奈ちゃん・・」
「お姉さんどうしたの?こんなところで」
「翼君達を待ってたのよ!」
「えっ!?ぼくたちを・・」
「理奈ちゃん、俺たちが来るのわかってたの?」
「なんとなく・・かなあ・・」
「お姉さん、はいこれ!忘れ物」
「あっ!お父さんの腕時計ね。わざわざありがとう」
「うん・・じゃあぼく先に帰ってるね!」
「おい翼!?」
そして翼は、さっさと階段を下りていってしまった。
当然そこには理奈ちゃんと俺だけが残された!
「ただいまー」
「あっ翼、ありがとうね!・・あれ?蘭は」
「理奈お姉さんと一緒だよ」
「あらそう」
「階段のところで、お姉さんが待っててくれたんだ!」
「えっ?理奈ちゃんが」
「うん」
ほんの少し前、理奈ちゃんは俺の彼女になってくれた。そして今、こうして二人だけの状況!こんなときなんて話しかけたらいいんだ?
俺の心臓はバクバク!手のひらには汗いっぱい。
理奈ちゃんと俺の距離は、黒板消し一個ぶんってとこかな?!そこから二人とも動けないでいる。
理奈ちゃんは今、何を考えているんだ?
そんな時、外階段の扉がちょっと開いたような気がしたけど、誰も出てくる人はいなかった。
理奈ちゃんは気づいていない。
夜の風が、ほてった俺の頬にはすごく気持ちがいい。
理奈ちゃんが俺の隣にいる!
俺の心臓は、だんだんと落ち着きを取り戻してきたみたいだ。
そして俺は言った。
「あの放送にはビックリした!」
「えっ?」
「試合会場のやつ」
「ああ、ごめんねあんなことしちゃって」
「うんん。みんなキョトンとしてたなあ」
「あれはやりすぎだったね!反省します」
「・・でも嬉しかったな!」ホントだよ。
「蘭君・・」
「さあ、そろそろ戻らないと。お父さんとお母さんが心配してるかもよ」
「うん。蘭君も髪が濡れたままで風邪ひいちゃうもんね」・・やさしい理奈ちゃん。
「じゃあまた明日」
「うん、また明日ね!」
俺は階段を下りていった。多分、理奈ちゃんはまだ俺を見てくれてるんだろうな・・。
振り向いて「じゃあね」って言おうかとも思ったけど、俺は振り向けなかった。ちょっぴり恥ずかしくて・・。
下の階の扉の前に着くと、上の階の扉が『ガチャン』と閉まる音が聞こえた。
俺はそれを確認して前の扉を開けた。
「ただいまー」
「お帰り」
ん?なんとなく母さんの顔がニヤけてる。気のせいか・・?
「蘭、お帰りー。理奈お姉さんと何話してきたの?」
「えっ?!」
なるほどね。それで母さんニヤけてたのか。
「理奈ちゃん、階段のところで待っててくれたって?!」
「うん」
「蘭達が行くの知ってたのかな?」
「さあ」
そう言われてみれば、何で理奈ちゃんはあんなところにいたんだ・・?それさえも聞けなかったなあ。
もしかして理奈ちゃんの予感!?
そして俺は今、ベッドに横になっている。この真上には理奈ちゃんがいるんだよなあ!
そんなことを考えながら、俺は眠りについた。もちろん、夢の中で理奈ちゃんに会えることを願いながら・・。
お休み理奈ちゃん。